第47話 甘すぎる厄日
「失礼します……」
「黒原くんね。どうしたの……?」
保健室に入ると奥から舞先生が顔を出し、音絃を見た途端に固まってしまった。
身体も表情もピクリとも動かず、心臓まで止まってしまったんじゃないかと思う程だ。
間違いなく『だるまさんがころんだ』をすれば鬼に疑われる余地はないだろう。
「朝早くからすいません。というか二日酔いは大丈夫ですか?」
「気にしないでいいのよ……二日酔いも苦痛と感じる程、辛くはないわよ」
――二日酔いしてるんかい……
「まあ、学校内連絡で大体の事情は聞いてるわ。大変だったでしょ……よく頑張ったわね」
「お世話になります。舞先生」
音絃に抱き抱えられたまま、遥花は舞先生に頭を下げた。
今は遥花自身が辛い状況あったにも関わらず、挨拶と礼儀は忘れないところに謙虚さを感じる。
「無理しなくていいんだぞ?その為に俺が一緒にいるんだからな」
「すいません……」
「なんで謝る……。俺に遠慮なんかするなよ」
「でも……」
「心配するな。言ったろ……俺がお前を守ってやるって。だから心配も遠慮もいらねぇよ」
遥花の事だからきっと後ろめたさを感じているに違いない。
俺としては自分への遠慮を出来るだけなくして欲しいと思う。
「……お取り込み中に申し訳ないけど……自重してくれないかな?!」
「ああ……すいません……先生?!ちょっ……目から血が出てますよ!」
音絃は遥花から目線を外して舞先生を見ると、目から血が出ていたのだ。
さっきまでなんともなかったはずなのだが。
「これはね……ある一定の男女を見ると、一部の人だけが起こす発作のようなものよ。気にしないでいいわ」
「血の涙流す人初めて見ましたよ」
入口のドアから声がして、後ろを振り向くと蓮と杏凪が壁に寄りかかるようにして立っていた。
二人は相変わらずニヤニヤとしながらこちらに視線を送ってくる。
「まいちゃーん!ティッシュあるけどいーる?」
「ぎゃァァァァァァ!また私の前にカップルがァァァァ……。ティッシュはありがたく使わせて貰うわね」
「やけに騒がしいね。心配して来た僕がアホらしいよ」
今日は保健室の利用者が多いらしい。
蓮と杏凪に続いてやって来たのはイケすかな表情をして、何を考えているのか全く読めない生徒会長様だ。
「伊希斗か……珍しいな。独りで校内を巡回でもしていたのか?」
「失敬な奴だな……。音絃を心配して来たと言っただろうが……。それにだが、お前が言った事にはもう一つ誤りがある」
「誤りって……何がだよ」
伊希斗はドアに向かって手招きをする。
そこに居たのは音絃もよく知っている人物だった。
「ああ……なるほどな。理解ったわ」
顔を出したのは、後輩の麻央。
例の件を交換条件にバイトを推薦して貰ったのは、まだ記憶に新しい。
「先輩……お久しぶりではないですね。バイトは上手くいってますか?」
「俺の方は特殊な訓練を受けたからな。なんとかやっていけてるよ。魚谷もその様子だと上手くいったみたいだな」
「まだ秘密ですから。先輩はシー……ですよ?」
麻央は鼻先で指を立てているが、伊希斗にも丸見えなのだが大丈夫だろうか。
そう思い伊希斗に視線を移す。
伊希斗は音絃と目線が合うと不自然に目を逸らして、背を向けた。
――満更じゃないのかよ……
緩む表情を隠そうとしたのだろうが、燃えるように赤くなった耳を隠し忘れている。
勿論、麻央はその事に全く気が付いていない。
この二人がそういう関係になるのは、まだ少し先のようだ。
「また……増えた……。日本の偉い人か偉大な科学者さんたち、リア充木っ端微塵装置作ってくれないかな……」
「まいちゃん怖いよ……」
「大丈夫だよ杏凪。木っ端微塵になる時も一緒だ」
「蓮くんも怖い事言わないでよ!」
ポコポコと蓮の胸を叩く杏凪。
もう既に二人の世界に入っていったようだ。
――ゴフッ
「あっ……池田先輩!連合生徒会会議が始まります。急いで向かわないと……」
「おっと、そうだったな……ありがとう魚谷。君がいてくれて本当に良かったよ」
「ええっ!せ、先輩の役に立てて良かったです!」
ここもここでいい雰囲気が出来上がっているらしい。
だが、伊希斗を落とせる日はまだまだ遠そうだ。
――ゴフッ
「そういえば音絃はさっきから白瀬さんをお姫様抱っこしているが、ベットに下ろしてあげなくていいのか?」
伊希斗に言われて気付いたが、俺はずっと遥花を抱えっぱなしだった。
気付かなかった程に遥花は軽いのだ。
「ごめん……今下ろすから……」
音絃はベットに向かおうとすると、遥花は音絃の首に手をかける。
何事かと遥花を見ると、少し赤らみながら照れた表情で音絃を腕の中にいた。
「音絃くんがきつくないなら……もうちょっとだけ……このままがいいです……」
「お、おう……遥花のお気に召すままにするよ」
その強烈な一言は音絃を容易に照れさせる。
蓮や伊希斗は「まじかよ……」と声を漏らしていて、杏凪と麻央は黄色い声をあげた。
そしてある人にトドメの一撃を刺してしまう。
「もう……砂糖は要らないわ…………」
――ドスンッ
「先生?!大丈夫ですか!」
「まいちゃん?!大丈夫なの?」
「舞先生が倒れたぞ!」
目を開けると水の中だった。
不思議な事に息が苦しくなる訳でもなく、水を飲んでも何も感じない。
――私はこんなで死ぬのだろうか……
そして揺られるままに水底へ辿り着くと脳内に過去の走馬灯が流れる。
流れてくる記憶は、姉の砂糖……友人の砂糖……同期の砂糖……教え子の砂糖……。
――……私の砂糖は?
私の番はないの……?
というか……もしかしてこのまま死んだら、死因は多量吐砂糖による糖分不足……?
「こんなんで死んでたまるかァァァァ!!」
「うわぁ……生き返ったよ」
「死んでないわ!」
「音絃ー!舞先生起きたぞ」
「私はあんたたちには負けないから!」
「起きてそうそう何を言ってるんすか……」
生きていればきっとチャンスはあるわ。
そこを逃さずに、例のビッグウェーブに乗ってやる!
藤原舞 年齢30歳 独身
色々な意味でもうあた逃してしまっている事を忘れているが、一度死にかけてからまた頑張ろうと決心する舞であった。
「私は幸せを掴んでみせる!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜後書き〜
舞先生回?でした。色々と情報量が多かったですが、ネタ要素を盛り込めて良かったと思ってます!
また次回からは音絃くんと遥花さんの話に戻りますm(_ _)m
〜今日の雑談タイム
次話からまたお楽しみに……
( ゚ཫ ゚)ゴフッ
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