第13話 ジェルソミーナは新たな想いを胸に秘め

さすがはザンパーノ皇子殿下、いや神聖ヴァチカニア帝国の皇帝陛下。

侯爵令嬢の婚約者ジェルソミーナの抹殺に、わざわざ伝説でありながら実在する禁忌兵器・許されざる物アンフォーギブネスまで持ち出すだけはある入念さと、一途なひたむきさ。

ミーナは改めてザンパーノに惚れなおす。


立太子も済ませていないのに、なぜか帰って来たら皇帝になってる事も含め、どういう判断でそうなったのかというプロセスとエビデンスは未だ分からない。


おっと、ミーナはあくまで侯爵令嬢の箱入り娘。

量産品とはいえ宇宙海兵としてロールアウトされてから実に5歳までも生き残ったインテリぶりをひけらかしてる訳じゃありませんことよ?


遠いけど地続きの、はるか未来の彼方で倒したはずの、人類の裏切り者であり最後の女だった人間と同一人物だとしか思えない人間になぜなってるのか、それも含めて分からない。


誰がなにを考えて、ここに自分が存在するのかという理由もついでに分からない。

……なんで宇宙海兵の自分なのか?

ご褒美なのか罰ゲームなのかすら不明だ。そういえば何回世界を救ったり滅ぼしたり金を儲けたりスローライフしたのかも分からない。


ただ単に毎朝納豆の味噌汁が飲みたくて、枯草菌つまるところ炭疽菌の低コストでの大量培養に成功して、滅ぼしてしまった世界もある。

大豆や穀物の籾殻や糠に含まれる植物性タンパク質を必須アミノ酸に分解するはずが、ちょっと胃酸に強くて毒性が高かっただけで、動物は文字通りすべて内臓をネバネバに変えて、粘液の塊になって溶けた。

自称が我だった頃、魔王なのにスローライフを満喫する為に死ぬほど努力してた頃のミーナの、恥ずかしい失敗談である。

あんなにこだわってた納豆汁とは何だったのか、思い出せないのも含めて恥ずかしい。


ザンパーノは、変わり果てた

『生物としては人類と絶対に共存できない』

謎の不死の生命体・ビアンキを、この時代の人間の疫学的な常識をまるで無視して徹底的に処分した。炭疽菌かもっと危険な何かと雄々しく闘っているのだろう。

灰がキチンとガラスに変性するまで目視確認するとは、好感度が上がり過ぎてトキメキが止まらない、宇宙海兵的には。

禁軍や、三々五々五月雨式に集まった帝宮爆発の被災民も感動しているようだ。


「ビアンキ嬢……」

ザンパーノはそう言い残し、禁軍は皆ガラスで出来た水溜りのような何かと化したビアンキを振り返らない。決して。

ザンパーノの胸に去来するのは何か、それとも何もないのか?

それならそれでまだマシなぐらい、異質な思考のような因果の演算の結果なのか?

ザンパーノ自身もまた人類というより、一個の美しい計算式。紅蓮の百合でも真紅の毒蛇でもない。生粋の数式と理論で構築された神聖教会の申し子的な存在だ。

そんなザンパーノを理解できていないお馬鹿さんなミーナでも思う。


ザンパーノだけは絶対に自分で殺してやると。絶対にだ。

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