第34話 音絃の回想①

あの事件から約一ヶ月が過ぎ、音絃たちは元の生活に戻っていた。

そして音絃はこれからちょっとした用事で外出する予定がある為、靴に履き替えている。


「暖かくして下さいね。後、帰りは連絡して下さい。温かいコーヒーを入れて待ってますから」


「ありがとう。それじゃあ行ってきます」


立ち上がりドアを開けると予想以上に冷え込んでいて、いつもと空模様も少し違っていた。

遥花も外に出て白い息を吐きながら目を輝かせる。


――雪だ……


暦は既に師走しわすを示している為、降ってもおかしくはない。


「初雪ですね。寒いけど綺麗です」


「そうだな……遥花は風邪をひく前に家に入れよ」


「私は健康管理はしてますので、音絃くんみたいに風邪はひきませんよ?」


「反論の余地もありません……」


音絃はこの一ヶ月の間に風邪をひいてしまっていた。

その間、遥花に付きっきりで看病して貰ったのだが、看病というよりは甘やかされ倒したという感じだ。


音絃は街を歩きながら一ヶ月を思い返す。

あれは球技大会があった日の夜だ。


あの日、家に帰った俺と遥花はご褒美の内容で一悶着いちもんちゃくしていた。

なんでも遥花は結局勝てなかった俺にまでご褒美ををくれようとしたのだ。


「音絃くんは何が欲しいんですか!」


「だから要らないって。俺は試合には勝てなかったんだから。そういう約束だったろ?」


「じゃあ私もご褒美の内容は教えません!」


「だからなんでだよ……」


遥花は同時優勝だが優勝は優勝なのでご褒美を受け取る権利がある。

それを遥花は放棄しようとしていた。

音絃自身は遥花の願いを叶えたいと思っている為、それは阻止しようする。


「どうしたらご褒美の内容を教えてくれるんだ?」


遥花は後ろで手を組みながらくるりとこちらを振り向き、イタズラっぽく笑う。

その姿に一瞬なぜか動揺してしまったが、すぐに正気を取り戻す。


「音絃くんのご褒美の内容を教えてくれたら私も教えます!」


――いくら断っても無駄か……


音絃は観念する事にした。


「その……俺のお願いはだな……もう叶ったんだよ。てか叶えてしまったの方が正しいのか?」


「どういう意味ですか?」


「そのだな……俺の願いは遥花の温もりを感じたいって内容だったんだよ……」


「……ふぇ?」


大体こういう反応になる事は予想が付いていたのだが、遥花の願いを叶える為ならしょうがない。

音絃にとっては自分の恥よりも遥花の方が大事だから出来る訳で、普通なら絶対に言わないだろう。


「俺はちゃんと言ったぞ。次は遥花の番だ」


「私は音絃くんに……えいっ!」


華奢きゃしゃでどこを触っても柔らかな遥花が音絃の胸に飛び込んで来た。

いきなりの事に体勢も心臓の方もよろめいてしまったがなんとか持ち堪える。


「遥花さん……?」


「私のお願いも音絃くんと一緒でしたよ?」


今、音絃の胸の中にある小さな幸せを絶対に零さないように優しく包み込んだ。

心臓の鼓動が激しく脈打ってうるさい。


――これ遥花にも聞こえてるんじゃ……


だが結局、それでもいいと思った……遥花になら聞いて欲しいと思えた。


「鼓動はここで生きている」という証


大切にしている人にそれを聞いて貰えるという事は少しくすぐったかったが、同時に嬉しさを感じた。


「今日はいっぱい甘やかしてあげますからね」


「これ以上、俺を甘やかすな……駄目になってしまうだろ」


「それは困りますけど……私の前では駄目でいいんですよ」


音絃の胸の中でニヒヒと笑う遥花の頭をゆっくり撫でた。

撫でると喉をぐるると鳴らして甘えてくる。

甘えていいと言いながら今、おもっきり甘えているのは遥花の方だ。


――ったく……可愛すぎるだろ


本当に遥花は優しい……優し過ぎるのだ。


――もし俺に何かあったら一番に駆け付けてくれて、抱えている傷や痛みを自分のものかのように一緒に抱えてくれるのだろう。


自分を大切にする事が遥花を大切にする事に繋がる。

自分なんてと自暴自棄じぼうじきな考えをする事がある音絃にとっては大きな進歩だ。

誰かを幸せにするというのは守る力がいる。

自分を守れない者に他人を守れる訳がない。


「本当に新しい発見ばかりだよ。ありがとう遥花」


「私の方こそ前にも言いましたけど、抱えきれない程のたくさんの感情や経験をを音絃くんはくれます。お礼を言うべきなのは私の方です。ありがとう音絃くん」


最近になって音絃は、自然と遥花の横に立ちたいのだと自覚してきていた。

今の自分のままでは駄目だとも分かっているのでその為の努力を始めようと思った。


これがあの夜にあった事だ。

あれから遥花が温もりを求めてきた事はない。

遥花が言うには「音絃くんをたくさん充電させて貰いました」なんて言っていたが、あれがどういう意味なのかいまいち分かっていない。

そして最後に「音絃くんをまた充電させて下さいね」とだけ言ってその日、遥花は帰って行った。


――全く訳が分からん……


遥花の楽しそうな、嬉しそうな表情からは他の意図など読み取れなかった。

蓮は明らかに至らない事を考えているかはすぐに分かるのだが、遥花の表情からは何を考えているのかが全く分からない。

終始可愛らしいだけなのだ。


まだ時間はある。

目的地である麻央の叔母おばが運営している喫茶店に向かいながら、もう一話回想を続けようか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


どうでしょうか……?

甘い甘い砂糖増し増しの今話はどうでしたか?

私は描いていて幸せでした。

次話も一ヶ月の回想編です〜❀.(*´▽`*)❀.

しっかり甘々となっておりますm(_ _)m

次話も御付き合い下さいませ〜


今日の雑談タイム〜


私が連載している


『前世で苦労した俺は異世界の女神様と結婚する為に魔王を倒します。』


是非見て下さい!ぶっ飛んだ作品となっていますので宜しくお願いします(>人<;)

本当に宜しくお願いします(>人<;)‼️

次話でまたお会いしましょう🎶

(* ̄▽ ̄)ノ~~ マタネー♪

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