第10話 震える土、蠢く岩達10 シェノールの過去3

「終わったね。」




 戦地から帰って来た友達が、私に話しを掛ける。




 みつあみの似合う、愛嬌ある顔立ち。小柄で線の細い体をした女の子。




「うん、終わったね。この様子だと、ほとんどの友達は生きているよね!?」




 私は気さくに返事を返す。 




 すると、友達はうつむき向いたまま、黙り始めた。




 仕方が無いので、私も黙ることにした。




 しばらくすると、友達が沈黙に耐え切れなくなったのか、喋り始めた。




「……今、確認されているだけで、私達の同期の半数近くは死んでいるみたい。




 その中にルナちゃん、ターちゃん、うーちゃんがいたの………。」




 友達はうっすらと涙を浮かべ、声を震えていた。




 養成所で姉と妹の次に世話焼いてくれた、親友のルナちゃん。




 養成所で時々、一緒に悪いことをした、ターちゃん。




 養成所で、愛想が良く、誰からも慕われてた、うーちゃん。




「うそ……。それ、本当なの!!??」




 私は動揺して、大声で叫んでいた。




 すると、友達は頷いて言う。




「私が三人を看取ったから………。」




 その友達の瞳から、すでに止め処なく涙が溢れていた。




 それは真実だと思う。




 その友達は救護隊員だからだ。




「ごめん………。」




 私は顔をしかめ、唇をかみ締めている。




 “ソウルブラッド”のせいで、忘れていた。




 最初の激戦を考えれば、その可能性があることを。




 みんなが無事だと信じたかったのかもしれない。




 けど、現実は甘くはなかった。




 三人を看取った友達の気持ちを考えなかった。




 だから、自分自身のデリカシーのなさに腹立だしかった。






「でね、シェノールに伝えなきゃいけないことがあるの……。」




 友達は涙を拭いて、声を絞り出すように言う。




 でも、私はこれ以上の話を聞きたくない。




 きっと、いい話じゃないことに決まっている。




 私は逃げるように、友達から目を逸らした。




 すると、友達は私の両肩をしっかりと掴む。




「辛いのはシェノールだけじゃないんだから。



 私だって、こんなことを言うのは辛いんだよ。




 お願いだから、聞いてよ………。」




 友達は涙を堪えて、弱弱しい口調で私に言う。




 私はなぜか,友達の手を肩から離すことできなかった。




 覚悟を決めて、友達と目を合わせる。




 すると、友達はゆっくりと重い口調で、私に告げる。




「二~三日前に、意識不明の重体で妹さんが運ばれてきたの。




 峠は越えたけど、未だに意識が戻らないの。」




 一瞬、友達の言葉が理解できなかった。




 いや、妹が重体になったこと事態が信じられない。




 私よりもしっかりしている妹が、こんなことになるなんて……。




「妹は何処ににいるの!!??」




 私は怒鳴り付けるような声で、友達の肩を掴む。




 早く、妹の安否をこの目で確かめたった。




「今、軍の病院のLGMB(生命維持装置みたいなもの)室……。」




 私は友達の言葉を最後まで聞く事も無く、病院へ走り出した。 




 傷心の友達を残して。






 病院に着くと、地下にあるLGMB室へ急いだ。






 カッカッカッカッカッカッカッ!!!!






 駆け足で階段を下ると、LGMB室が見えた。




 LGMB室から階段の出入り口までの距離は、わずか10M。




 だが、私にとっては十倍から百倍に感じられた。




 さっきの駆け足とは違い、私は重い足取りでLGMB室への廊下を歩く。






 カツ  カツ  カツ  カツ






 まるで、死刑囚が絞首台まで歩く姿に似ている。




 妹の安否が気になる反面、友達の言ったことが真実だとしたら……。




 確かめるべきか、確かめないか。




 そんな不安と葛藤が、私の足取りを重くしているのだ。




 そうこう考えといる内に、LGMB室のドアの前に来てしまった。




 

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