第29話 球技大会の約束

その日の夜

夕食を食べている最中に遥花は音絃にお願いを申し出た。


「音絃くんにお願いがあるんですけど……」


「ん、なんだ?」


「球技大会で優勝したらまたご褒美が欲しいです」


「最近多いな……まあ、俺が叶えられる範囲ならいいぞ」


最近は出会った頃のような常識外れな事はしなくなったので安心して了承出来る。

なんなら音絃の方が遥花の願いを叶えてあげたいと思っているくらいだ。

だがそれだけでは音絃も面白くないのでこちらからも提案する。


「じゃあ……俺も勝ったら一個だけお願い聞いてくれるか?」


「エッチなのも……いいですよ?」


「やかましい……まあ、その顔的に冗談だろうけどさ。安心しろそういう事はしないから」


「音絃くんはヘタレなんですか?」


「違うからな……俺は大切なものはとことん大切にする主義なだけだ」


「やっぱり音絃くんらしいですね」


遥花から舐められているのかは分からないが、今が楽しそうなのでこれ以上は考えなかった。

球技大会は今週の金曜日なので明後日に迫っているので明日は少しだけ走ろうと思う。


夕食を食べ終わり遥花がキッチンで片付けをしていると音絃のスマホの着信がなる。

画面には母からの着信と表示されていた。


「出なくていいんですか?」


「母さんから。心配でかけてきたんだろうけど電話に出るか迷ってる……」


実は遥花と過ごした一ヶ月間にも週一回のペースでかかってきていたが、音絃はそれを全て拒否していた。

音絃の家族関係も少し複雑な為、一度電話に出なかったらズルズルと出にくくなって今に至る。

今の両親を嫌いという訳では無い。

むしろ感謝しているし、大人としてめ尊敬している。


「出ればいいじゃないですか」


そう言ったのはキッチンにいた遥花だった。


「心配をして電話をかけてくれる親がいるのは凄く羨ましいです……」


羨ましそうな表情の裏に辛い表情があるのが音絃には丸見えだ。

遥花が親と上手くいっていないのは見て分かる。

音絃が置かれている立場は遥花に比べて格段に優しいだろう。


「そうだな……ちょっと出てくるよ」


「はい。音絃くん行ってらっしゃいです!」


遥花の笑顔を背に家から出て、母からの着信に応答する。

深い沈黙の後にスマホから声が聞こえた。


『もしもし……音絃なの?』


「久しぶり……母さん。中々出られなくてごめんね」


『体調は?学校は?友達はいるの?』


久しぶりの通話に驚きを隠しきれていないようで次々に質問を投げかけられる。

今の音絃が落ち着いていられるのは遥花のおかげなので人の事は言えないが。


「母さん落ち着いて……俺は元気でやってるよ?」


『……本当に元気そうね。前の電話の時より声が明るいわ』


「分かるの?」


『それは当たり前よ。血が繋がってなくても私とお父さんは音絃の親なんだから。息子の声を忘れる訳無いでしょ?』


音絃は本当に驚いた。

まだ心のどこかで血の繋がりがないからと思っていたのかもしれない。

やはり音絃の本当の両親は血が繋がっていない今の両親だと心から思った。


「そっか……俺は元気だから心配は要らないよ」


『そういう訳にはいかないのよ?近い内に音絃が住んでいるマンションに行くから片付けて置きなさいね?』


「もう片付いてるよ……来る時は連絡入れてね」


部屋が片付いたのも遥花のおかげなのだがそれも言えるはずもない。

それに遥花はいつも家に居る為、この前のようにいきなりの訪問をされると言い訳が出来ないからだ。


『それはどうかしら……夜は冷えるから暖かくして寝るのよ?』


「最後の返事が不安要素だけど……暖かくしてますよ。お休み母さん。父さんにもよろしく」


『お休み音絃』


電話を切り、音絃は空を見上げる。

街の灯りが眩し過ぎて明るい星しか見えない。

実家の田舎ならもっと綺麗な満天の星空を眺める事も出来るだろう。

いつか遥花と実家で見たあの空を一緒に見たいなと思いながら家の中に入った。


翌日

学校では聖女様こと遥花が陽キャ組の尋問じんもんにあっていた。

ほとんどは男子のようで筆頭は雄人らしい。


「白瀬さん……どうしてですか?俺は白瀬さんと一緒の競技に行くと言ったじゃないですか」


また自分中心に物事が動くと勘違いしているようだ。

遥花もこういう連中をあしらうのは大変だろう。


「本当に江口さんには申し訳ありませんでした。ですがあの場面で動かなくて誰が動くでしょうか?」


「誰かが動くに決まってる!」


「それではダメなのです。誰かがやるはずだと誰もが決めつけて動かなければ元も子もないのです」


働きアリの法則のサボる二割はあの陽キャ組の事だろう。

そして六割の努力するタイプが遥花だ。

音絃は残り二割のたまにサボる分類に入るかもしれない。


「それは……その……」


「ですから私が動かないといけないと思い行動に移しました。ただそれだけです」


遥花はそう言い切ると予鈴が鳴り、担任が入ってきて屯っていた集団も各席へと散った。

聖女様スマイルと事実を淡々と言い続けるこのダブルパンチは無敵だなと毎回思う。

その後は陽キャ組からの尋問は特に無かったようでいつも通り。


「音絃くんやーやっぱ聖女様ぱねーな」


「確かにな……」


あれが全て偽りの理由だと言う事を音絃だけが知っているので周りが思っている以上に凄いと思っている。

音絃が遥花の方を向いているとくるっと後ろを振り向き遥花の笑顔を見せてくれた。


「蓮……球技大会勝とうな」


「おう、勿論だ」


必ず球技大会に勝とうと決心する音絃だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


昨日のコメント見てふと思いついたタイトルがこちらです。


『聖女無双〜恋する乙女は最強だった〜』


どうでしょう?

まあ、タイトルは変えないんですけどね〜

次回から球技大会編突入です!


それぞれ二人の願いとは……

皆さんも考えてみて下さいね〜


今日の雑談タイム〜


九州、中国地方は雨が凄いですね……

大丈夫でしょうか?

身の安全が第一ですので身体には気をつけて下さい


あと少しで本作のフォロワーが1000人になります!٩(ˊᗜˋ*)وティッティリーン!

レビューも300を超えてどちらも目標の3分の1まで来ました!٩(ˊᗜˋ*)وティッティリーン!

この二人が結ばれる瞬間を3000人の人に見てもらう為、頑張ります!

ではまた次話でお会いしましょう~

good bye(* ̄▽ ̄)ノ

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