第27話 遥花の気持ち
ハロウィンが終わると
日が暮れるのも夏に比べて随分と早くなり、昨夜の空の星座も秋と冬のものに変わっていた。
季節の移り変わりを明確に見て取れる今日この頃に音絃はまたどうしてか海を見に来ていた。
だが前回とは違い、今回は遥花も一緒だ。
「言われるがままに海に来たけど、どうしたんだ?」
「ちょっと恋しくなっただけです。昔は一人の時よくこうして海を眺めていました」
「まあ、海を見てると落ち着くよな」
「海は生命の祖ですから……」
全ての生命の祖である尊大な海を見る為がだけにこうしてここまで来たらしい。
遥花が一緒なら音絃はどこへでも行っていいと思っている。
チラッと遥花の方を見ると少し寒そうにしていた。
音絃は黙ってジャケットを脱いで遥花の方に羽織る。
「ありがとう……音絃くんは寒くないんですか?」
「まあ、寒いっちゃ寒いが問題はない」
ここは男として当たり前の事だと思う。
建前や気まぐれなどではない。
遥花を大切にしたいと思う純粋な気持ちから湧き出る『優しさ』が冷えた身体を温めてくれる。
「そんで……これからどうすんだ?」
「その……家に帰りませんか……?」
「遥花が帰りたいなら……お気に召すままに」
遥花の要望で二人は帰宅した。
帰り際にこちらを見つめる視線には全く気付きもしないまま。
次の日
音絃はいつもより遅れて学校に登校すると教室がいつもより騒がしかった。
何事かと蓮に問うと「原因はお前だよ」と言われるだけで一蹴される。
特に心当たりがない為、音絃は首を傾げるばかりだ。
『なあ……知ってるか?うちの学校の聖女様が休日に男と海を見に行ってたらしいぜ』
『聞いたよ。なんでも男の方はめっちゃイケメンで、この学校でそんな奴を見た事ないって女子たちが言ってた』
「さあて……誰の事やらね」
「やかましい……」
幸い音絃の
「白瀬さん誰なの?!」
「白瀬さんって彼氏いたの?」
遥花の元に押しかけるのは女子ばかりで男子はというと絶望して机で俯いている。
相当ショックなのだろう。
いつもなら遥花の周りに屯っている陽キャ組も今日は静かだ。
「ねえ……誰なの?教えてよ!」
「皆さんは勘違いをしていますよ?」
遥花のその一言にクラスはまたざわつきが生まれる。
俯いたままだった男子も思わず顔を上げた。
キョトンとした表情で遥花は続ける。
「皆さんは男性の方と一緒に居れば、その相手を交際関係にあるものだと思われるのですか?」
「そ、それは……」
「確かに私はあの日、男性の方と一緒にいましたけど、あくまで知り合いです。相手の方が迷惑されるので噂を立てられるのは困ります」
きっぱりと言い切った後のクラスの反応は三つに別れていた。
歓喜に溢れる男子と少し残念そうにする女子。
それと全く無関心なリア充組。
そして本人である音絃はどれでもなかった。
(自分で言ったはずじゃないか……なのになんでこんなにも辛いんだ)
このクラスのただ一人だけ、彼だけは傷付いていた。
(この心のつっかえは……なんだ?解らない……苦しい。解りたいこの気持ち……)
自分が傷付き、本当に思っている気持ちにも気付かずに音絃は違和感だけを抱えて一日を過ごした。
勿論、授業内容なんて全く入ってこなかった。
「音絃……音絃!聞いてるか?」
「あ、わりぃ。ぼーとしてた……話なんだっけ?」
「今日は心ここに在らずって感じだけど、もしかしてあれか?」
放課後の下校中
蓮と一緒に下校していた。
隣を歩く蓮は音絃がいつもと違う事に気付いていたようでその理由も的確に当ててくるだろう。
「いや……その先は言わなくていい。自分でも分かってるから」
「そか……まあ、なにかあったり
「ありがとう……」
「親友ならこんくらいは当たり前だろ?」
蓮は本当に頼りになる親友だ。
だが出来るだけ助けは借りずに自分なりの結論を出したいと思う。
なんなら直接遥花に聞いてみるのもいいかもしれない。
この心のつっかえを取らないとなにも集中出来ないので解決の最優先事項としよう。
今後の予定を立てながら家路についた。
家に入るといつも通り遥花がキッチンで夕食の準備をしている。
『あくまで知り合いです』
朝のあの言葉が頭にフラッシュバックする。
する度に胸がズキンと痛くなる。
自分から言ったはずだったのにこうして自分の心を締め付けて痛みが離れない。
「なあ、遥花……」
「あ、おかえりさない音絃くん。どうしたんですか?浮かない顔してますけど……」
「遥花にとって俺って……なんなんだ?」
濁す事なくストレートに聞いた。
音絃の頭の中は既に
遥花は酷く動揺したが音絃の真剣な顔を見て落ち着いた。
なんて言って欲しいという願望はない。
ただ遥花の今の気持ちが純粋に知りたいと思った。
「私は音絃くんの事が一番大切です。何かと私が差をつけるのは
遥花は言い切ると少し照れくさそうにニコッと微笑む。
あの一言はあの場を乗り切る為の偽りの言葉に過ぎなかった。
そんな事はとうの昔に分かっているつもりだった、いや分かっていたのに。
そして音絃は理解した。
遥花を大切にしたいと思う気持ちの裏に、遥花にも音絃の事を大切にして欲しいという欲求がある事。
これは音絃の欲求。
その証拠に胸のつっかえが今ではすっかり無くなっている。
音絃は大切に思ってくれているという幸福感とまた自分の欲求を満たそうとした羞恥感に囚われる。
「音絃くんは私の事をどう思ってるんですか?」
「遥花が一番大事だ。迷う余地もない」
その言葉を言い切ってから思考回路が戻り、今まで聞いてきた事がどんなに恥ずかしい内容だったかを理解する。
「すまん……今のは忘れてくれ……」
「いやです!もうその言葉は私のものです!」
小悪魔モード遥花が二ヒヒと笑う。
今日もまた顔を合わせる事が出来なそうだ。
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〜後書き〜
普通に生きていればこんなに回りくどい考え方なんてしないかもしれません。
でも音絃くんの純粋な心情を描いていくとこうなります。
本来ならあまり細かな心情の描写はされない事が多いですが、本作では欠かさずしていきます。
それもこの物語の見所なので是非見て欲しいです。
今日の雑談タイム〜
前話ではコメントありがとうございました!(´▽`)
ほんとに嬉しくて作者泣きました(本当です笑)
毎日一話更新できるよう頑張ります!
ではまた次話でお会いしましょうー
(* ̄▽ ̄)ノ~~ マタネー♪
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