第31話 球技大会ですっ!②

開会式で遥花のサプライズ宣誓があって一時は男子共の熱気で暑苦しかったが、それぞれが各試合会場に向かった為、今はその熱気は収まりつつある。

各会場毎にサッカーはグラウンド、バスケットボールは第一体育館、卓球は第二体育館で行われる為、密度はそこまで高くない。

だがサッカーを選択している男子共は聖女様に良いところを見せようと張り切っている者も多く、暑苦しいったらありゃしない。


「憂鬱だ……」


「お前暑苦しいの苦手だもんなー。まあ、しゃーないよな聖女様が宣誓をすればこうもなる」


別に暑苦しいのが嫌いだからと夏が嫌いな訳ではない。

物理的な暑さが嫌いなのではなく精神的、心理的暑さが苦手なだけだ。

またそれを悪いとは思わないし否定もしないがただ苦手なのだ。


『一試合目が始まりまーす。初戦のクラスは準備をお願いしまーす』


本部の生徒会がメガホンで周囲に呼びかけている。

季節も冬に近付こうとしている中で、本部でただ只管に見張るのは辛いだろう。

個人的に生徒会は無償肉体労働団体だと思っている。

そんなところへ主体的に入ろうとする人を尊敬するし、彼らの苦悩を増やさないよう行動しようとも思う。


「やあー黒原。元気そうじゃないか」


そう言って声をかけてきたのは唯一、音絃と出身中学校が同じの池田伊希翔いけだいけと

仲が言い訳でもなく悪い訳でもないが、会う度に声をかけてくる。

彼もどちらかと言うと陽キャよりの人間だ。


「ああ、身体は元気だよ、精神は憂鬱だけどな……それでうちのがなんの用だよ」


「特に用事はないさ。白瀬さんの選手宣誓は驚いただろ?」


「驚いたがそれが原因で男子共が浮き足立って憂鬱なんだが……」


「君は昔からそういうのが苦手だったね。忘れていたよ。それはよしとして……」


「それをよしとするなよ……」


「今日は怪我をせずに楽しんでくれ」


伊希翔は全く読めない奴なのは昔と変わらない。

別に音絃に害をもたらすような存在ではなかったのでそう気にしてはいないが、中学時代の事がこの学校で流出しないかはいつも不安だ。


「音絃ー!何してんだー?もう試合始まるぞー」


「今行くー!伊希翔も生徒会頑張れ」


「ありがとな」


音絃は伊希翔を背に試合コートに向かった。

それから初戦は蓮の活躍により6ー0と大差で圧勝。

ポジションがセンターバックの音絃は特に出番も無く、暇で仕方なかった。


「次は音絃がフォワード行くか?」


「俺はディフェンダーの方が好きだからいいよ」


「たまには前に出ろよなー」


「生憎だがあんまり目立ちたくないからさ……」


極力目立たないようにそして勝利に貢献する。

スポットライトを浴びるヒーローよりも影からそれを支える方が好きだし、そっちの方が個人的にはかっこいいと思っている。

目立つというのは良くも悪くも自分に返ってくるものなのだ。

そう、この日も……


「俺は杏凪の試合見に行くけど来るか?」


「いや、遠慮しとくよ」


「そか……じゃあ行ってくる」


蓮は早足で杏凪の試合を見に行った。

一人取り残された音絃は日向で休憩しながら遥花のご褒美の内容を考える。


――そんなに難しくない事だと言ってたが、逆に俺に出来る簡単な事ってなんだろうか


音絃の出来る事は限りがあり、その可能範囲は狭い。


――買い物を全て俺に任せたいとか?ないな


正直言って全く検討が付かない。

遥花が何を考えてどう思っているのかなんて分かる訳がないのに、それを知りたいと願うこの気持ちが音絃を苦しめた。


「どうされたのですか?浮かない顔をしていますけど……」


「いや……気にしないでくれ。って君は誰だ?」


声をかけられて瞼を開いた先には見覚えの無い少女が立っていた。

名前の刺繍の色が音絃たちと違い、赤色で表記されているのでどうやら後輩らしい。


「私は一年の魚谷麻央うおたにまおです。先輩が浮かない表情をしていたので声をかけました」


「……嘘だな?」


音絃は初対面の相手だが彼女が嘘をついている事が分かった。


「ええ!そのなんでそんな事言うんですか?」


「いや……どうもこうも目が泳ぎまくってるからすぐ分かるよ」


「そ、そんな事ないですよー!ヒューヒュー」


「いやお約束みたいな事したら余計怪しいから。それに口笛吹けてないし」


その後も麻央は、しらばっくれ続けた。

何かのギャグコメディの下りみたいな事をした後にやっと落ち着いて本題に入る。

ここまで辿り着く為にかかった時間は約十分。

音絃はこれだけで疲労してしまった。


「それで……俺に話しかけた用件はなんだ?」


「それは……」


『男子サッカーの試合が始まりまーす。準備をして下さーい』


もたもたしている内に出番が来てしまったようで呼び出しが生徒会からかかる。


「俺は黒原音絃だ。なんか用事があるならまたゆっくりした時に頼む。それじゃあー」


「あ、ちょっと」


遅れる訳にはいかないのでその場を後にしようと走り出した。

試合コートには既に選手が所定の位置に着いていて完全に音絃待ちだったらしい。


「どこ行ってたんだよー」


「ちょっとな……遅れてわりーい」


その後予定通り試合は始まった。

その試合も蓮の活躍により圧勝していて、音絃は相変わらず暇で観客の方を眺めていた。


遥花も観客の中にいて男子たちに囲まれている。


――遥花もやっぱ大変だな


そう思いながら視線を横に移すと音絃はゾッとした。

たくさんの人が明るい表情で声援を送る中、その一人だけは冷たい表情で試合を観戦している。

その冷たい視線は明らかに普通に過ごしていればする事のないようなそんなもの。

その視線の先にいるのは、


「蓮……」


なにか危なげな気配を感じながら試合を終えて、決勝に進むのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


今回の狙われているのは蓮くん。

学年の中でもカーストが高い蓮くんは目立ちます。

目立つ人はいい事もありますが、知らない内に他人の怒りを買う事もあります。

新キャラが二人出てきましたが、どんなタイプの人間なのでしょう?

後々出てきますからお楽しみに〜


今日の雑談タイム〜


㊗️フォロワー千人🎊

ありがとうございます!(´▽`)

なんだかんだ言って毎日更新していきますのでよろしくお願いします(>人<;)

ではまた次話で〜

(*´︶`*)ノ

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