第41話 音絃の不安

そしてクリスマスイブ当日

音絃は遥花と二人で静かにクリスマスイブを過ごす予定を考えていたのだが、全く思惑通りにはいかなかった。


「じゃあクリスマスパーティを始めようぜっ!」


「酒だァァァ酒を持ってこいぃぃ!」


「先生落ち着いて下さい!」


「そうよ舞ちゃん?お楽しみはこれからなんだから!」


「幸子さんも少し落ち着いて下さい……」


「はるっち、これはなーに?」


「それは七面鳥の丸焼きですよ。杏凪さんは見るの初めてだったりします?」


舞先生、幸子さん、蓮に杏凪、遥花に音絃と、計六人という大人数でなぜか、わざわざ狭い音絃宅に集まっていた。

そしてテーブルには遥花が腕を振るって作ってくれた七面鳥の丸焼きや、ピザ、ローストビーフとさまざまな料理が並んでいる。


「集まるなら幸子さんの家で集まった方が良くなかったですか?」


「黒原くん……これは君のせい!」


「……はい?」


「ぜーんぶ君がわふゅい!」


「……出来上がってますね。もういいです」


いつの間にか幸子さんは飲んでいたらしく、もう酔い始めている。


――という事はあの人も酔ってるな……


「舞先生ー?まだ酔ってませんか?」


「私はだね……酔っていないのよ!!そして……なんで独身なのよ……ううぅ」


「舞ちゃん……早く相手を見つけよう!」


「さっちゃん……一緒に頑張りましょう!」


いい歳した大人が肩を組んで「エイエイオー」と勢い付いている。

音絃も最近までは独りだったが遥花と過ごすようになってから、独りが寂しいと感じるようになった。

だが、この二人を慰めようとすると必ずめんどくさい事になるのもよく分かっている。


もうこの二人は放っておいても大丈夫だろう。

慰め続けても埒が明かないだろうし。


「音絃ー、もう食べてもいいのか?!」


「あの二人はもう出来上がってしまってるし、乾杯は省こうか。遥花もそれでもいいか?」


「それでいいですよ。是非皆さん召し上がって下さいね」


「「「いただきます!」」」


遥花の許可とともにクリスマスパーティは開幕した。

クリスマスパーティといっても特にやる事は決まっていない。


「音絃……例のプレゼントは決まったのか?」


耳打ちで蓮が音絃に聞いてくる。


「決めたよ。だけどここでは渡さないからな」


「なんでだよ……!」


「お前たちの謎の視線がうざいからに決まってるだろ……」


「なるほど……それは失敬失敬」


音絃はプレゼントを買ってはみたものの遥花が喜んでくれるか分からず心配をしていた。


それは遥花も同じで音絃が喜んでくれるか分からず心配をしていた。


「ちょい外の空気吸ってくる」


玄関を出ると外はすっかり暗くなっていて、街はツリーの光が至るところで輝いている。

外はかなり冷えていて吐き出す息は真っ白だ。

そして話はまた少し前に遡る。


「やっぱりそうなのね……舞ちゃんが言ってた子って黒原くんなんだ」


「舞ちゃんって……養護教諭の舞先生ですか?」


「そうよ。私と同級生で中学時代からの友人よ。ああ、安心してね。舞ちゃんからは匿名で話を聞いているから。黒原くんがその人だと思ったのは私の勘よ」


舞先生はたまに訳の分からないところで度々登場するが、カウンセリングなどもしている為、秘密は厳守する筈なのは確かだ。

だとすると幸子さんは末恐ろしい勘の持ち主だという事になる。


「言わないで下さいよ……言ったらバイト辞めますから」


「黒原くん!そ、そ、それだけはーー!」


「次いでに幸子さんが独身だって街中に言いふらしましょうかね。ははっ……なんて冗……」


「あっ!あああ……!くっ……!黒原くんもっと虐めても良いわよ!!」


――やっぱりバイト辞めようかな


また数日が過ぎてイブの一週間前

音絃は頭を抱えて悩み事をしていた。


「今日は仕事に全く精が出てないけど、何かあったの?今はお客さん居ないし、相談乗るよ」


人生の先輩である幸子さんに話を聞けば何か思い付くかもしれないと思い、素直に相談をした。


「大切な人へのクリスマスプレゼントか……青春だねー!」


「俺は真面目に話をしてるんですから」


「ごめんねー!私から言えるのは、相手が欲しいものを贈るのも大事だけど、黒原くんが相手に贈りたい物を渡すのがいいと思うよ?」


「でもそれで相手にとって要らないものだったら……」


「黒原くんの相手はそんな人じゃないんでしょ?舞ちゃんはここ最近でとっても明るくなったんだって言ってたよ。黒原くんをそんな風に変えてくれたのが、その大切な人なら何をあげても喜んでくれるんじゃない?それに相手が欲しいものを贈るよりも、黒原くん自身が贈りたいものを贈る方が気持ちを込めれるんじゃないかな?」


「幸子さん……たまにはいい事言いますね」


「んんっ……!くぅっ! ナイスドS! 」


幸子は胸を抑えて顔を赤らめながら、グッドのサインを送ってきている。

音絃には全くその意図がなく、只管に引くことしか出来ない。


折角アドバイスを貰ったが、ドM状態には関わりたくないので今は無視させて貰おう。

それより……


――俺が……遥花に渡したいものって


いつも料理を作ってくれて、いつも辛い時は慰めてくれて、いつも優しくて、いつも心の支えで、そして何よりいつも俺の隣で笑ってくれる遥花に、俺は何を贈りたい?


そして俺が辿り着いた結論、大切な存在である遥花に贈るプレゼントは――――――


その決めた内容はこんな公の場では渡せないような品なのだ。

果たしてこの品で感謝やこの名もないこの気持ちを伝える事が出来るのかだろうか。

それは今の俺には分からない。


音絃が独り黄昏ていると賑やかな家のドアがゆっくりと開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


皆んなでのクリスマスパーティ回は終了です……

次話から二人だけのクリスマス回になります。

もし蓮くんと杏凪さんの二人のクリスマスがみたい人が居ましたらコメント下さい。

要望があれば甘々に描きます。


今日の雑談タイム〜


季節外れのクリスマス回を描いてて思うのですが、独りは寂しいなと感じます。(ぼっちです……)

私はこの二人に幸せを注ぎ込み続けて、クリスマスの雪をホッコリとした温かさで溶かせたら……

何言ってんだこいつと思うかもしれませんが、大分参ってます。

更新ペース戻せるように頑張ります!

最後に……本作の完結の目処が立ちました。

また情報はお知らせします。

ではまた次話で!

(* ̄▽ ̄)ノ~~ マタネー♪

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