第30話 冒険者貧乏脱出計画

さて、まとまったお金も手に入った。


ミーナは侯爵家令嬢時代はよくお忍びでショッピングに来ていたものだ、と感慨に耽る。


今日は、この世界の標準的な防具屋でお買い物をするのだ。


宇宙空間でも戦える強化外骨格・ゴライアスやピチピチにボディにフィットするエグゾスケイルメイル・フューリーはあるにはあるが、とにかく静穏性と無闇に光るところに大いに問題があった。

フューリーにはそもそも斬撃がほぼ無効で、殴られても全身にダメージが分散されて足から逃げるようにできていた。

しかし、この装備でも宇宙ではバンバン海兵が死んでいた。

ゴライアス装着時には、5メートル近い身長のサイクロプスにすら逃げられそうになった。

宇宙空間では最低限の格闘兵装だったけれど。


そこで、この世界の装備で戦おう、という流れになってのお買い物だ。

「ごめんください、鎧一式いただきたいのですが」

「いらっしゃませ、お客様の戦闘スタイルはどのようなモノでしょうか?」

若くて愛想のいいイケメン店員が答える。


「いろいろ全般的にうっすらと齧ってみた感じです。オススメはございませんの?」

「うーん、実際どのような武器の流派なのかでオススメも替わりますので」

ミーナは成金から貰った武器を、空間から取り出してみる。


「リベット付き棍棒、軍用スコップ、投石器と石30個、ワイヤーソー、毒の釘20本と吹き矢、ブラックジャック、なにこれ真っ二つに割れた気持ち悪い兜……あとは、ショートソード。マトモな武器があった! お姉さんひょっとしてヤクザ屋さんですか?」

いわゆる暗器ばかりの武器にかなり引いている。おかしい、成金に貰った護身用品ばかりのはずだ。

許されざる物アンフォーギブネスや宇宙海兵の装備は出さなかったのにこの言われよう。


「全部頂きものですわ! 護身用? とかで!」

使った跡がある護身具というのは嫌だ。

「……分かりました。オールレンジで奇襲メイン、動きやすさ重視のソフトレザー製のバトルスーツでいかがですか?」

「洒落た感じのはございませんの?」


「うーん……ひとつ特別なのがありますよ!」

イケメンが出してきたのは、真っ赤な皮のバトルスーツだった。むしろレーシングスーツに似ている。

フューリーにもよく似た感じだが、胸当て・肘や膝当ても装備できる優れものだ。

追加の部分装甲混み、ガムテープにしか見えない応急処置キットがオマケで付いて金貨20枚。

「……思ったより痛い散財ですわ」

「これでも特価品でお安くなっています!

……まあ、元の依頼者と違って何するのか分からないですけど、本当に冒険者ならばキャンプキットや保存食、最低限の簡易浄水器も必要ですね。あと薬も」

「……完全に赤字ですわ」

「命に関わる問題ですからね、ここでお金を惜しむと後悔すらできなくなりますよ」


「お金かかりましたわ〜!」

比較的軽装でも結局金貨30枚。賞金だけだと完全に赤字ですわ!

結構がめついな、ローザは嘆くミーナを見ながら思う。

「ミーナ、って知ってるかな、かな」

「冒険者貧乏……なんですの? それは」

「冒険者貧乏というのは、冒険で稼いだ額より装備のメンテナンスやポーション代がかかる連鎖。だよ? 破綻したビジネスモデルというべきだよね、だよね」


そういえば、除隊した海兵が傭兵会社立ち上げたのはいいけど、結局軍に出戻ったりしてたな。ミーナは自省する。軍では戦闘時はコストとかをまったく考えていなかった。

兵隊ヤクザ相手に調達屋がやれてたのも、軍という看板があってこそ。


「まあ、ミーナは暗殺や破壊活動は凄いから、今後は派手に暴れる時は出来るだけコレ使って」

ローザから甘い匂いのするランドセルを渡されている隙にローザの蝶がミーナの頭に留まり、サクリと口吻を突き刺している。


ミーナは気付かずランドセルの中を見る。

ローザのミツバチとしておなじみの、ミツバチのふりをしたオオスズメバチの巣だ。

「ミーナの言うこと聞くようにしてるし、視界も共有できるように、今してるから」

「え? 姉様ちょ……」

「そろそろオーバーマインドとのリンクも完了。この世界の五行の元素魔法と、ローザとミーナの六目の物理法則を組み合わせた新魔法をインストールするよー」

『新魔法をインストールします』

ミーナが未知の概念の奔流に流されながら意識を失う寸前、頭に響くのはオーバーマインドの新魔法大系と、昆虫たちの思念だった。

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