第32話 一人しかいないエエ身体四天王
ミーナが壮大すぎる夢から目覚めると、水中だった。
「予定通りだねミーナ」
ローザはニコニコと微笑む。
「……ミーナちゃん! 良かった、本当に起きたのね」
ビアンキの母親がミーナを引き上げる。
『ビアンキ総業には、ミーナという名前で教えたからね』
そう言えば、こんなに居座るつもりはなかったから、ただビアンキの友達としか言ってなかった。
『分かった。それにしても、この水槽なに?』
頭に蝶もいないのにミーナと会話が出来る。
頭も冴えたままだ。その冴えた頭が、解答を導く。
「もしかして、ビアンキの水槽?」
「そうよミーナちゃん、ビアンキの水槽が奇跡を起こしたの!」
ビアンキの母は涙を流して応える。気絶してからずっとこの水槽に入れられていたということ?
ミーナは、息を切らせてビアンキの水槽から這い上がる。
「う……身体が重いですわ」
それもそのはず、ミーナのヘソには太い臍の緒が水中から伸びていた。
その先には、クラゲよりも透き通る大きめの人間の胎児のようなものが光の加減で見え隠れしながら蠢いている。
ミーナはありがとう、と念じながら向上した反応速度のワイヤーソーで臍の緒を斬ろうとする。臍の緒は切断より素早くアッサリとミーナの腹から離れ、より薄い濁りのようになって水槽に溶け込む。
あの顔は間違いなくビアンキだ、ただし恒星に寄生していた何かの死体の一部で出来ている。
服を取りに向かったおばさんを見送り、ローザを見やる。
「姉様、いろいろ聞きたいことはあります。まずは、どのぐらい時間が経ちましたの?」
「1ヶ月ぐらいかな」
「1ヶ月……ま、まあ意識が回復しただけ良しとしますわ。ところで、なんの根拠があってビアンキの水槽に?」
「ビアンキの水槽の中に居る怪物に余計な作業をさせて、成長を遅らせる為だよ、だよ」
「わたくしのパフォーマンスアップは事実ですの?」
「全神経系は組み替えられ、認知力や魔力も増大し、70パーセント近く効率化。やったね!」
「さすがです姉様!」
「あと体重も10パーセント増量して、よりスピードとパワーが上がってるんだよ、だよ!」
ローザはさりげなくとんでもないことを言った。
「……は? 姉様いま一体なんつった……んでしょうか?」
やっぱり通らなかったか、ローザは悔しそうな顔をしている。
そこに、ビアンキの母が服を持って戻ってきた。
「あらあら……あら? あら〜……」
なんとかミーナを誤魔化す為に言い繕おうとしローザの顔を見て、計画が初手から潰えたことを察した。
ビアンキの母はなんとかサイズを取り直した真っ青なロリータ服を渡すのを一旦は諦め、真っ赤なバトルスーツを渡す。
「やっぱり、若干ふくよかになった感があったのは、水槽に浸かってるのが原因の見間違いじゃなかったのね」
ミーナはバトルスーツに肉体をぎゅうぎゅうに詰め込みながら、2人の釈明を聞いている。
「やっぱり胸とお尻が大きくなっていくように見えたのは気のせいじゃなかったのん」
ジッパーがなかなか上がらないバトルスーツになんとかワガママっぷりが増したボディを閉じ込め、ローザの蜂の巣入りランドセルを背負う。
「ちょっと痩せてきますわ!」
そう言い残し、ミーナはビアンキ総業から飛び出す。
「……ビアンキ、あれだけ言ったのにミーナちゃんをあんなに太らせて……いったい何がしたかったの?」
母は水槽に向かい、途方に暮れる。水中にうっすらと現れるビアンキの顔は、少しだけ満足そうだった。
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