第12話 殿下として出陣し、陛下として帰還す
ザンパーノ到着前。
侯爵邸には本当に何もなかった。
ミーナがかろうじて拾えたのは、かつてビアンキだった燃えカスのガラス片だけだ。これは資源ゴミとして売れるのか、単なる粗大ゴミかは判断が難しい。
いちおう他次元格納庫に格納してはいるが、こんな汚いガラスなんていったいどこに持って行けば引き取って貰えるのか?
事の発端はこうだ。
そもそもこの帝宮大爆発のドサクサに紛れて侯爵邸、すなわち帝都の自宅に戻ってみたら見事なぐらいの更地になり、父も母もミーナのお付きのメイドも全員いなくなっていた。執事は塩漬けの生首である。それも爆発で文字通り霧散した。
ほぼ爆心にあったのだから仕方がないが、取っておいたからといってどうにもならなかったのは間違いない。
侯爵邸の門の跡だとかろうじて分かる場所には、大きなジャガイモに見える、
ミーナは、警戒しつつも奇妙なジャガイモに近付く。
目ぼしいモノを身につけていないか調べてみたかったからだが、胴体しか残っていない五体大消失状態だった。
宇宙海兵時代にはよく見た光景だったが、慣れてるとはいえ久しぶりに見ると気味悪さが際立つ、とミーナは思う。
おそらくコレは、はしたな過ぎる尻の形からしてビアンキだろう。
なにより本人ですら把握してないであろう、尻のホクロが完全に一致していた。
わたくしミーナに赤っ恥をかかせ、ついでに一族を全滅させただけでは飽き足らず、ダメ押しで野良犬も避けて通るような有り様で人様の家の入り口に転がるなんて、嫌がらせにも限度があるだろうが、クソッタレが!
……オホン。つい途中から宇宙海兵魂が出てしまいましたわ、反省反省。
ともかくまったく、なんて教養のない貧乏人なのかしら?
ミーナは憤る。
なにより厄介なことに、この状態なのにまだ生きているのだ。
この期に及んで尻尾を出していないのも、悪魔ながら天晴れ。生命力だけは大したものだと褒めてもいい。
しかし、所詮は虫や蛇の類に近い何か貧乏人みたいな物体。無闇矢鱈と生き汚く、しぶとい事には閉口する。
まあ自分も稗をそのままつまみ食いするという、霊長類として少々はしたない事をしている自覚はある。
それでも最低限の、だいたい哺乳類のマナーぐらいは弁えているつもりですの。
稗は調理すれば、立派な主食にもなると勉強した記憶がございますわ、帝政学園内の強化ガラス製の培養槽の中で。
確かにそこにも生き物は居るけど、ローザ姉様が飼育中の怪物だったかしら?
微妙に海兵隊員の培養ファクトリーと間違ってる気もする。
だからあまりレディの嗜みを云々できる義理ではない事は、とりあえず置いておくとしても。
レディたる者、首がほぼ無いのに生きているというのは、余りにもはしたな過ぎます。
首から上が半分以上消えたら死ぬべきという、脊椎動物としての慎みまで投げ捨てるのはみっともなさ過ぎますわよ、ビアンキ?
ミーナは平然と生の稗を咀嚼しながら、自分のグランジ過ぎるレゲエスタイルのファッションを棚にあげて考えていた。
ミーナはビアンキの首の消滅面をじっと見る。
首からはもう
ヒトの家の前でなに気持ち悪いことやってるんですの穢らわしい。
先の許されざる物との戦いで程よく一体化し始めたミーナで宇宙海兵な怪物は思ったが、コレを汚らわしいで済ませることが出来るというか、素手で触れるだけでも大したものだ。
少し考えて、一番大きな頭だけを残して摘みとり、残りは他次元格納庫に格納する。ここまでしぶとい生き物は、一番単純な構造の外宇宙戦闘生命体でもあまり見たことがない。
もしかして、いわゆるおなじみの昆虫型とは別系統の生き物?
今は思い付かないが、なにか使い途があるかもしれない。この生命力は、粉末にして撒くとかしたら使えるんじゃないかしら? 永久焦土作戦とかで。
ビアンキは、頭が一個に戻ったおかげかもう頭部自体がブリタニア王国名物の大玉リンゴぐらいの大きさに成長している。
マズい、ミーナは焦る。
顔もすっかりビアンキそのものになり始めた、意識を取り戻すのも時間の問題だ。そんな侯爵家跡地、正門前をザンパーノ皇子麾下の禁軍の先触れが通り過ぎる。
「臣民は傾注せよ! 耳あるものは聞け!」
ミーナはその場に復活しかけているビアンキを捨て置き、その他大勢のボロボロの被災者たちに紛れてザンパーノの一団を観察し始める。
先触れの電令は声をかぎりに叫ぶ。
ミーナは被災者の中に最初は紛れたが、今は浮浪者より酷い姿となっている。ボロボロの被災者のなかにあっても嫌がられた。
神聖ヴァチカニア帝国に咲く、紅蓮の百合ならぬ舞踏会の赫き薔薇は大いに憮然とした。
しかし背に腹は変えられない。
悪目立ちを避けるため、人混みではなくゴミに紛れて身を潜める。
「ザンパーノ
ミーナが婚約破棄されてから色々あってゴミに紛れ、ビアンキはビアンキで五体壊滅の奇妙なジャガイモになるまでの、実に3日弱。
ザンパーノは陛下となっていた。立太子も済ませていないのに。
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