第18話 組事務所再来訪

ミーナの馬車は、帝宮とともに壊滅的打撃を受けた帝都のビアンキ邸を訪ねて、下町を征く。

その前に、成金と三下の組事務所にご挨拶をしないといけませんわ。


「ごめんくださいまし、ごめんくださいまし!」

最初は声を張り上げるだけだったが、いつの間にか手にしている真っ二つに割れた銑鉄の兜でガンガン扉を叩いている。

「うっせえな! ブッ殺すぞアバズレ……あ、なんだよコジキ姫か。えらく見た目が変わったな。で、なんのようだ」

ふんどし一丁の三下は若干瞠目しつつ、いかにも疲れ切った不機嫌な応えをする。


「いえ用と言うほどのこともないのですが、ザンパーノ陛下が布陣されていた丘に行ってまいりましたの」

「……ちょっと待てよコジキ姫、いまオヤジ起こしてくるから」

ガタガタと上階から音が響き足音が近付いてきた。


「嬢ちゃんじゃねえか。やはり着る物着りゃ別嬪べっぴんさんだったんだな。その衣装はビアンキ嬢のオヤジさんに貰ったのかい? そのでかい蝶々の髪飾りと蜂のブローチは、えらく出来がいい細工物じゃねえか」

「道向かいのオッサンにでも貰ったのか。ビアンキ嬢の形見とやらで」


「いえ、この子たちはある人のお友達。正真正銘生きていますわ」

「そんなデカい虫、見た事もねえが……嬢ちゃんが行ったっていう帝宮を見渡せる丘と関係があるのかね?」

「ええ、あそこで野営を始めるときに再会しましたの」

「そうか、他にはなんかあったのかい?」

ジェルソミーナはしばし、考える。


「なんにもありませんでした。むしろ、。もう戦場泥棒に根こそぎにでもされたんですの?」

「……いや、いい話じゃねえが、重要な話だ。

いいかい、あそこに行った連中は、帰ってきたって話は聞いてねえ」


「あらそうですの? おかしいですね、馬車を取り囲むように足跡はあったのですが」

「コジキ姫、その足跡はどうだったんだよ」

裸一貫は腕を組みながら応えを促す。

「わたくしが寝てるうちに、取り囲んだ馬車の包囲を狭めるように付いていましたが、見る限り誰もいませんでした。退

成金は天を仰ぐ。

「……そうですかい。そんな中でも寝ていられたと」

「ええ、夢の中でこの子たちのお友達と話をするのに忙しくて」

ミーナが立てた両手の人差し指に、蝶と蜂が飛び移る。

虫の考えは分からない。

しかし、危害を加えようとしたら殺す。それだけは痛いほど分かった。


そんな事しなくとも、瓦礫の撤去、非常食の手配、工事の入札、避難所の仮設と……金の匂いがプンプンする一生一度の儲け話だ。それにまず半歩ほど先手を打てた。

次にコレ、確証はなかったが禁軍が陣を敷いていた帝宮を見渡せる丘は、行けば必ず行方不明になると噂になりつつあった。


しかし、生きて帰って来た奴もいる。元はコジキ姫だった女が虫の形のアクセサリーに見える虫やオーガキングの兜とかいうお宝を掘り当て、とびきり洒落た別嬪の娘になって帰ってきた。


そこらへんの話は、このていで裸一貫が大袈裟に吟遊詩人に聴かせてやればいいだろう。ふんどし一丁のコイツは馬鹿だがお嬢ちゃんを直接見てるし、

いくらでも想像が膨らむってもんだ。


成金には成金なりに、やるべきことがある。

丘にはよく分からない怪物がいて危ないが、今なら女一人でも拾えるかもしれねえ帝宮と神聖ヴァチカニア帝国の物資が丸ごと残っているという「」。

おおむね事実で、あながち嘘じゃねえってのがミソだ。


マンパワー不足気味の組はその情報を大手の組織に売って……あとは目の上のタンコブな連中が死のうが殺されようが、どうでもいい。

フロント企業活動に専念するまでだ。やる事は山積みだ。

成金は窓の外をチラリと見る。


いかにも趣味人の商人が子連れで遊びに行くための、小さいロバの馬車だった。盗賊団に襲ってくれと言ってるようなものだ。

「少ないけど、取っといておくんねえ」

成金は、決して少なくない金を渡す。

「……ロバはああ見えて、大食いだからよ」


あらいやだわ、返すつもりがまた貰ってしまいました。

三下から渡された服を返すつもりで来ていたミーナは追加で金やちょっとした護身具まで貰って困惑していたが、好意は受け取っておいた。

帝都のも通ったようですし、満足満足。

宇宙海兵の戦略格闘兵器や、許されざる物アンフォーギブネスを腰に指して歩くのは、さすがにまずいですわね。

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