第37話 Xmasへの準備 音絃の場合①

「先輩遅いですよ!寒すぎて手が氷になりました」


「俺は有り得ない事を信じないタイプの人間だから知らんな。まあ、そういう病気が見つかったらちゃんと手を温めてやるよ」


「先輩ひどい……」


「それでも結構」


無事に目的地である、麻央の叔母おばが経営している喫茶店へと辿り着いた音絃は訳あってここに来ている。


「そういえば先輩はなんでバイトなんてしようと思ったんですか?」


そう麻央の言う通り音絃はバイトをするのだ。

バイトの理由はまた一ヶ月前に遡る。


「そういえばさ……ねおっちは、はるっちにあげるの?」


「ん?何をだよ?」


「何をって……本当に分かってないの?」


そういえばハロウィンの時のお礼はしていなかったが、それを杏凪は知らない筈だ。

じゃあ他の意味で何かをあげないといけないと言う事になる。


「その様子だと分かってなさそうだね。いい?ねおっち。もう十二月も折り返しだよ?本当に分からないの?」


ほぼ答えまで言われてから音絃はやっと気付く。


「クリスマスの事か……」


「そういう事!じゃあまだ何も決めてないんだね」


「考えてもいなかったよ」


蓮が教室から丁度入ってきた。


「そうだと思ったぜ……」


「お前らは……聞かずとも予想は付くな」


お互いにクリスマスプレゼントを用意し合っているのだろう。

逆に学校一のバカップルが準備をしていない訳がない。


――俺は……遥花に何を贈ろう……


日頃の感謝も込めてちゃんとしたい物を贈りたいとは思うが、遥花が今欲しい物を音絃は知らない。

折角ならサプライズで渡したいので、直接聞く事は出来ないだろう。


「ねおっち……はるっちに聞いておこうか?」


「……お前はエスパーか何かなのか?まあ、お願いするわ」


「ぜってー音絃は聞けないだろうしな!」


「いや、聞けるけどさ……」


「何を楽しそうに話されているのですか?」


そのタイミングで遥花が会話へと入ってきた。

いつもなら全く関わりのない学校生活に遥花が入ってきた。


「はるっちー!やっほー!ねえ、はるっちって欲しい物とかあるの?」


――ちょっと躊躇ちゅうちょ無さすぎだろ


「そうですね……特に無いですね。最近は毎日が幸せなので」


音絃との生活が始まってからだと言う事を自分自身も自覚があるので少し恥ずかしい。

それを知っている蓮と杏凪と舞先生はあからさまにニヤける。


「それで……なんで舞先生が居るんですか?」


何でか途中から舞先生がこの会話に乱入していた。

保健室を放ったらかして大丈夫なのだろうか。


「私の事は気にしないでくれ。さあ、続けるんだ」


「いや続けないですから……」


という事があり、昼休みはロクに話が出来なかった。


そして放課後

音絃と蓮と杏凪の三人で学校から下校していた。


「それで何を買うのか決めたのか?」


「そんなの決まる訳無いだろ。ましてや贈り物自体初めてなんだぞ」


音絃は過去に色々複雑な事があった為、こういう事は初めてなのだ。

というか大体の事は初経験になる。


「そか……じゃあ失敗しないように頑張れよな」


「はるっちの好みは分からないけど贈り物選び付き合うよ!」


ここで同情せずに笑ってくれるのは本当にありがたい。


「とりあえずバイトしないとな……」


「ん?なんでバイトなんだ?」


「やっぱり自分で稼いだお金で買わないとダメだろ。ほら、俺一人暮らしだし、仕送りから使うとかしたくない。自分の手で稼いで遥花には渡したいしな……」


音絃はクリスマスプレゼントを日頃の感謝の気持ちをとも思っている。

そんな品を親の仕送りから出しては意味が無い。

音絃自身が稼いだお金で買わないと、本当の感謝の気持ちは伝わらないと思う。


という訳でバイト先を探していると、後輩の麻央がここを紹介してくれて今に至る。


「それで先輩……ちゃんと約束は守ってくれるんですよね?」


そう……その約束こそが音絃最大の悩みの種になっている。

後輩である麻央が球技大会で話しかけてきた訳もそれと同じだ。


「出来る限りの協力は約束する。だがお前が伊希翔と結ばれるという保証はしないからな。そこら辺はちゃんと理解しといてくれよ」


何せ音絃は恋愛経験が無い為、これといったアドバイスもしてあげられない。

なので全面的な協力をするという内容で交渉は成立したのだ。


「分かってますよっ!」


「それで魚谷の叔母さんに挨拶をしたいんだけど……」


「幸子さん……ちゃんとしていない人にはめっちゃ厳しいので気を付けて下さいね」


音絃はいつも独りだった為、コミュ力が無い事は否定しない。

だが礼儀作法や言葉遣いには自信がある。

根拠は正直全くない。

強いて言うなら遥花という素晴らしい見本が居るくらいだろう。


――まあ、それだけでも十分根拠になるか


「じゃあ入りますよ先輩。Are you ready?」


「そこだけ発音良く言うな。まあ、準備はしてきたから大丈夫だろう」


麻央は準備中の札が掛かったドアに手をかけてゆっくりと開く。

店内は少し薄暗く落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「幸子さーん!バイト希望の先輩を連れて来たよー」


どんな人が出てくるのかビクビクしながら身構えていると、とても優しそうなお姉さんが出てきた。

予想していた人と大きく違い、想像以上に若く綺麗な人で少し驚いてしまった。


「あら、彼がアルバイトをしたいって子なのかしら?」


「はい、黒原音絃と申します。どうか宜しくお願いします」


自己紹介はしたのだが返答は無く、無言の時が流れる。

ただ知り合ったばかりのお姉さんと顔を見つめ合う。

この状況を麻央も黙って見ている。

そしてこの状況が続く事、約三分。

ようやくお姉さんが口を開いた。


「黒原くんだっけ……?君は彼女か大切な子が居るでしょ?」


沈黙の後に開かれたお姉さんの口から合否ではなく、その一言だけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


たまには遥花さん視点を書いてみようかなと思ったり思わなかったり。

希望があれば書きます……


今日の雑談タイム〜


今日は短めです(この雑談タイム)

★400行っちゃいそうです!

ありがとうございます!(´▽`)

作者は疲れたので死んだ魚のように泳ぎます。

頭がバグってますが、お気に召すままに〜

では次話で……会っちゃいましょう。

バイナラ~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る