第24話 結成! 水槽なんとかするぞの会

「うわあ……とてもきれいなの!」

ローザは満面の笑みを浮かべているが、その瞳の奥は目まぐるしく動き、何かを考えている。正確には複数体のオーバーマインドたちがパニックを起こしている。

「わたし、見た事ないの! 絶対なの!」

ビアンキの店に設えた、かつてビアンキだった水槽。


「前にわたくしが見たときより随分と……」

随分と……そこから先の言葉に詰まってしまう。

巨大なガラス水槽のような生き物『それ』は巨大化を遂げていた。そろそろ店の外に運び出せなくなりそうだ。


ビアンキの父は扱いに困り、母は水槽への餌やりに精を出す。水槽に何かが飼われてるわけではない。水槽自体が放り込まれたものを、ほとんど何でも食べているだけだ。

ローザはしばらく停止し、丘の地下に埋まるハイヴに情報を送り、凄まじい集中力でオーバーマインドを並列起動させる。


ビアンキの水槽の巨大化。

ミーナにはここまでやっても殺せないぐらいにしぶといとは分かっていたが、まだ成長するとは一体どこまで生き意地が張っているのか!

「『なんとか』なりませんの?」

ミーナはローザにヒソヒソと耳打ちする。

ローザは言われずともその『なんとか』の手段を、いま考えているところだ。


まず考えたのが、『

この世界を早めに損切りして、出来るだけ遠くにある地球型惑星に行く事だ。贅沢は言ってられない、水棲生物レベルが生きている世界ならこの際文句は言えないだろう。

ただし


次に考えたのが、『

出来るだけ高温の恒星、たとえば超新星にビアンキだった迷惑な物体を棄てるのだ。

流石に超新星爆発後にブラックホール化する星に棄てれば死ぬ。

たぶん死ぬんじゃないかな。

死んで欲しいと思う。

まあ生き残る覚悟はしておこう。

超新星爆発後も生き延びて、大変だ。


その次に考えたのが『

物理法則を曲げて、元から存在しなかった事にするのだ。

この世界の人類とそれ以前に存在した何か発見した魔法・五行と宇宙海兵を生み出した人類の獲得した概念・だが、問題は時間不足になる。

神聖ヴァチカニア帝国臣民のような都合の良すぎる数学知性体を全部使って量子並列化しても、最低400年はかかるだろう。しかも、ザンパーノと同程度の頭脳の持ち主に一瞬たりとも切らさずに統括させてやっとだ。


どれもコストがかかり過ぎる、ローザは結局最も泥縄式だが安くつくと思われるアイデアを考え始める。


ビアンキを水槽のまま、成長を止めるのだ。最悪でも、遅らせるぐらいはしたい。

そのための手段を、出来るだけ大雑把にする。水槽に適度な負荷をかけ続け、成長の余地を消すのだ。

手段自体はローザ的には得意な分野だが、自分が管理するわけにもいかない。直属の管理人が必要になるが、この世界にとっては新技術でもある。

研究者の一人ぐらいは付くだろうと思いたい。それに丸投げすればいい。

ローザは腹を括った。


「えっとね、おじちゃんとおばちゃんにも聞いて欲しいの」

ローザは内心苦渋の感情を覚えつつ、表面的にはキラキラの声と表情で話し始める。

『ミーナ、今から説明するから、指示通りに答えてなの』

ローザの声が、ミーナの頭に直接響く。

ミーナの髪飾りのフリをした蝶が止まっている。なるほど、この蝶にはそんな機能もあったのか、と感心する。


「ローザね、水族館がいいと思ったの」

『ミーナ、木の葉を隠すには木、木を隠すには林なの。むしろ大規模公共工事のなかの目玉アトラクションにする方向性で行くなの』

「水族館工事? いま帝都がこんな状態なのに……すいません、夢見がちな子で」

ローザの耳打ち通りにミーナは言う。


「いいのよ、馬車を見ておばちゃんは分かってる。ハチミツやさんは賢い子だものね」

なにも分かってないな、ミーナは呆れた。

ビアンキの母親は1ミリも侮れない、ローザのオーバーマインドは戦慄した。

「そうだよ、ローザのお姉ちゃん。どうせ帝宮は新しく建てたほうがマシなぐらいだ。あれ? ならばいっそ廃材を再利用して同じ位置に市民の憩いの場があれば……」

「いいですね、そこの片隅にビアンキ水槽を置くんですか?」

「ローザ、真ん中に置くほうがビアンキちゃんもザンパーノ新陛下も喜ぶと思うの!」

「まあ! そんな大それた……どうしましょう! ビアンキは魔法のアーティファクトになったの? 国宝なの?」

女性陣はノリノリである。まあ、厳密にはビアンキ母だけだが。

「……うむ、ビアンキの水槽は、だからこそ巨大化……育っているのかもしれん」

絶対違う。

ミーナもビアンキも、思いは同じだった。

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