大晦日はゆっくりしたい③

 人は生きている以上、前に進み続けなければなりません。

 立ち止まって戻ることも出来ませんし、先の先へと走っていくことも叶いません。

 過去を変えたいとは何度も思って、同じように未来を垣間見れればいいのにとも思ったことも何度もありました。

 そんな後悔ばかりの齢十七の私は何も感じることもなく、平穏すぎる日々を送っていました。

 何を思うことなく、愛想さえ振り撒けば問題なく独りで生きていけたんです。


 「なあ、本当に一緒に入るのか?」

 「は、は、入りましゅから!」

 「……」

 「はわ、わ、わ、盛大に噛みました……」


 遥花は緊張で呂律が回らず、決意表明とも言える断固たる宣言を噛んでしまった。

 「大好きな音絃くんと付き合うという念願が叶い、早一週間。

 全くと言っていいくらい進展がないのです!

 私なりに彼女として何が出来るのか考えてみました。


 まずは、手を繋ぐ。スキンシップとして普段から握っていたので次です!

 次に思いついたのは、ギューっとしてもらう。これも何気ないタイミングでしているから次です!

 そしてキスを思いつきました。でも、クリスマスの日に――


 「はわ、わ、わ――!」

 「い、いきなりど、どうしたんだ?」

 「な、な、何でもです!」


 何かを思い出し、遥花は赤らめた顔を押えながらしゃがみこむ。

 そうです。私はあの日、音絃くんから愛の証をこの唇で感じたんです。

 その経験を踏まえて何をしてあげられるか考えた結果――」


 「思い付いたのが一緒にお風呂だったって訳か……」

 「え……?なんで私の――」


 その瞬間、声にならない悶絶が遥花を襲った。

 勿論、物理的な痛みではなく精神的に。

 再び、今にも火が吹き出しそうな顔を押さえてしゃがみこむ。


 「さっきから独り言がダダ漏れだぞ。聞いているこっちの気持ちも考えてくれ。どうにかなっちまいそうだよ……」

 「どうにか……なってしまうんですか……?」

 「そうだよ……。俺だって一介の男子高校生だぞ?理性を保つのにも限界はある。あまりこの状況で俺の心をこれ以上揺さぶらないでくれ……」


 音絃くんは私が想像している以上に私のことを意識してくれていたのだと知って嬉しくなりました。

 私も世界中の何よりも音絃くんを愛していますし、音絃くんが私を愛してくれていることも分かっているんです。

 でも、恥ずかしがりながらの遠回りな愛情表現は私の心にはくるものがあるんです。

 そして、いえ、だから駄目だと分かっていても追求という追撃をしたくなっちゃいます。


 「具体的にどうなっちゃうのか教えていただきたいです」


 音絃は遥花の顔を見たと思えば、一歩二歩と後退る。

 自分の表情がどうなっているのかは鏡を見てみないと正確には分かりませんが、大体の予想くらいは私にでも出来ます。


 「待て待て――。このタイミングで小悪魔遥花さんは駄目だ……。」

 「教えてくれないんですか……?」

 「ああ――もう……。このまんまだと遥花をメチャクチャにしてしまいそうなんだよ!」

 「私は……音絃くんになら……メチャクチャにされてもいいと……思ってますよ?」


 嘘や偽りの混ざらない純粋な気持ちを述べる。

 好きな人に出逢ってから初めて分かったことが一つあります。

 それは全てを投げ捨ててでも彼に尽くしたいと思うものなのだと。

 テレビ番組やドラマで何をしてでも彼に尽くす女性の皆さんを見てきましたが正直な話、全く理解が出来ませんでした。

 むしろ「馬鹿馬鹿しい」とまで思っていたんです。

 でも、私は世界で一番愛しい彼、音絃くんに出逢うことが出来て、その気持ちも痛いほど分かるようになりました。


 音絃の顔も遥花と同様にほんのり赤く染める。

 やっぱり音絃くんも満更でもないみたいです。

 ゆっくりと伸ばす音絃の手は真っ直ぐ遥花に向かう。

 遥花もキュッと瞼を閉じた。

 

 「あのさ……遥花。無理してないか?」

 「え……?」


 予想外の質問に対して瞬時に反応をすることが出来ずに言葉が出てこない。

 そして私に伸ばした手は真っ直ぐに頭の上に着地した。着地と同時に髪を優しく撫でる。


 「手、震えてるぞ?」

 「あ、その……違うんです!」

 「分かってる」


 私の手はどうしてこんなに震えてるの?

