第8話 震える土、蠢く岩達8 シェノールの過去


 昔、国を二つに割る大きな戦争あったの。




 何でも、国のお偉いさん達がある動物の扱いについて


 意見が分かれたのが原因らしいみたい。




 その動物をパートナーとしてか、道具として扱うか。




 それがすごくもめたらしく、お互いに収集が付かなくなって、


 戦争に発展する事態なったわけ。




 その上、泥仕合みたいに戦争が長引いて、もう大変。




 この戦争のことを後に”天逆大戦“と呼ぶんだけどね。




 当然、私達もそれに巻き込まれる形で軍の兵隊養成所に入隊したんだっけ。




 ちょうど、戦争の半ばに入るか入らないかぐらいかな。




 あとはお決まりの鬼教官がいて、軍隊映画みたいに罵倒されたり、


 苛酷な訓練をするだけ。




 毎日、それの繰り返し。


 最初の頃は訓練についていく精一杯けど、




 妹のおかげでなんとか養成所を卒業できたんだあー。




 妹のあの笑顔に、随分助けられたなあー。




 そう、あの時もそうだったなあー。






 養成所に入ってから、一ヵ月ぐらいかな。




 訓練の一環で、草木一本も生えない岩石の荒野と岩山を徒歩で走破するという。




 訓練の目的は仲間との親交を深め、体力と根性をつけるためだとかなんとか。




 そのため、三人一組ずつに分かたんだけど、


 偶然にもお姉ちゃんと妹と私が一緒になったの。




 その道中で、私は何度も貧血や立ち眩みに襲われて、


 泣き言ばかりを言っていたなあ。




 その度、お姉ちゃんは冷ややか視線で私にこう言うの。




「私は先に行くから。」と言って、


 その場に私達を置いて、どんどん先に進んで行くの。




 妹が傍に寄って来る。




 妹の姿は髪が肩にかかる程度の長さの黒髪。


 とても可愛いらしい顔立ち。高校生くらいの容姿。 




 私達の異父妹の証である金色の双眸と、獣人の証しである耳と尻尾。




 すると、妹は無邪気な笑顔して、四つん這いになっている私の耳元でこう言うの。




「あと十分だけ、頑張ろうよ。もしかして、ゴールはすぐそこかもしれないよ。」




 優しい口調で、私を励ます。




 私はそれ所ではなかった。




 貧血による虚脱感に加えて、照りつける太陽の日差しが




 私の意識と体力を徐々に奪ばわれていく。




 もう、私はフラフラだったの。




 今は、ゆっくりと体を休めたいと思うばかりだった。




「私にはかまわないで。お姉ちゃんと先に行っていいよ。」




 私はふて腐れた顔して、突き放すように妹に言う。




 それから、妹は口を閉ざしたまま、私の傍を離れようとはしなかった。




 お互いに気まずい状態が十分、二十分と続いた。




 三十分に経つと、私の体調はある程度、回復していた。




 まだ、完調ではないけど、なんとか歩けるぐらいだけど。




 私はゆっくりと、立ち上がると妹が再び声をかけてきた。




「さあ、ゆっくりでも少しずつ前に進もうよ。」




 と、妹は思わず抱き締めたくなる様な笑顔を浮かべ、




 私の手を引っぱりながら、妹は力強く歩き出した。






 しばらく、歩くとお姉ちゃんらしき姿が発見する。




 思ったより、お姉ちゃんは先に進んではいないみたい。




 その時、私は妹の手を強引に引き剥がして、お姉ちゃんの元へ走り出していた。




 尊敬するお姉ちゃんの前で、これ以上は情けない姿を晒したくない。




 しかも、私が妹に手を引かれた状態は特に。




 私の沽券に関わる。




 途中で歩いては走り、歩いては走りと繰り返しながらも、




 なんとか、お姉ちゃんの元にたどり着いた。




「意外と早かったわね。」




 お姉ちゃんは私が来ることがわかってるような口調で、私に声をかける。




 私は息を切らし、地面に座りこんでいた。




 それにしても、お姉ちゃんにしてはあまり進んでいないと思う。




 お姉ちゃんが私達から離れて、約一時間。




 あの場所からここまでの距離は二十キロぐらいしか離れていない。




 お姉ちゃんの力だったら、楽勝で四~五十キロぐらい先に居てもおかしくはない。




 多分、何だかんだ言っても、私のことを心配して、ゆっくり進んでくれたんだ。




 そうに違いない。




「何笑っているよ。」




 歩いていたお姉ちゃんが急に立ち止まり、私の顔を横目で見て言う。




「なんでもない。」




 私は呼吸を整えながら、そう答えた。




 私はなんだか、嬉かった。




 私のことを心配してくれたが。




「置いてかないでよー。」




 私より少し遅れて、私達に妹が追いついた。




 すると、着いてそうそう、妹が私に説教をする。




 それを私は適当に合槌を打つ。




 そのやりとりが十分くらいやると、




「説教はそのくらいにして。そろそろ、行くわよ。」




 お姉ちゃんの一声で、 私達は再びゴールを目指した。




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