第22話 不審人物姉妹、さすがに衛士に捕まる
ゴスロリの姉に、ぶかぶかのヤンキージャージの妹。
姉妹が、帝都の門を潜る。目立つ別嬪さんは通るたびに物持ちっぽい風体になっているが、今度は動くお花畑にしか見えない飾り付けで装ったロバの小型馬車に、妹っぽい子まで連れている。
「正門を堂々と通るだけマシか」
と今まで見逃していた衛士も、さすがに声をかけずにはいられなかった。
「あー、ちょっといいかな。キミたち」
「……はい、なんでございましょう?」
ゴスロリ娘は澄んだ声で応える。真っ白な髪と肌に細かな細工の、黒いミニのロリータ服。赤い瞳に、衛士の心が吸い込まれそうになる。
「どうしてしょっちゅう、帝都を出入りしている?」
「……わたくしたち、おうちが帝宮の爆発に巻き込まれてしまって……」
ミーナは答える。
「そ、そうか……家族の方はいないのか」
「その為に、丘の近くまで探しに行ったのですが……家族は姉妹しか生きていませんでした。裸同然の酷い格好でしたが、せめて姉妹だけでも命があってなによりです」
「なるほど、だからそんな変なヤクザジャージを……ってそれ、裸一貫が譲ったジャージの話って本当だったのか!」
「ええ、わたくしが貰った服を、姉妹に着せています」
裸一貫は衛士に覚えられるぐらいの知名度はあるようだ。
「そういうわけで、姉妹が着るようなかわいいお洋服屋さんは、ご存知ありませんか?」
「若い娘が着る洒落た服か……ダメだ、ぜんぜん分からん! 隊長ー、隊長ー!」
「なんだよ忙しいんだよ書類がよ! で、どうしたい」
「若い女の子の服は、どこで売ってますか! こんな感じで美人姉妹です」
ゴスロリの姉とヤクザジャージの妹。
「このぐらいの娘が着る服か……俺が聞きてえわ、そんなもん」
「そんな、お嬢さん居るんじゃ……」
「居るからよけいに分からねえんだよ!
……あの剣聖様なら嫁入り前のお嬢さんが居たから知ってたかもしれねえが、帝宮が爆発した時に帝宮にいたみたいでな……結婚相手が例の侯爵のとこの男前の強者だったらしい」
「あ、なんか聞いたことあるっすね」
最若手の衛士が合いの手を入れる。すかさず、
「そういうおまえは妹とか彼女……まあそれはないか。初任給で買ってやった服屋とかないの? せめて母ちゃんに。
……ああ、オマエは買い食いで全部使う系のバカだった。
すまん、ゴソッとマルッと忘れてくれ」
隊長は、ひどい謝罪をした。
隊長はこれでも平常運転だったらしく、姉妹を詰所に案内した兵士は自分で質問しておいて自分で納得する。
「剣聖様なら知ってたかもな。
娘さんの婚約者のことは気に入ってたから。あの腕なら帝国の禁軍にも入れるのに、腹の赤ん坊のために除隊して田舎に引っ込むんだ、あのイモ野郎はと嬉しそうに誇らしそうに言ってたのが、今でも忘れられない」
衛士達はああ、と溜息をついてうなだれる。
生き汚く戦って、それでも死ぬ。そんな長生きし過ぎた宇宙海兵の部分には、思うところがあった。
そんな湿っぽい場に当然のように、ふんどし一丁の男がやって来た。
普通は捕まる、ミーナは思う。
「おっす詰所のオッサンども、なにシケたツラしてんだ。キリキリ働けよ、この服を着る間もない裸一貫の兄さんみてえにな!
……あ、コジキ姫じゃねーか? その俺がくれてやったジャージ着てるちびっ子は誰だ?」
「お久しぶりですわ、裸一貫さん。こちらはわたくしの姉妹ですの。そちらこそ、何か御用があって詰所に来られたのでは?」
「ごきげんよう、裸の人。ありがとう、ありがとうね」
「よ、よせやい……そうそう、詰所の弁当の注文用紙受け取りに来たんだよ。早よ書かんかい。さもなきゃしばらく昼はメシ抜きになるぜ」
詰所の衛士達は、弁当の注文用紙に必要事項と名前を書かされ、裸一貫は呼吸するように暗算で導き出した金額を書き込む。銅銭一枚たりとも誤魔化してない。
「ふーむ、裸一貫のとこは帝国の一大事だってんで、表業一本でやるっていう話だが、どうやら本気っぽいな」
詰所の隊長は見積もりを読み、若干明るい雰囲気を持ち直す。
「こんな御時世にチマチマ小銭誤魔化すのは、むしろタチの悪いカタギかセコい半グレだけだっつーの! なんで俺がそいつらシメて回って衛士様が詰所でお通夜キメてんだよ税金泥棒」
裸一貫の発破は、衛士達に沁みた。
「じゃあなちびっ子、コジキ姫。ビアンキ嬢ちゃんのオヤジさんに伝えとくぜ、アンタの娘の友達が、ただでさえ女っ気のない衛士に囲まれて大変だってな!」
ふんどし一丁男は紙束を掴んで走り出す。
「裸一貫、もしかしてちょっとづつまともになってきてんですかね」
「ああ見えて本来、裏より表で稼ぐ方が性に合ってんだろ。しばらく様子見だな」
しばらく後、ビアンキの父親と母親までもが憮然とした表情で詰所に現れ、ローザとミーナを改造済み馬車とともに回収していった。
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