 その事象がどうして起きているのか自分でも分からなかった。

 焦燥、頭に浮かんだ言葉を無理矢理繋ぎ合わせる。


 「私は音絃くんが大好きで嫌いなんかじゃないんです!」

 「知ってるよ」

 「これは拒絶じゃなくてね!ただ――」


 遥花の話す言葉は音絃の腕の中で遮られた。

 温もりが徐々に伝わって心が落ち着いて鎮む。


 「俺たちは確かに約四ヶ月の間、気兼ねなく一緒に過ごしてきた。手も繋いだし、愛情表現を言葉にして、キスもした。今もこうやって遥花は俺の胸の中にいる」

 「うん……うん……」


 力なく音絃に身体を預けて頷く。

 ゴツゴツとした男の子の胸板から穏やかに刻まれる鼓動を聞いて生きているだと実感する。


 「俺たちは別に急がなくてもいいんだ。これからもこの先も二人で歩んでいくんだから、焦らなくてもいいんだぞ?遥花が行きたいところに一緒に行くし、嫌だということはしないから。だから気を遣ったり、心配したりしないでいいぞ!」


 私は多分、誰がなんと言おうと世界で一番愛されてる。

 世界で一番幸せで、世界で一番強欲な彼女なんだと思う。

 私の中で愛しているという種から芽吹いたのは強い独占欲。

 誰にも取られたくない。音絃くんの魅力を私だけが知っていたい。横に立っているのは私だけじゃないと嫌……。

 束縛するのは大っ嫌いです。

 お父さんとお母さんがそうだったので、絶対に反面教師にしてやる!って思っていたはずなのに。


 「ありがとう音絃くん!でも……ね、音絃くんは平気でそんな甘い言葉を他の女の子にも掛けてしまいそうで心配です……」

 

 する必要もない心配が口から漏れ出て音絃の耳へと届く。

 私の顔にも心配の文字が書いてあったらしく、それに気付いた音絃は溜め息をついて優しく微笑んだ。


 「俺は遥花のことしか見てないよ。というか遥花しか見れないようにしてくれやがったのはどこのどいつだよ?」

 「え……私?」

 「当たり前だろ……。まあ、なんだ……確かに指輪は婚約指輪じゃないから心配にもなるか。まだ早いかもだけど、心配なら――」


 「今から一緒に婚姻届を書くか?」


 その瞬間、窓も空いていないこの家に風が吹く。

 冬の終わりと春の到来を報せる春一番が私の中に吹き込んで来るのを確かに感じました。


 「え……え、え……?」

 「まあ、急ぐ必要はないか。なんだ……初詣にでも行ってみるか。それからゆっくり考えてみよう。次いでに今後を祈願してみようぜ」

 「そ、そうだね!行こっか!」


 大切で愛おしい音絃くんとならどこへでも行ける。柄でもないのは私が一番分かっています。

 でも――


 「私……本当に幸せだよ!」

 「いや、俺の方が幸せだ。絶対に負けてない」

 「じゃあ、二人で幸せになろうよ」


 少し驚いた顔を浮かべて音絃はまた優しく微笑んだ。

 やっぱり私は音絃くんが大好きです。

 大好きすぎてどうにかなっちゃいます!


 「そうだな。二人で幸せになろう!さあて、行こうぜ。蓮と魅都が待ってるぞ」

 「うん!杏凪ちゃんたちもいるの?」

 「さっき連絡が来た。早く行かないと……」


 こうして私たちは再び家を出ました。

 私は幸せです――!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


あけましておめでとうございます。

更新間に合いませんでした……。ぴえんです

お風呂会まだ引っ張ります。すいません!


ちゃっかり更新を再開しつつありますが、何卒ご容赦下さい()

更新再開したら皆さん怒りますか……?

一度締めましたが、連載再開の希望があれば、第二部として描いていくつもりです。

あ、二人には許可を取りましたので合法です。


要望や意見があれば応援コメントにお書き下さい!

今年もよろしくお願いしますm(_ _)m

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