第43話 そして夢は現実になる

「遥花……ちょっといいか?」


「ふ、ふ、ふぁ……ふぁい!」


「なんで遥花が緊張してるんだよ……」


「だって……そんな空気ですから。私もその……渡したいものありますし……」


どうやら遥花も同じ事を考えていたようだ。

音絃にとっては、それはそれは嬉しい事なのだが、それ以上にどう言って渡すかを懸命に考えていた。


その大きな感情を理解した音絃にとってそれは、ほぼそうだと言っているのに等しい物なのだ。

その品を渡すと同時に、その言葉を言える勇気はまだない。


「いや……そのだな……遥花にクリスマスプレゼントを用意してるんだが……いるか?」


「はい!音絃くんは私に何をくださるんですか?」


紛う事なき即答だった。

そして本当に嬉しそうな顔でそれが何かを聞いてくる。

もう言い逃れは出来まい……。


音絃は自分のバッグからクリスマス仕様に彩られた袋を取り出す。


「その……なんだ……。気に入らなかったら別に受け取らなくてもいいから……」


「絶対に何があろうと私はそんな事はしませんよ?音絃くんがくれるものをそんな風に扱ったりなんかするはずがありません」


遥花の反論はとても嬉しい。

だが、それと同時に羞恥心が身体の奥深くで煮えているのが分かる。


「開けさせて貰いますね」


そう言って、丁寧に袋の結び目を解いていき、ついにその品が入ったケースが露わになる。

遥花はゆっくりとケースを開けた。


「その……日頃の感謝とかまあ、色々伝える為に何がいいかって考えたんだけど、やっぱり形に残るものがいいかなって。それでネックレスとかブレスレットも考えたけど、遥花はあまりジャラジャラとしたものは好まないかなって思って……それにした」


遥花が掲げる手の一部が照明の光によって輝いている。


「音絃くん……これは私が身に付けていいんですか……?」


「当たり前だ。俺が遥花に贈りたいと思って、贈ったものなんだらな」


「とっても……嬉しいです……。大切にしますね」


遥花の指で輝く銀色の指輪は、決して綺麗な宝石が付いている訳でもなく、お洒落な形をしている訳でもない。

飾ったものよりもシンプルなのが気持ちは伝わる。


これは俺を育ててくれた母親から聞いた言葉だ。

あれは確か……五歳のクリスマスの時。


「ママー!クリスマスツリーきれいだね!」


「そうね、キラキラしてて綺麗だね」


「前に見た時は何もなかったのに!この木さんはお飾りしている方が僕好き!」


「私はお飾りを付けていない木さんも好きよ?」


「何もないのにどうして?」


「この木さんに何もないなんて事はないわよ。木さんは、雨の日も風の日も、雪の日だって独りで一生懸命に立っているの。独りは寂しいし、この木さんも挫けそうな時があったかもしれない。それでも今だってこうやって立っている。それってとっても立派な事だと私は思うわ」


「うん……独りは寂しいもん」


「綺麗にお飾りをするのも時には大切だけど、お飾りをしていない時が悪いって訳じゃないの。お飾りをしていない時が、本当の自分なんだと私は思うわ。大きくなったら音絃くんもいっぱいおめかしするかもしれないけど、おめかしをしていない時の音絃くんを大事にしてくれる人に出逢えたらいいわね!」


その七年後の中学時代に友人から裏切られてしまったが、今はこうして遥花と一緒にいる。


――本当に俺は今、幸せな日々を過ごしているんだな……


指に付けた指輪を眺めながら嬉しそうに微笑む遥花を見て音絃は贈れて良かったと心から思った。


「次は私の番ですね」


遥花もバッグから袋を取り出して、音絃にそれを渡す。

その袋は音絃が遥花に贈った指輪の入ったものと一緒で、中身を開けると全く一緒のケースが入っていた。


「……遥花さん、まさかだよな?」


「ふふふ。いいから開けてみて下さい」


音絃はゆっくりとケースを開くと、音絃が遥花に贈ったものと全く同じだった。


いや……少し違うのは指輪の内側に彫られた『For Neo from Haruka』の文字。

音絃が贈ったものにも『For Haruka from Neo』の文字が彫られている。


「私も音絃くんと同じことを考えていたようですね!」


「やっぱりこれは偶然の一言で言い表せないよな」


確かにこれは偶然だ。

だが、それだけでは言い表せないこの繋がりは、やはり運命なのだろう。


音絃は指輪を付けるとサイズはピッタリだった。


「そういえば……俺の指のサイズはいつ測ったんだ?」


「測ってはいませんよ?音絃くんが握ってくれる手の感触を覚えていただけですよ。音絃くんもそうですよね?」


「ぐぬっ……」


めちゃくちゃに恥ずかしいが、その通りだ。

そしてもう一つ重要な事を聞かなければならない。


「この指輪はどういう意図を持って……」


音絃が全てを言い終わる前に、遥花の人差し指によって口を塞がれた。


「聞いちゃダメです……。ちゃんと解って下さい。それに……音絃くんも満更じゃなさそうですし」


それを聞いて我に返ると、お互いの指輪は左手の薬指に自然と付けられていた。

鈍感過ぎる音絃もさすがにこの意味には気付いている。

だが、やはりまだ言葉にする勇気はない。


「ま、まだ早いだろ!そうだ……そうに決まってる……」


音絃は急いで外そうと指輪に手をかける。

だが、遥花の一言ですぐに硬直してしまった。


「なら……ゆっくり待っていますね。音絃くんの気持ちが固まるまで私、待ちますから」


その言葉が今の全てだった。

嬉しさと恥ずかしさが、ごちゃごちゃに混ざりあって言葉にならない。


「でも、明日までは学校ですし、指輪はお預けですね…………ってあれ?」


少しして落ち着いてから音絃は顔を上げると、遥花が後ろを向いてワタワタとしている。


「どうしたんだ……?」


「音絃くん……指輪外れなくなっちゃいました……」


「え……?」


その後も指輪は外れる事はなく、遥花は付けたまま学校へ向かう事になる。

そしてあの日、音絃が見た夢は今日という日に現実となったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


…………………………



今日の雑談タイム〜


…………………………



( ゚∀゚)・∵. グハッ

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