第33話 怪しい装備はキャンプ屋さんで

ミーナがビアンキ総業から飛び出したとき、向かいの事務所からも人影が現れる。

高級ではあるが悪趣味な出立ちの中年男、成金である。


「おう、嬢ちゃん、しばらく見ねえうちに随分と……」

そこから言葉がなかなか出てこない。

「お……女らしくなったな」

パッツンパッツンになったバトルスーツを指して言葉に困る。

「真っ昼間っから感心しねえな、その格好は夜だけにしときない」

「違いますわ! わたくしは冒険者になったんですの! ほらギルドの割符もあります!」


「冒険者か……ある意味、夜の女になるより親不孝だねぇ」

成金は冒険者ギルドの割符を眺めながら嘆息する。

「あ、そんなことより護身用具ありがとうございました。とても役に立ちましたわ!」

「アレは、そんなに出番があるようなモンじゃ無いはずなんだがな。ちょっと一式見せてくれ」

成金の手の上には確かに使い込まれた暗器の数々。特に軍用スコップとワイヤーソーは禍々しい風格さえ滲ませている。

気休め程度に買ってあった護身用具とは思えない。


「まったく、見上げたもんだよ。ただ、いくつかガタが来てるのもある。武器屋の防犯コーナーで買い足しときな」

「修理すれば使えるんじゃありませんの?」

「こんな安物は、使い捨てみたいなもんだ。クズ鉄として売って新品を買った方が安い」

それにしても、このワイヤーソーは使い込みが半端ではない。

「刃がガタガタじゃねーかい。木でもまとめて切ったのかい?」

「いえサイクロプスの首を……」

成金は呆れる。

「そんな腕があるなら、この店にも行きな」

 2枚名刺を受け取るミーナ。

「キャンプ用品店……と、誰ですか? この名前」

「俺だよ、おっと声に出すんじゃないぞ。名前は偽者だが、俺だと分かる細工がしてある」


ミーナは礼を言い、まずは武器屋で装備を新調することにした。

武器屋は本当に既製品を売るだけの店らしく、魔法の一点ものなどは全くない。むしろ、武器も扱っているホームセンターだ。

むしろ驚くべきことに武器より農機具や肥料・燃料が多い。まずは罠からいろいろ幅広く使えそうだ。買いだめしておこう。

肝心の暗器だが、ほとんどが防犯コーナーにひとまとめにして置かれていた。

短剣以外は武器らしい武器がないと言われ悩んだが、結局手斧も新しく購入。宇宙海兵時代のバイブソーがあれば何でも切れるので無用とも言えるが、とにかく静穏性が全くない。

ピチピチのソフトレザーの真っ赤なバトルスーツ姿は若干ヒソヒソされたものの、買った内容は荒れ地をガーデニングする時の典型的な資材と防犯道具そのもの。

なんだか分からないが、いかがわしいお店のお姉さんが壊れた店だか庭のガーデニングをすると解釈され、お店を聞かれたりしたがと答えるにとどめる。


……次は成金に紹介されたキャンプ用品店だ。

筋肉質な店員が、できる範囲で愛想良く振る舞っている。

小じんまりしているが、ホームセンター的な武器屋よりは売っているもの自体が高品質だ。

キャンプ用品、寝袋、着火具……そういうものを選んでいく。お会計の時、預かっていた名刺を差し出してみる。

割引きになるかもしれない。

「……ウチの名刺がなにか? あとこの名刺なんですか?」

「あー! これはこれはお客様! ようこそいらっしゃいました……ほらお茶を用意して!」

少し身なりのいい男が名刺と聞いた途端に現れる。

「え、お茶ですかぁ?!」

「ええい、この方は特別なお客様なんですよ!」

「はあ……分かったっす」

店員は躊躇ちゅうちょなく、キャンプ用品の中で一番高い茶葉を入れる。

「それで、どのような御用向きで……」

「護身用具が欲しくてまいりました」

成金から貰った護身用具を並べる。

「護身ですか、これはまたずいぶん使い込まれた暗器ですね……」

特にワイヤーソーと軍用スコップの使い込みは尋常じゃない。

そのくせ、リベット付き棍棒や短剣といった接近専用の武器がましいものは、割と普通だ。

……敵と戦う時は奇襲メイン、飛び道具も毒の吹き矢がメインで投石器はあまり使ってない。

むしろブラックジャックのほうが使い込まれている。


「なるほど……少々お待ちを」

キャンプ用品屋の主人が持ってきたのは鋼線、スリングショット、吹矢……それに軍用多機能スコップが2本にザイル。ちょっと良いキャンプ道具一式も添えて。

「あの、コレは……なんでございますの?」

「プロ冒険者の道具でございます」

ちょうど、バトルスーツのあちこちに隠せるようになっているのも良い。

ケースの端には、小型のナイフ。

「狩猟用ナイフでございます。オーガやゴブリンみたいなのに向いたものと、解体に向いたものがございます」

解体用ナイフは慣れれば羆でも一本で解体可能らしく、狩猟用は……まあ二足歩行相手なら充分とのこと。

「全部いただきますわ」

ジェルソミーナは即断する。

「でしたら、他の武器もまとめて下取りと研ぎとメンテナンスに出しますか」

「これらもどうにかななりませんこと?」

ワイヤーソーと銑鉄の兜も混ぜてみる


「ワイヤーソーは鋼糸とゲルマン民国の軍用スコップで代用いただくとして、他はメンテナンス承りました。ただ、気持ち悪い兜はどうも……思いのほか強力な魔法でガッチリ固められています」

「下取りも無理、ということでしょうか?」

「他のものは、しっかり整備させて戴きます。おまけに、装備の簡易メンテナンスセットもお付けしましょう」

キャンプ用品セットと込み込みで、金貨が17枚も飛んでいった。また大きな出費だ。

「夕方には完成しますから、またおいでください」

夕方まではちょっと時間があり過ぎる。

冒険者ギルドで仕事でも見繕うか。そう思い立ってギルドのドアを潜った。

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