第29話 インターネットをおねだり

「……ふーん、そんな事があったんだね。おつかれおつかれ!」

ローザはミーナの割符を眺めながら、冒険者ギルドの愚痴を聞く。

ギルドからの総支給額は、なんと金貨20枚!

1ヶ月山の中を走り回って帝国臣民の平均月収の3倍強!

3桁は亜人とか山賊とか倒してそれって、割りに合わなすぎませんこと?


「わたくしが知ってる限りでは、もっとこう筋力とか魔力みたいな能力値があって、冒険者ランクみたいなのがあって、なんか便利な感じでしたのに……なんにもなくて、ただの割符」


「うん、本当にただの割符だねえ」

「ギルドカード欲しい! 魔法でも電波でもいいから、せめてスマートフォンの機能も欲しいですわ! グループウェアで管理して……グループウェアってなんだっけ、姉様知ってますか?」


「知ってるけど、でもでも」

ミーナが海兵時代には、皮膚に回路図を直接プリントしていた。つまり刺青なので絶対無くさない。

それよりはるか昔の、板みたいなヤツでもいいと言ってるのだ。まあ、欲しいのが紙とかじゃないだけまだマシかもしれない。


……うーん。出来なくははない。

魔法依存だと簡単だ。

ハエと蛆虫をアップデートすれば人間の全神経網をネットワークの管理下に置き換える事が出来る。むしろ既にやってる。でも……

「作ってもいいけど、確実に戦争になるの」


木と昆虫の生体魔力に依存してネットワークを二重に構築する。サーバーとストレージは既存の偵察用オーバーマインドで充分対応可能。

板も簡単に作れる。

板はガラスに特殊な塗料を塗っただけのもので、魔力は利用者負担。模造し放題な上に変な魔法陣アプリを作るやつが絶対に出てくる。ヴァチカニアの国民性だとそうなるだろう。

うん、やっぱりダメダメ。

「蝶々のアップデートしとくから、それで我慢して」

ローザはミーナの頭を撫でてなだめる。

「そうだ、これからはギルド提出用の右耳以外の部分はローザが引き取る!

丘に一本、木を生やしておくから装備もまとめてその辺に捨てておいて。重さに応じて貨幣で払うの」

ミーナ専用質屋さんも開店するもよう。質草をなんに使うのかは聞かない。

そもそもどうやってハチミツのお店やさんで儲けてるのか、まったく分からない。


「無一文で丘に来る人間、あんまり居ないの」


当然持ってる武器や防具も食べて栄養に出来るが、貨幣は使いどころがあんまりない。特に金は溶かして加工してもしょうがないので、そのまま取ってあった。

ハチミツのお店屋さんは、備品代その他の経費を引いて、月収金貨5枚ほど。

組合とローゼスのフランチャイズからの収入もある。


「ちなみに、どのぐらいお金持ってるんですか?」

「ミーナが言ったら教えてあげるの」

「報酬と暗殺教団とか山賊から貰ってきた分を合わせて……金貨で250くらいかな」

賞金がかかってない首より、

「そっか、ローザは手持ちで金貨7枚なの」

圧倒的勝利をミーナは味わっている。

ハイヴには金貨だけで3万枚以上持ってることはしばらく内緒にしておこう、ローザは思った。

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