番外編
大晦日はゆっくりしたい①
音絃と遥花が無事に彼氏彼女になってから数日、俺たちはいつも通りの日常を過ごしていた。
冬休みに入った二人は実家には帰らず、この家で年を越す予定だ。
「ね、ね、音絃くん……コーヒーが入りましたよ」
「ありがとう……は、は、遥花……」
おっと失礼……。いつも通りの日常ではなかったようだ。
皆様お久しぶりです。天の声でございます。
お二人の日常を我慢出来ずに覗きに来てしまったことを謝罪します。ほんとにすいません……。
今日は十二月三十一日ということで年末大晦日。
こんな重要イベント(?)を見逃す訳にはいかないと思うのは私だけでしょうか……?
では再び二人の様子を覗いていきましょう。
「ぬくぬくしていて動きたくないですね……」
「その言葉とは裏腹に声がカチコチなんだけど大丈夫かい……は、は、遥花さん?」
俺と遥花はあのクリスマス明けの朝からずっとこんな調子でいる。
結ばれているのに、前のように話せない事をもどかしく感じながらここ数日を過ごしてきた。
「お気になさらず……。身体も暖かければ心まで温かいですから」
「それはこっちの台詞だ……。俺の心の方が温かいに決まってる」
「その根拠は……?」
「遥花が隣にいてくれるからだよ……。って何言わせてんだ!」
俺が遥花を愛している事を知ってくれて、遥花も俺を愛してくれている。
つまり両想いだと分かったあの瞬間から俺の思考は完全に鈍っていた。
でもおかげで愛情表現を出来るようになったのも事実なので、これはこれでいいかと考えていたりする。
家自体がぬくぬくとしていて遥花の顔は元々赤かったが、その上でも見て分かる程更に赤くなった。
遥花は机に額を当てながら足でポコポコと蹴ってくる。
「もう……ほんとにずるいですよ……?私だって――」
――ピーンポーン
突然家にインターホンのチャイムが鳴り響く。
こんな年の暮れに誰だろうか……?
「私出てきますね。郵便物ですかね?」
遥花は玄関へとスタスタ歩いて行った。
俺はネット通販で何も買っていないし、郵便物が届く覚えは全くない。
「ん?着信……?」
蓮からメールでも来たかなと思いながらスマホを開くとそこには別の呼称が表示されていた。
『開けて――!』の文字の差出人は――母。
「遥花――!開けちゃ――」
だが、その声は時既に遅し。
無常にも玄関からは母の声が聞こえてきた。
「まあ……あなた誰……?」
そして遥花は何を思ったのかとんでもない事を言い出した。
「こんばんは……。えと……黒原遥花です。失礼ですがあなた方はどちら様で――」
「遥花ごめん……俺の両親だ」
「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ?!」
遥花は今までに聞いた事がない程の大きな驚嘆をしてみせた。
◇◆◇◆◇
俺は今、遥花と一緒に両親と向かい合っている。
そしてそのまま沈黙の時が流れて痺れを切らした母が口を開いた。
「えと……。まずは音絃くん元気にしてた?それから遥花さん……だよね?初めまして。そして――」
母、裕美子は机に手を付き、前のめりになりながら食い気味で聞いてくる。
「二人とも御付き合いとかしてるの?!どうなの……?!」
「裕美子……落ち着いて。まずは一つずつ話を聞いていこう」
父、勝平がすかさず裕美子を宥めてくれたおかげで今は話さずに済みそうだが、おそらく時間の問題だろう。
「はい。音絃くんと御付き合いをさせて頂いております。白瀬遥花と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
思っていた傍からカミングアウトしちゃったよ……。遥花さん早い……。
「やっぱりそうなのね!それで親である私たちに黙っていつ結婚したの?」
言っている意味が分からなかったのと、遥花との結婚を想像してしまい脳内回廊が完全にバグった。
「そうだね……。結婚式か……」
「音絃くん!?私が拗らせたのは分かっているけど更に拗らせてるよ!」
◇◆◇◆◇
コーヒーを飲み、ゆっくりと息を吸う。
冷静に物事を考えられるようになってから俺はようやく裕美子の質問に応答した。
「まだ結婚はしてないよ……。それにそもそも俺は十七歳だし法律上でも不可能だよ」
「ふ――ん……。まだ……ね。まだ……」
しまったと思いながら遥花の方を見ると、体勢はしっかりと保っているが、明らかに顔が悶えている。
この場で一人、表情を変えずにいる勝平が再びゆっくりと口を開いた。
「僕は音絃が真剣に決めた相手なら文句はないよ。でも一つだけ……遥花さんちょっといいかな?」
「え……?あ、はい!」
「君の料理の腕前を見てみたい……。作って貰ってもいいかな?」
「父さんそれはちょっと――」
「私……作りますね!有り合わせになりますが申し訳ありません」
無理に作らなくていいよなんて俺の立場では言えない。
下手すれば遥花が勝平から悪い印象を持たれかねないと考えると見守るしかないだろう。
「遥花の手料理の腕前は俺が自信を持って保証するよ」
「音絃くん……ハードル上げないで下さいよ!」
正直、今日の勝平の様子に違和感がある。いつも通りであれば――
「それで……音絃からだったの?それとも遥花さんからなの?!」
「言わないといけない?ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「出来れば最初から聞かせてよ!お母さん気になるな――!」
勿論話したくはないのだが、その後の対応などを考えると今話してしまう方がいいだろう。
母、裕美子はだる絡みがすごいのだ。それも超絶に……。
そして今までの経緯を一部抜粋して語り始めた。
◇◆◇◆◆
「こんな感じで付き合い初めました……。こんなので満足ですかね?」
「まだ細かいところも聞きたいけど……今日は満腹だからまた今度ね!」
――また話さないといけないのかよ。
「ご飯出来ましたよ――!」
遥花は天ぷらを盛った皿と蕎麦を抱えてキッチンから戻ってきた。
「今夜は年越しそばと天ぷらです。有り合わせだとこれくらいしか――」
「美味そう……。食べていいか?」
「ふふふっ。どうぞ召し上がれ♪」
まず初めに皿に盛られているかき揚げを食べようとすると、両親がやけにこちらを見ているのに気付く。
「なんだよ……」
「「いや……新婚夫婦の絵面だなって」」
「いや……まあ、嬉しいけど!食べる事に集中させてよ」
両親の視線を無視してかき揚げを口に運んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜後書き〜
お久しぶりですm(*_ _)m
忘れている方々の為に自己紹介を――
ハッピーエンド作品を主食にしているモブです。どうぞよろしくお願いします(人’∀`*)
今回は伏線を張るだけ張っておいて回収しなかった両親襲来を描いてみました。
今後も約束をしていた蓮くんと杏凪さんのクリスマス回も執筆予定です。お楽しみに――
サブタイトルにもある通り今回は前編です。まだまだ続きます!
不定期更新にはなりますが、よろしくお願い致します(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
〜今日の雑談コーナー
実は時間に余裕がある時は執筆は行っているのですが、中々思ったような文が描けずに思い悩んでいます。
今後も続けていきたいと思いますのでどうぞご自愛ください。
書籍化作品を出すのを目標に頑張るぞい!
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