第45話 迷いの中で
――ガラガラ……
教室のドアを開けると案の定、誰もおらず静かだった。
教室の窓が開け放たれているのは、恐らく担任の教師が換気の為に開けたのだろう。
揺れるカーテンの隙間から陽の光がチラチラと見えて、まだ黄昏時ではないが、この風景はどこか放課後の教室を想像させて心が安らぐ。
音絃は自分の席に着き、気ままに揺れるカーテンを眺めた。
その揺れるカーテンが安らいでいた心を暴れさせる。
寝起きの揺れるカーテンの隙間から漏れ出す陽の光に愛おしい女性の甘い声。
目を覚ませば手の届く距離にいる幸せ。
――って何を考えてんだ……
顔をブンブンと左右に振り、浮ついた感情を振り払う。
だが、その浮ついた感情が実体化した繋がりがポケットにある事を音絃は思い出した。
ポケットから無言でそれを取り出して、頭上に掲げて。内側に彫られた文字を眺める。
――夢じゃ……ないんだよな
そしてゆっくりと頭上から下ろして、左手の薬指に付けてから再び左の掌を空に向けた。
チラつく陽の光が時々、指輪に当たって眩しく輝く。
この指輪は繋がりの証。
そして胸の中にある浮ついた感情は遥花への気持ち。
それを振り払ってしまったら、絶対にダメなんだ。
振り払うんじゃなくて向き合うべきなんだ。
相手は追いかけてくれるのに、俺が逃げているばかりじゃ――――――遥花を幸せには出来ない。
「はるっちからちゃんと貰ったんだ」
「ああ…………って!み、み、都魅 !?」
教室のドアの陰から顔を出していた杏凪に声をかけられ、音絃は驚きのあまり椅子から倒れ落ちそうになってしまった。
恐ろしい程、ニヤニヤとしながら近付いてくる杏凪に音絃は引き気味で対応する。
「随分気に入ってるんだねー!」
「…………まあ、そうだが……何か文句でもあるのか?」
「うんん……ないよ!という事は気持ちも聞いたんだよね?!」
「それは……まだだ……」
「えぇぇぇぇぇぇ!なんで?!」
興奮状態の杏凪は蓮にしか止められないが、ドードーと宥める努力はしてみる。
すると今回はあっさりと落ち着きを取り戻した。
そしてある推理が音絃の中に走る。
その答えは……
「そのドアに隠れているこそ泥猫がすいませんでしたって自首したら話すよ」
――ガタンッ
何かがドアにぶつかる音がすると同時にある男が倒れていた。
「そういうところだけは勘がいいんだよな……」
「それは褒めてんのかよ……アホ蓮」
蓮は杏凪にとっての精神安定剤と言っても過言じゃない。
そもそも蓮がいない中で、こんなにテンションが高い訳がないのだ。
そして昨日の経緯を大雑把に話そうとすると、杏凪がプクーと顔を膨らませてきたので、仕方なく詳しい事を話した。
勿論だが、俺が渡したプレゼントの内容は話していない。
どうせすぐに分かるのだから……
蓮はプクーと膨らんだ杏凪の頬をつついて、ふにふにとしながら、音絃が話した内容を整理してくる。
「ほぉ……それで気持ちが固まるまで待ってくれと……?」
「情けないがそういう事になる……」
蓮は仁王立ちをして音絃の前に立つ。
それを見た杏凪も慌てて蓮の真似をして、その横に立った。
「人のそういう事情にどうこう言う訳じゃないが……一つ言いたい」
「蓮が言いたい事は大体分かるよ……なんなら被せて言うよ」
「「お前は女を待たせて恥ずかしくないのか?」」
それを聞いた杏凪はあんぐりと口を開けて、分かりやすく驚いている。
半年も一緒に居れば、大体何を言いたいかなんて分かる。
言わないといけない。
ましてや待たせるなど、最低……
俺が一番それを理解しているのだ……でも勇気は出ない。
ふと周りを見渡すと、いつの間にか続々とクラスの人たちが集まりだしていた。
時計を確認すると朝のHRまで後、十五分といったところだ。
――そろそろ来るかな……
そう思った次の瞬間にクラスの陽キャ組が動き出した。
そしてドアの向こうから遥花が現れる。
――クラスの奴らはどう出るか……?
「皆さんおはようございます♪」
「おはようございます!白瀬……さん?」
「おはようございます。今日は嬉しそうですけど何かあったんです……か?」
クラスの陽キャ組は、いつも通りに遥花を取り囲んでいてこちらからは全く様子は見れないが、反応だけは分かる。
話しかける者たち全員が語尾に?を付けていて、明らかに動揺していた。
「し、白瀬さん……その左手の物は……?」
「これは大切な人から貰ったんです♪」
遥花にとって指輪は男避けにもなって都合がいいのも少なからずあるだろう。
音絃は遥花がどんな使い方をしようが、大切にしてくれればそれでいいと思っている。
「だ、だ、誰から……?」
「それは……お教え出来ませんが、その人がいいよと言うならお教えしますよ♪」
今のところクラスに公表するつもりはない。
だが、この目の前のバカップルには秒でバレそうだ。
蓮と杏凪は既にその代物が何かを理解しているようで過去最大級の期待の眼差しを向けてくる。
それを音絃は完全に無視しながら遥花を見守った。
「それって婚約指輪だったりする感じ?!」
陽キャ組の女子が明るく楽しそうな声で聞いている。
男子とは完全に真逆の反応を示しているが、これも蓮が言っていた女子の恋路に関係があるのだろう。
「私は……そう思っていますよ。音……彼も同じ物を持っているので……」
「彼とはどんな感じなの?!」
「まだお付き合いも出来ていません……でも、四ヶ月程前からほとんど彼の家で過ごしてますね。お泊まりは出来ないので夜には帰りますけど」
ポンポンと色々な事を暴露していく遥花を音絃は余計な内容を話さないかヒヤヒヤしながら見ていた。
陽キャ組の男子たちは口をパクパクしながら、棒立ちしている。
もう大丈夫なように見えたが、まだ一人だけ諦めていない男子が残っていた。
「くそ……なんで……なんで俺じゃないんだよ!」
いきなりの大声に辺りは静まり返った。
大声の主は――――――江口雄人
周りの様子など気にもせずに雄人は次々と言いたい事を遥花にぶつけていく。
「なんで俺じゃないんだよ!何回も好きだって言ったのにさ!絶対その相手より俺の方がかっこいいに決まってんだろ!そんなものっ……!」
突然、雄人は遥花に掴みかかり指輪を無理矢理外そうとする。
「や、やめて下さい!痛いです……!」
「うるさい!俺の心の痛みの方が何百倍も痛いんだよ!」
抵抗する遥花を終いには殴りかかろうと雄人は拳を頭上に上げる。
音絃の席に、音絃の姿はもうない。
「……助けて…………」
俺は全ての迷いを振り切った。
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〜後書き〜
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今日の雑談タイム〜
…………………………
(゚ロ゚;))((;゚ロ゚)ドキドキ
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