第38話 ローザと汚物と不思議な種

元は毒の沼のあった大きな窪地。

そこで、ミーナとローザは目覚める。もう嫌な匂いがまるで残っていない、爽やかな森の香りに包まれている。


「うーん! 気分爽快なの!」

ローザはミーナと整理した状況をオーバーマインドに送ってある。

「まるで生木を食べたのが嘘みたいですわ」

あと、醜い罵り合いをしたことも。そのへんは根本的にどっちも子供だった。

山羊か野生馬なら生木を食べることもあるから、大丈夫なハズではないかしら……とミーナは哺乳類の尊厳を守れたことに安堵する。


「じゃあ行こっか、なの」

荷造りを終わって、ローザは笑う。

「ええ、あの場所に」

ロバの馬車は、帝宮が見渡せる丘に向かって轡を向ける。


丘に近づくまでは、すれ違う人の人相がどんどん悪くなっていき、そして人相が悪い奴すら居なくなる。

丘にある外宇宙生命体・ローザ本体のテリトリーに入ったということだ。


ローザは異質な植物が生い茂る草原で馬車を降り、丘のなだらかな頂で大きな種を埋める。

「はい、じゃあこの辺に要らないモノをバラ撒きまーす」

ゴブリンの集落で集めた武器食料や魚人の装備を遺体もろともバラ撒いていく。ゴブリンは右耳、魚人は額の鱗を剥がしていく。

巨大ウナギも生きている一匹を除き、沼の汚染された水ごと捨てる。ウナギの肝は売れるし討伐の印にもなるので収穫。


「ゴブリンキングはどうするんですの?」

ゴブリンキングは装備ごと再び収納。一本見つけたゴブリンの魔法の杖ほか何個か見つけた宝飾品も回収。ゴブリン用と思われる木の葉に象形文字みたいな何かを描いている束は、たぶん魔導書だと思われる。これも回収しておこう。

「ゴブリンキングはちょっと試したいことがあるから」

ローザは木の葉の束をまとめながら応える。


回収し終えた目ぼしいもの以外を、不思議な大きな種を中心に全てぶち撒けた。

「はい、じゃあミーナも離れて離れて!」

ローザはミーナの手を掴み、勢いよく積み上げられた雑多な山から距離を取る。

「地面に伏せて、行っくよー! ……3…2…1!」

帝宮の丘が爆発的に揺れ、すべてが地面から噴き出す幼虫の噴火に呑まれる。死骸はおろか、毒の瘴気を噴き出す汚水までも一切合切が丘に取り込まれる。


「じゃあ帝都に戻ろ、戻ろ!」

ローザはミーナをそのまま馬車に詰め込み、帝都へと急ぐ。ミーナは釈然としないながらも馬車に押し込まれ帝都へと戻った。

 終わってみれば、距離も短ければ空けた時間もたった1日という短い冒険というか出張だった。


「おや、早い帰りだな、ちびっ子姐さん。そっちの姉さんは……女っぷりが上がったね」

 帝都の門をくぐると、顔馴染みの衛士が声を掛けてくる。

「ただいまなの〜」

と言いながらローザは愛想を振り撒くが、ミーナはピチピチのバトルスーツを迂遠に褒められている。

 つまり、全く痩せてないということだ。

 ミーナは若干憮然とした表情のままローゼス系列店を回って声をかけ、清算の為に冒険者ギルドへと向かった。


 両開きのスイングドアを押し開く真っ赤な人影、もちろんミーナだ。その影に付き従うのは、ローザ。

 客として屋台をよく利用している冒険者たちも、ギルド内に来たローザを見るのは初めてだった。

 帝都ヴァチカニアを牛耳る一角へと成長しつつある屋台フランチャイズ『ヴァチカニアお店やさん屋台共同組合』、通称ローゼスの元締めが、冒険者ギルドにやって来た。


距離的にはご近所さんだが、まさか本人が来ることがあるとは思ってもいなかった。

「まあ元締め、いつもお世話になってます。今日はどういったご用件で?」

受付嬢は最大の愛想笑いを浮かべる。

「今日はミーナのお供なの」

ローザも満面の笑みを浮かべる。

「ローザと一緒にちょっと冒険に出ておりましたの。とは言っても、一泊二日ですわ」

「精算ですか? じゃあミーナさん、査定カウンターにどうぞ!」

「ローザはその間に、冒険者登録するのん」

ローザは受付に陣取り、登録用紙に書き込んでいく。


ミーナは査定カウンターに向かい、討伐したモンスターの部位を並べていく。


ゴブリンの右耳と、魚人の額の鱗、巨大ウナギの肝を並べる。しかもそれぞれ何十個も。

「相変わらず凄いね、ミーナ。ウナギの肝を取れるようになったのかい?」

「ええ、これらの査定をお願いします。あと、ウナギの肝はローザが使うそうなので、処分は不要でしてよ」

「さすが、元締めともなるとしっかりしてるねえ!」

査定のお姉さんも、感心する。

「……あと、ちょっとここではお見せ出来かねるものがございますの」

ミーナは小声で囁く。

査定のお姉さんは無言で顎をしゃくり、裏へと誘う。


冒険者ギルドの登録が終わったローザは、査定カウンターの裏から血まみれのエプロン姿で深刻な顔をして2階に駆け上がる、査定のお姉さんを横目で流し見る。

「ここまでは予定通り、なの」

ローザは小声で呟いた。

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