第39話 Xmasへの準備 遥花の場合①

「反論の余地もありません。じゃあ今度こそ行ってきます」


「行ってらっしゃい音絃くん」


音絃くんが角を曲がってエレベーターに乗ったのを確認すると、一階のランプが点灯していた。

急いで戻り、遥花は自分の家のドアを開ける。


「もう出てきていいですよ」


中から顔を出したのは杏凪で、悪戯が成功した子供のように無邪気に笑っている。


この状況を説明するには少し前に遡ります。


毎日学校では誰と関わる訳でもなく、大体は一人でいる事が多くて、静かにしているのが普通です。

たまに杏凪さんが遊びに来てくれますが、華園さんのところにいるのがほとんどで話す時間はとても少ないです。


――好きな人と学校であんな風に居れていいな……


いつかは音絃くんとも……なんて考えてたりするかもしれませんね。勿論、教えませんよ?

そして、その日は偶然にも私の気が短かったようです。

どうしてなのか分かりませんが、我慢が出来なくなっちゃいました……。ほんとに不覚です。

私も、幸せな雰囲気が滲み出るあの場所に居たいと願った……いえ、違いますね。

音絃くんの隣に居たかっただけなんでしょうね。

いつも家で一緒にいるのに、外でも音絃くんを求めてしまう私はきっと強欲なんです……


「何を楽しそうに話されているのですか?」


「はるっちー!やっほー!ねえ、はるっちって欲しい物とかあるの?」


「そうですね……特に無いですね。最近は毎日が幸せなので……」


チラリと横にいる音絃の様子を窺うと、少しだけ照れているようで手で顔を覆い俯いている。


音絃くんが必死に照れ隠しをしようとしますが、私にも、この場にいる華園さんや杏凪さん、舞先生にもバレバレでとっても可愛いです……。

でもやっぱりそんな照れ隠しをしようとする必死な音絃くんも、私を守ってくれる格好いい音絃くんも、私の前だけで見せてくれる太陽のような明るい笑顔をする音絃くんも、全部私だけが知っていたいと願うのは、心からの本音。


――やっぱり私は強欲ですね。


でも……それでも、音絃くんを誰かに取られるくらいなら私は強欲のままでいいんです。


「それで……なんで舞先生が居るんですか?」


「私の事は気にしないでくれ。さあ、続けるんだ」


「いや続けないですから……」


そして予鈴が鳴り、蓮や舞先生は元の場所に戻って行く中、杏凪だけが遥花の元へ向かってくる。


「ねぇ、はるっち」


「杏凪さんどうしたんですか?」


「今度一緒にクリスマスプレゼント買いに行かない?!」


遥花は正直戸惑ってしまった。

おそらく杏凪は蓮のプレゼントを買いに行く為、蓮は付いてこない。

という事は女子だけのお買い物になる。

それは遥花にとって戸惑うには十分な理由だった。


「わ、私……お友達とお買い物行くの……初めてなんです!」


「そっか……ねおっちとは友達以上の関係なんだね!」


「そ、そ、そういう事じゃなくて……!」


「ふふふっ……はるっちは、ほんとに可愛いなー」


「うう……杏凪さん!」


その日の夜に音絃くんから聞いた話なのですが、過去一クラスの男子の視線が凄かったらしいです。

私は全然気が付きませんでしたけどね。

そして今に至ります。


私と杏凪さんはこれからデパートに向かいます。

有難い事に杏凪さんの親御さんに連れて行って貰うことになりました!

なので、意外と早く、音絃くんが帰ってくる前に家に辿り着ける筈です。


遥花は杏凪とエレベーターを降り、駐車場に向かうと一台の車が止まっていた。

杏凪はその車に手を振りながら駆け寄っていく。


「ママー!お待たせー」


「アンちゃーん!お隣の子がお友達のはるっちちゃん?」


「いつもお世話になっています。同級生の白瀬遥花と申します。今日は宜しくお願いします」


「私は都魅颯葵みやびさつきです。宜しくね、遥花ちゃん。ところで……ほんとにお人形さんみたいな綺麗な人だねー。アンちゃんどうやって口説いたの?!」


「ママ……その言い方、おじさん臭いよ?」


「冷たい事言わないでよー!」


杏凪さんのお母さんは、眼鏡を外した杏凪さんにとても似ているので、顔を見た瞬間にすぐに分かる。

それより一番印象的なのは……とにかく若くて明るい。


「―――羨ましいな……」


颯葵は遥花の顔をじっと見つめる。

俯いていた遥花は暫くしてからその事に気付いた。


「……ねえ、遥花ちゃん。うちの子にならない?」


「え……?」


「なーんてね……冗談よ?困らせちゃってごめんね」


「えと……大丈夫です」


遥花と杏凪は颯葵の車に乗り込み、目的地であるデパートに出発した。


一瞬だけ……ドキッとした。

もし……私が、他の家庭に行けるとしたらどうなんだろうと。

ここじゃない誰かの家庭に行って、果たして私は幸せになれるのでしょうか……?


「今日は二人とも彼ピに贈るプレゼントを選びに行くのよね?」


「そうだよー!」


「その……彼氏ではないですけど……音絃くんに贈るプレゼントを……」


「遥花ちゃんは初々しいねー!好きな子、音絃くんって名前なんだー……」


「うう……」


ここで肯定するのは恥ずかしいけど、でも否定はしたくない。

音絃くんの事で、嘘は付きたくない……。


「ママー?はるっちをあんまりいじめないの!」


「分かったわよー。でも付き合ってるんでしょ?」


「お、おおお、お付き合い?!?!」


「あ、この反応はママ察しちゃったわ……」


車の中はもう完全に都魅家ペースとなっている。

遥花はそのハイペースに着いていけず、目が回ってしまう。


「こ、これが……じょしとーく……ってものなんですね。末恐ろしい……です」


「ん……?大丈夫?車酔いした?」


「もう着くから我慢してねー!はるっち」


遥花は女子トークの解釈を微妙に間違えながらも、無事にデパートに辿り着いたのだった。


――じょしとーく……怖いです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


遥花さん視点……どうだったでしょうか?

皆さんが考えている遥花さんのイメージと違いましたか?

遥花さん視点を描くのは、とても楽しいです!

今後も評価次第で描いて行きますねー!

更新ペースは遅くなりそうです……


今日の雑談タイム〜


小説の勉強をしていました……

私も両性ではないので、毎話描くのにも異性の気持ちを知らないといけない。

という事です頑張ってました……(言い訳すいません)

ではまた次話で!

(*o̶̶̷ᴗo̶̶̷ )ノβуё♬

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