第33話 事件の真相

音絃と蓮は現在、保健室にいる。

その保健室で怪我の手当てを受けながら、事情聴取をされていた。

特に心当たりがない二人は「分かりません」と答えるしかない為、事情聴取は五分程で終了した。


「というか……狙われてたのは音絃の方なんじゃねーの?」


「それはないよ。あの冷たい視線は確実に蓮の方を向いていた。それに俺は人とあんまり関わらないから狙われる理由がない」


「確かにそうだよなー。でもあの時は確かに音絃目掛けて走って来ていたぜ?」


なぜ彼は蓮から狙いを音絃に変更したのかが、分からなかった。

簡単に心変わりする殺意なら起こさなければいいのにと思いながら擦った頬の傷を触る。


――痛っ


こういうちょっとした擦り傷が一番辛い。

逆に重症なら驚きの余り、痛みを感じなくなる事の方が多いという。

治りが遅くなるのも面倒なので、軽傷で良かったとは思っている。


「失礼します」


「まいちゃーん!お邪魔するねー」


ドアから遥花と杏凪が保健室に入って来た。

杏凪はいつも通り、蓮の前になると人が変わっている。

遥花もいつも通り、聖女様の仮面を……いや被りきれていない。

正確には不完全な被り方をしているが正しい。


「音絃く……黒原くんじゃなくて……黒原さん大丈夫ですか?」


「もう隠しきれてないぞ?大丈夫だから落ち着いてくれ」


「でも音絃くんがカッターナイフで狙われたんですよ?そんなの落ち着いていられる訳ないじゃないですか……」


「大丈夫だから心配しなくても……」


「心配します!」


遥花は急に口調が激しくなり、音絃は少しだけ動揺した。

その顔は今にも泣き出しそうな悲痛な表情をしている。


「音絃くんに何かあってからではもう遅いんです……!」


また遥花の表情が悲痛に歪む。

もう二度とこんな表情が見たくないから心配させないようにしてたのは音絃のはずだ。

だが注意していたつもりがまたこのザマでまた泣かしてしまった。


「ちょっ……音絃お前!」


「ひゃうー!」


「いやー中々に青春だねー」


音絃は遥花を腕の中で包んでいた。

遥花の身体は華奢きゃしゃで柔らかく、艶やかな黒髪は見た目通りサラサラだった。

こんなに近くで人の温もりを感じるのは音絃に取っては初めてだが、安心させるにはこれが一番いいと音絃は思ったのだ。


「え……?」


「心配をかけてごめん。そして心配してくれてありがとう。前にも言ったろ……俺がお前を守るって。だから安心してくれよ」


これが今の音絃が遥花に伝えられる精一杯の思い。

遥花は音絃の胸に頭をぐりぐりと擦り付ける。

そんな遥花も可愛いなと思いながら見つめていた。


「見せつけてくれるなー」


「黒原くん……意外と大胆だね」


「やっぱり青春だねー」


突然、遥花が腕の中を抜け出した。

運動をした後だったので汗臭かったのだろう。


――うわ、やらかした。最低だ……


「ごめん。汗臭かったか?」


「そ、そんな事ないです!音絃くんの匂いは私は好きなので……」


「無理しなくていいぞ?汗臭いのは事実だし」


自分のジャージの匂いを嗅ぐと、やはりかなり汗臭い。

ましてや同級生の女子にこんな事をするのは絶対に良くない。


「そこのお二人さん……公衆の面前でやるねー」


「ん?安心して貰うのは心臓の鼓動を聞かせるのが一番いいかなって思ってよ」


なにかの記事に人間の心臓の鼓動を聞くと人は落ち着くという内容のものがあった為、それを実践してみたまでだ。

音絃にそれ以外の意図など本当に存在しない。


「まじで言ってるのか?」


「なんで嘘をつく必要があるんだよ?」


「はるっち……本当に苦労するね」


よく分からないが音絃以外の全員は「うんうん」と首を縦に振っている。

一人だけ話を理解出来ていないようで音絃は面白くない。

ここはあえて仏頂面をしておこう。


「そんなに拗ねんなよー」


「音絃くんはやっぱり可愛いです」


「遥花さん、男にとって可愛いは褒め言葉じゃないからな?」


「存じておりますよ……」


――この小悪魔め……!


結局、保健室の舞先生には口外しないで貰うようお願いをして、この日はそのまま家へと帰った。

家では遥花さんから甘やかされまくりましたという話はまた別の時にでもするとしよう。


翌日

学校に向かった音絃と蓮は生徒指導室へと呼び出された。

その内容は例の男子生徒の処分内容と動機のついて。


例の男子生徒の名は蔭木将輝かげきしょうき

先に動機から言うと恋愛事情が事の発端ほったんだという。

蔭木は蓮の彼女である都魅杏凪が好きで、今年に入ってから十回以上も告白していたらしい。


蓮もそれは初耳だったようで動揺を隠せないでいる。

杏凪も蓮に心配をかけまいと言っていなかったのだろう。


そして蔭木は杏凪の跡をつけるようになっていた。

所謂いわゆるストーカーってやつだ。

それに気付いた杏凪は蔭木に最後の一撃になる一言を入れたという。


「貴方みたいな人には興味がありません。今後は一切関わらないで下さいね。社会不適合者には用はないので……」


蔭木はその場に崩れ落ち、杏凪にでは無くその彼氏である蓮に怒りの矛先を向けた。

だが思わぬところで邪魔が入ってしまう。

それが音絃だった。

カッターナイフを見られてしまった蔭木は心逸こころはやり、刃を向ける相手を間違えたというのが事の真相らしい。

蔭木の処分は思った以上に重い内容で無期限停学、すなわち自主退学だった。


今回の件の話を聞き、音絃は愛するという感情の怖さを知ってしまった。

入学当初は優等生だった蔭木を変容させてしまうような力があるという恐ろしい事実を。


生徒指導室を後にした音絃と蓮はゆっくりと教室に戻っていた。

というのも巻き込まれた事の重大さに整理が付かないでいたのだ。


「なあ、蓮。人を愛するって覚悟がいるんだな」


「そうさ……俺は杏凪を離すつもりは微塵もないから尚更なおさら色々な覚悟をしているさ」


「人を愛するって怖いな……」


「だがな……人間は愛さずには居られないんだよ。『愛する』ってのは、その人を幸せにしたいと思う気持ちの表れだと思う。蔭木はその気持ちを履き違えたんだよ。杏凪を本当に愛しているなら彼女の幸せを一番に考えるべきだったんだ。自分の欲を満たす為に『愛する』という感情を使う奴は一生誰からも愛されないのさ」


恋愛感情を持った事がない音絃にもなぜだか、蓮が言った言葉は自然とに落ちた。

蓮の杏凪への真っ直ぐな愛が届いているからこそ、いつまでも仲良く居られる。

そして音絃はまた友人である蓮を密かに尊敬したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


今回は『愛する』という感情をテーマに球技大会を描いてみました。

蓮くんの考えは、私の持論ですので不満がある方もいるかもしれませんがご容赦下さい。

今回であやふやだった音絃くんにまだ恋愛感情が無い事がはっきりとしましたが、まだですまだ!

少しシリアス回に近いものになってしまったので、次話からはまたゆる〜りと書いていきます。

宜しくお願いします。


今日の雑談タイム〜

特に梨……ナシィー(「🍐・ω・)「🍐

ではまた次話でお会いしましょう!

バイバイ(ヾ(´・ω・`)

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