第32話 球技大会ですっ!③

あの危なげな視線に音絃は危機感を覚えながら試合を終えてコートを後にした。


「蓮……お前最近誰かから怒りを買うような事してないか?」


「お?なんだいきなり」


「いいから教えてくれよ……」


「んー特にないけど、どしたの?」


華園蓮という人物自体がこの学年のカースト上位に存在しているという事実だけで、どこからでもうらみやねたみを知らないうちに買ってしまうのだろう。

恨みそして妬む者は自分の事を過小評価している証拠でもある。

自分は自分だから、人からどう見られようがどうでもいいと思える人間は数少ない。

勿論、音絃本人だってそうは思えていないのは自分が一番よく分かっている。


「なあ、蓮は目立ちたいのか?」


「ほんといきなりどうしたんだよ。まあ、ちゃんと答えるならどっちでもいいかな」


「どういう事だよ」


「確かに自分でも目立つ方だとは自覚しているし、最初の方はそれが鬱陶うっとうしかった。だけどそんな時に杏凪と出逢った。今の俺、華園蓮という存在を形作っているのは俺と杏凪の二人だ。だから杏凪の魅力を知って欲しいと思う気持ちと俺だけが杏凪の魅力を知っていたいという独占欲も同時に二つ持ってるからどっちでも俺は嬉しいんだよ」


音絃にもそれは思い当たる近しい感覚がある。

言うまでもない遥花の事だ。

周りにもっと遥花の本当の魅力に気付いて欲しいと思う反面、自分だけがあどけなさが残るあの柔らかな表情を知っていたいと思う気持ち。

それは完全なる矛盾むじゅんだと言える。


「なんだよ……結局、惚気のろけになるのかよ」


「わりーな!次は女子の決勝だし見に行こうぜ」


「おう、まさか本当に遥花と杏凪の試合が実現するとは俺も思わなかったよ」


「勿論、俺は杏凪を応援するぜ」


「俺は自クラスを応援する事にするよ」


「素直じゃないなー!白瀬さんの応援だろ?」


「やかましい……」


音絃と蓮はもうすぐ始まる女子サッカーの決勝戦に向かう。

それぞれ蓮は杏凪の元へ、音絃は遥花の元へ。

音絃自身、直接は遥花のところへは行けない為、少し離れたところからエールを送る。

遥花もそれに気付いたようで頭上にVサインを掲げた。


「それは勝利宣言として受け取ってもいいんだな?」


音絃も同じように顔前にVサインを作った。


――勝てよ遥花


そして試合開始のホイッスルが鳴り響く……!


