第19話 ビアンキの形見の水槽、もしくはそんな何か
今度こそミーナは道をわたり、ビアンキの実家の商店へとたずねる。
「ごめんくださいまし!」
ミーナは声をかける。店内は多忙を極め戦場さながらであった。
「ああ、ビアンキのお友達さん。よく来たね」
ビアンキの父は微笑む。
数日と経ていないが、ビアンキの実家も帝都復旧に駆り出され極めて多忙だった。まず建設現場用の食料品から飼葉、建築工事用の資材まで、国中からかき集める必要があった。
その資材が尽きる前に、近隣諸国から物資を輸入しなければならない。
そんな複雑な調整の中でも、最優先で忘れない。
かつてビアンキだったガラスを融解し、美しいガラスの水槽に生まれ変わらせるのだ。
もっとも、本来のビアンキのガラスの量では金魚鉢ですら怪しい。しかもそのガラスは神聖魔力という名の放射能で汚染され、しばらく直視すると色々と不味いことが起きかねない。
やはり神聖教会本部の間近で産まれ成長までしたビアンキには強力な対放射能耐性が付いていたということだろうか。
だからビアンキのガラスを普通のガラスで希釈しうっすらと青く光る幻想的な水槽へと加工したのは見事というほかない。
「素敵です、ビアンキのお父様!」
全くもって見事。
「はは、ありがとう。でもね、問題があるんだ」
「まさか、鉱毒か神聖魔力汚染ですか?」
「……いや、魚が
とりあえず、ビアンキの水槽で起こる怪異。飾りの砂利や家の焼き物は消えてはいないようだ。しかも、少しづつ大きくなっているらしい。
まずは硬い貝を入れてみる。
翌日には貝殻ごと消滅していた。少し大きくなった。
次の日は、干した魚やハムも入れてみる。
やはり消滅。やはり水槽は大きくなった。
今度は野菜や稗を、個人用の浴室ほどまで育った水槽に満タンに詰め込んでみる。
思った通り、ぜんぶ消えていた。
思うところあって、腐ったジャガイモや生のキノコ、フグや木片やコンクリート片を敢えて入れてみる。
さすがにコンクリート片は残った。
ビアンキの母は心配そうに日々育つ水槽を見ていた。
「だいたい分かりました。ビアンキさんのお母様」
「な、なんでしょう」
「たぶんこの水槽は、水槽じゃなくて生き物です」
「え」
「ごめんなさいね、ビアンキさん。お母様、今後はせめて食べられるものをあたえてください。木屑とか生の稗でも充分みたいですが」
そして、次の準備があると言い残してビアンキの実家を辞する。この間1週間ほどの間であった。
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