第26話 ザンパーノ最初の勅命

軍には、新皇帝ザンパーノとしての最初の勅令

「丘への出入りはしても構わないが、死んだり行方不明になった者は

を出して、理由はやはり一切説明していない。

冒険者ギルドも、ギルドマスターが悩んだ末に、軍に倣った。

意図が読めなさすぎるからだ。


コレを機に皇帝を引き摺り下ろそうと反発した反ザンパーノ派の貴族が、私兵を率いて帝宮の丘に出向き、当然髪の毛一筋も帰ってくることは無かった。

もちろん、貴族も爵位自体が2段階降格になる。そのうえで不名誉退位で親族に爵位が譲られるという厳しさだ。


やっぱり理由は説明されなかったが、2段階下がったとはいえ爵位が転がり込んできた甥っ子や姪っ子の次男三男は喜んザンパーノに忠誠を誓った。


でも裏切り者の血がそうさせるのか、継承されるたびに丘に派兵しては階級を下げ続ける元公爵家は、最後には准男爵という最下位の貴族になってもまだ派兵し、次からは立派に一般市民より下の単なる国籍者にまで落ちぶれるまでになった。


途中からは役所、最後には監獄で降格手続きがされるようになったが、国籍者になる者の時にはわざわざ帝宮に呼び出された。

「さて一般市民、キミには選択肢がある。爵位を継ぐかい?」


最後の伯爵家の傍流は、三代ぐらい前の曽祖母が伯爵家の次男の愛人だった時期があったとか。そういえば酒に酔った母方の祖父が祖母を殴るときに、そう言って侮辱してた事があったのを思い出す。

徹頭徹尾、陛下の最初の勅令に逆らい続けて死に続け、今やその馬鹿っぷりの代名詞となった恥ずかしいだけの家名。

しかも、市民より下の『』になるというのだ。

国籍者は納税の義務がない代わりに、さまざまな制約がある。都市に滞在時には毎週滞在許可を申請するなど、ほぼ犯罪者扱いだ。


「滅相もございません! 陛下のご厚情に感謝しながら、市井の一般市民として今後も生きさせてください!」

哀れな市民は平伏する。

「じゃあ分かった、爵位と家名は今代で断絶。衛兵に申請して、お土産受け取って帰ってもらっていいけど、それでいいかな?」

「……逆に考えて、こんな爵位、誰もいらないのでは? ……あ! 失礼しました!」


あまりにもフランクな会話に、ついツッコミを入れる。言ってから、ますます震えながら平伏する。

「いいよいいよ。あ、いやこういう時は『苦しゅうない』って言うんだっけ。

普通に考えたら、そりゃそうだよね。のに、残念だよ。

まあこの件も内緒でもなんでもないから、酒場で大いに怪談にでもして? 『帝宮怖い話』みたいなさ。僕、いや朕からの勅命である……なんちゃって」

やはり、勅令の

「丘への出入りはしても構わないが、死んだり行方不明になった者は2階級『降格』のうえ不名誉除隊とする」

は理由は一切説明されなかったが、のだろう。

理由の説明よりむしろ、分かりやすく結論だけ教え、またしても理由は後で実例で証明された。

ついでに冗長性という言葉のを真の概念が理解出来てないのに多用して、鹿、国は健康になる。


生きた心地がしなかった一般市民は、帰り際に下賜された物体をしげしげと眺める。

刷新された神聖ヴァチカニア帝国の大胆過ぎかつシンプル過ぎる紋章が入った、見たことのないパズルだ。

「……言っておくが、これはザンパーノ陛下の手作りの新作パズルの試作品だ。来年の子供向け聖典雑誌の新年号の付録に付くものだぞ」

「本当に作ってたんだ……か、家宝にします!」


「いや、陛下は本気で見せびらかして、今回の与太話を大いに吹聴して欲しいとお考えだ。

……実は俺の任務は、このまま酒場に直行したおまえが今日の顛末を体験したまま言いふらすのを確認し、見せびらかした陛下のパズルを家まで持ち帰るのを確認するのが本命だ。


隠してないから言うが、陛下から今日の飲み代も預かっている。

予算は金貨3枚だ」

近衛兵は大真面目に言う。

金貨3枚とは豪勢な……俺の月収の半分ぐらいある。

月収の半額もの大金を……あれ?

もしかして予算的に、けっこう渋くない?

市民は考える。


「金貨3枚は陛下がパズルを開発する時の材料や工具購入の総予算と同額だぞ、陛下は自らに厳しくていらっしゃる。

もちろんパズルの開発費用も全く隠してない。


改めて命ずる。できるだけ大勢の人間がいる、お笑い芸人や吟遊詩人の居る飲み屋に今すぐ向かって責務を果たせ、

近衛兵は、初めて笑顔を向けた。

こうして、ザンパーノは単なる事実をもって世論を誘導しているのだった。

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