第27話 ビアンキの秘めたる想い

ここは仮王宮という名の会議室。

ビアンキの父は、景気刺激の為の案として宮廷跡地への水族館建設案を奏上してきた。

ザンパーノは案を通しで3回読む。予算配分は完璧、収支計画は帳尻合わせの無茶なところが全くない。ただ、

「図面の中心の大きな敷地にポツンとある、この小さめの水槽はなんだい?」


ビアンキの父の目から、大粒の涙が零れ落ちる。

「厚かましくもお願いします。これなるは我が娘ビアンキの遺灰から出来たガラスで作った水槽に御座います。成長する水槽で、親馬鹿の贔屓目かもしれませんが、かと愚考します。


ビアンキの聖なる力の残滓で、ゴミや死骸の類は消えるようになっています。この閉じた水の楽園を、帝国臣民の皆様にもご覧いただきたく!」

会議場に堪える男泣きの呻きが広がる。神聖教会の平民聖女は、死してなお陛下を想うのだ!


「いいね、これで行こう。

僕の家の近くだから、通えるのもいい。

いつか妃探しをしなきゃならないだろうけど、それでも子供を連れて通ったら、僕はどんな気持ちになるんだろうね……」

ザンパーノは、予想通りビアンキは心臓を刺して燃やしたぐらいでは殺せない事を痛感する。そしてこの予算書と収支計画書だ。

完璧過ぎて面白い。俗っぽくて田舎臭い、おばちゃんしか思い浮かばないような名前だが、


異常に繁殖が早い特定侵略的外来種が勢揃いの、見るものが見れば凶悪すぎる水中の独立した生態系・ビオトープだった。誰も気付いてなんだろうか、ザンパーノは考える。


確かに綺麗な大水槽だけど、

どう見てもとても美しいが、

とてもマズい生き物も混じっている。

だいたい半分以上。

大きく、美しく、そして美を競い合う。

地上に展示されて万民に安らぎを与えるために『ザンパーノ陛下の想いびと』の遺灰で作られた、だ。


ビオトープの仮称は、『秘めたる想い』と言うらしい。

……こんなあからさまな特定侵略的外来種で一杯の『秘めたる想い』って……ある意味凄いな。ザンパーノは感心する。

僕なら『世界最悪の水槽』とか『呼び出されたら色んな意味で不味い場所』とか『ザ・自己顕示欲』とかにするよね。


ザンパーノはそう思っていたが、口には出さない。

この謎かけは、一考に値する。


それより大爆発で消えた銑鉄の兜をどうするか。

絶対破壊不能で五行の魔法を完全に封印し、被せれば魔王でもただの人になると聞いていたんだが、伝説とは存外アテにならないものだとザンパーノは心の中で呆れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る