「はるっち容赦はしないよ……!」


「私も本気で行きます。覚悟して下さいね杏凪さん……!」


遥花と杏凪の激しいぶつかり合いが試合に花を咲かせる。

いつもなら遥花に歓声をあげる集団も、二人の激しいぶつかり合いを見て、息を呑んで試合の行方を目で追っていた。


試合は一進一退の攻防が続き、延長戦でも決着は付かずPK戦へともつれ込んだがなおも決着は付かずに結局、同時優勝という形で試合を終えた。


「杏凪さん……この決着は後日」


「はるっち……次は私が勝つよ」


二人は言葉を交わし合い、最後は握手で締め切った。

この様子を試合を見ていたほぼ全員が拍手で称える。

これで遥花の評判はまた上がっていくのだろう。


「音絃ー。次は俺たちの番だぜ」


「ああ、絶対に勝とう。こんなにいい試合を女子に見せられたら勝つしかないよな?」


「何を言っているんだ我が親友よ。モチのロンだ」


遥花は宣言通り優勝して見せたならば次は俺の番だろう。

だが音絃は次の瞬間に背筋が凍る感覚に襲われた。


――嘘だろ……


張り切っている音絃が見たのは、準決勝の試合中に蓮にあの冷たい視線を向けていた彼だった。

その視線は今でも蓮に向けられているが、蓮はそれに全く気付いた様子はない。


「蓮……今回の試合はまじで気を付けろよ」


「分かってるって!絶対勝つさ」


「いやそういう……」


『只今から男子サッカーの決勝戦を行います。礼』


結局、蓮には上手く伝えられず試合は始まってしまった。

前半は何か起こる訳でもなく、0ー0で試合を折り返す。

事が起こったのは後半の十五分を回った頃。

蓮がコーナーキックからヘディングで合わせて相手のゴールのネットを揺らし、自陣に帰る最中にだった。

音絃もコーナーキックを蹴った本人なのでディフェンダーだが自陣に戻るのが一番遅い。


「ナイス!よくあれをヘディングで合わせたな」


「音絃のコーナー完璧すぎるんだよ!」


歓喜に溢れる自クラスとは対照に相手クラスはどんよりとした空気が流れている。

試合に出ているメンバーの顔からは戦意の色が喪失していた。

例の異質な視線を蓮に向ける彼を除いては。


「音絃ー何してんだ?戻るぞー」


「おう。今行くからー」


例の彼を横目に見ながら自陣に戻っていると、彼はポケットに手を入れてある物を取り出した。

それは明らかにサッカーの試合に関係がない物。



その取り出した物は―――



「逃げろーー蓮!早く逃げろーー!!」


咄嗟とっさに音絃は叫んでいた。

蓮も状況を理解したようだが、なぜかこちらに向かって走って来ている。


「音絃ーー!避けろーー!!」


「何を言ってるんだ?狙われているのは……」


その瞬間に音絃は蓮に突き飛ばされた。

頬と手を地面で擦り、痛みを感じる。

地面に顔を打った衝撃で耳が上手く機能していない。

口の中も砂の味がして気持ち悪い。


――そうだ蓮は……!


身体を起こしてゆっくりと振り返ると、耳も正常に動作を初めて徐々に周りの音が聞こえ出す。


「音絃!音絃!聞こえるか?」


「蓮……大丈夫なのか?」


「音絃のお陰で何とかなったよ。大丈夫なんだな?」


「ああ、上手く耳は動いてないけど機能は戻りつつあるよ。それで例の彼は?」


蓮を襲おうとした彼はどうなったのかは、後ろを見るとすぐに分かった。

彼は腹部、特にみぞおちを押さえたまま身体を丸めている。


「蓮……お前がここまでやっちまったのか?」


「おう!手加減出来なかったわー!」


「蓮に本気で殴られた彼は息をしているのか?」


「生きてるから大丈夫だろー」


「軽いな……まあ、いい。無事で良かった」


本当に無事で良かったと思う。

あの場面で咄嗟に判断して蓮に声をかけていなかったら一生後悔していたところだ。


――もう二度と友人を失いたくないから


結局、試合は中断されて勝敗はお預けになった。

その後すぐに蓮のもとに杏凪がやってきて胸の中に飛び込み、後はご想像通りイチャラブタイムに入っていった。

音絃と蓮はまた一つ危機を乗り越えて、友情が深まったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


暴走の理由は次話で分かります。

案外分からないものですよ?

人は本当に危険な時は咄嗟に身体が動かない事の方が多いそうです。

よく轢かれそうな子供を飛び込んで助けるシーンがありますが、殆どの人が出来ません。

もし飛び込んだら助かると分かっていても脳が考えている事に身体が反対するんです。

だから咄嗟にそういう行動が出来る人を私は尊敬します。

こんな角度から音絃くんや蓮くんを見ていくとまた面白いかもしれませんよ?!

っていう話でした〜


今日の雑談タイム〜


優しい世界に行きたいです。

確かに本作の世界は暴力シーンがあります。

ですが、残酷までには及びません。

後には必ず慰めや心の支えがあって立ち直る事が出来る世界。

なんの建前も必要ない、音絃くんと蓮くんの関係、音絃くんと遥花さんの関係に私はどうしても憧れます。

その表れが本作です。

だから音絃くんが信頼する人はみんな素直でいい子たちだけです( ˇωˇ )


すいません〜言いたい事をいっぱい言いました。

この後書きを読んでくれる人がどれだけいるか分かりませんが、いつも見て下さりありがとうございます!

では次話でお会いしましょう〜

★ВУёヽ(''∀`○)ノВУё☆

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