第35話 音絃の回想②

あれは大体一週間前くらいの事だ。

その日の前日は少しだけ、ほんの少しだけ夜更かしをしていた。


翌日

いつも通りベットから起きるとキッチンからは遥花の鼻歌が聞こえてくる。

音絃はベットから出よう床に足をつけて立ち上がると、視界が落ちていきすぐに身体は地面に叩きつけられた。


――痛っ……


何が起こったのか全く分からずに激しい痛みだけを感じていた。

身体を動かそうとすると鉛のように重たい。

寝室のドアが勢いよく開き、遥花が慌てた表情をして入ってくる。


「音絃くん大丈夫ですか?!」


「大丈夫……少し足がふらついただけだから」


別になんともないと必死に伝えるのだが、遥花は疑うような目で音絃を見る。

最近は運動をするようになり筋肉痛も多々あるので、それの影響で少しつまずいてしまったのだろう。


「音絃くん……ちょっと失礼します」


「え……遥花?!何をするんだ……!」


「ちょっと動かないで下さい」


遥花はあの日と同じようにひたい同士をくっつける。

音絃は自分の熱が急激に上がるのを感じた。


――前と全く同じ気が……ああ、そうか。


「音絃くんは今日一日は安静にする事!」


遥花はビシッと人差し指を立てて宣言される。

音絃の身体は普段よりだるく重たい。


――俺はまた風邪をひいたのか……


今日は生憎平日で学校を休む為には連絡を入れなければならない。

別に音絃は皆勤賞かいきんしょうを取ろうとは思っていないし、そもそも既に三日程休んでいる為、今更どうこう言うこともないのだ。


「遥花の言う通り今日は安静にしておくよ。今から学校に連絡入れるから静かにな」


「あ、それなら私も用事があるので部屋から出ます。お気になさらず」


そう言いながら遥花は寝室を出ていった。

大方、火をつけっぱなして来てしまっていたのだろう。

その間に音絃は学校への連絡を済ませた。

暫くすると遥花がドアからまた顔を出す。


「音絃くん食欲ありますか?」


「食欲がなくなってしまったら俺には睡眠欲しか残らないだろうが」


「ええ……音絃くんって性欲無いんですね……だから手も出さないんですね……」


「というのは冗談で……遥花の料理ならいつでも食べれるに決まっているだろ」


「どこまでが冗談なのかさっぱり分かりませんが、食欲があるなら良かったです」


その後二人でいつものように食事をした。

本当に遥花の料理は一つ一つが美味しい。

朝食は完食して遥花の料理にいつも通り舌鼓したつづみを打った。


「風邪でもよく食べますね。無理はしないで下さいよ?」


「どうやったら無理が出来るのか俺にはさっぱり分からないけど、心配するな。遥花の料理は美味い」


「もう……そういう意味じゃないですから。冗談言えるなら大丈夫そうですね」


そう身体は確かに怠くて重いのだが、遥花の言う通り音絃は割と元気なのだ。

この状態であれば辛うじて学校に行ける。


「そういえば遥花はそろそろ家を出ないと間に合わなくないか?」


キョトンとした表情を浮かべながら、それが当たり前の事のように言ってくる。


「今日は休みますけど……?」


「なんで?」


「なんでって……音絃くんの看病をする為ですよ」


「私……変なこと言いましたか?みたいな顔をしているが、それおかしいからな?」


音絃の為に貴重な出席数を削ってまで休んで貰う事はない。

勉強だって置いていかれてしまうかもしれないのだ。


「大丈夫ですよ?私、勉強は三年生の分まで予習してますので心配はしないで下さい」


「ほんとにすげーな……ってそうじゃなくてだな。大袈裟おおげさに言うけどそういう出席数とか後々人生に関わってくるからな?遥花の人生に少しでも後悔する可能性が高くなるのは俺が嫌だぞ」


「私の事を心配してくれる音絃くんはやっぱり優しいです。ですけど私が決めた事に後悔するつもりはありませんよ?」


和むような柔らかな表情をした遥花は音絃を安心させようとする。

その表情を直視出来ずに目を逸らしながら、だし玉子焼きを口に運ぶ。

濃すぎず薄すぎない絶妙な味付けにふんわりとした食感はまさに完璧だと言える。


――いや、今はそういう話ではないだろ……


「俺は大丈夫だから遥花は学校に行って来いよ」


それでも遥花を休ませる訳にはいかないだろう。

音絃は壁に掛かっている時計を見ると、始業まで三十分以上ある。

今の時間ならまだ間に合う筈だ。


「私……もう休むと学校に連絡入れましたよ?」


――ん?


「え……もう連絡入れたって、いつ入れたんだよ?」


「音絃くんが学校に連絡している間にです。保健室の舞先生が電話に出られて、休む理由をいつわる事なく説明しました。なんだか非常に楽しそうな声でしたけど何かあったんですかね?」


うーんと天井を見上げながら考える素振そぶりをする。

舞先生は二人の事もある程度知っていらっしゃるから問題はないのだが……


「そうか……もう俺は何も言わん」


なんというか呆れてしまった。

見損なったとかそういう話ではなく、音絃が考えている以上の事を先にやってのける。


――流石さすがだな……


「じゃあ、好きにさせて貰いますね」


とても軽やかな嬉しそうな声で遥花は微笑む。

それをみると音絃の表情は自然とゆるみ、頬が火照ってしまう。

耐性をつけようとしているのだが中々上手くいかないのが今日この頃だ。


「とにかく今日はシャワーを浴びてからもう寝る」


「昼食におかゆ作りましょうか?」


音絃が幾ら引き離そうと素っ気ない態度を取ろうと遥花はあの魔性ましょうの笑顔で近付いてくる。

全てお見通しかの如くいつも通りに接してくる遥花にもう叶わない事を最近やっと理解した。

もういっその事、甘えてみるのも悪くないかもしれない。


「お願いするよ。ほんとにありがとな」


「音絃くん大丈夫ですか?口調がいつもより大分遅いですけど……」


「大丈夫……なんともな……」


また視界が落ちていく。

身体中が怠さを訴えかけてロクに力が入らない。

床はひんやりと冷たくて気持ちいい。


「音絃くんほんとに大丈夫?もうシャワーは行かずにベットで安静にしないと」


「そうだな……そうするよ」


朦朧もうろうとする意識の中で遥花の手を借りながらやっとの思いでベットに辿り着いた。

ベットに入ると遥花は額をまたくっつけて熱を測っている。


そこからはあまり記憶がない。

次に覚えているのは昼食の時からなのだが、もうすぐ目的地へ着くはずだ。

この続きはまたの機会に……と思ったのだがそれらしき建物は一向に見えて来ない。

立ち止まり地図を確認すると途中で道を間違えていた事に気付く。

しょうがないから来た道を戻りながら続きを語ろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

⬇️〜後書き〜⬇️


回想編は少しだけ視点が違っている為、違和感を感じる方もいるかも知れません。

今回もご容赦下さい。

次回も回想編になります。

また物語も大きく動き出したり、音絃くんの鈍感っぷりのせいで動かなかったり……

どうぞお楽しみに(^ω^)_凵


今日の雑談タイム〜


はい……欲を言いますね。

50話を更新するまでに★500行きたい!

そして実はこの作品……レビューコメント無いんです。

……|´-`)チラッ|)彡 サッ

(´ρ`*)コホンコホン失礼しましたm(*_ _)m

不快に思った方いらっしゃいましたらすいません汗

ではまた次話で……|´-`)チラッ

Auf Wiedersehen(さようなら〜)

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