第26話 聖女様と友人とハロウィン③

「五品目はロールキャベツだってよー」


リビングに行くと蓮と杏凪がニヤニヤとした表情で座っていた。

ロクな事を考えてないのは誰が見ても一目瞭然だ。

音絃はあえて無視をして自分の席へ座る。

遥花も用意が終わりキッチンから戻ってきて席についた。


「それじゃあ……遥花がなんか一言言ってから乾杯でもしましょうかね」


「今日の主役って言っても過言じゃないな」


「蓮くんの言う通りだよ!はるっちが音頭おんど取ってくれなきゃ始まらないよー!」


「皆さんが言うなら……」


コホンと一回だけ咳を挟んでから話し始める。

遥花が本当にそれっぽい事をしているのが少し面白かった。


「ご指名に上がりました……白瀬遥花です」


「そのセリフどこで覚えたんだよ……」


「この前の夜にドラマであってた内容です。音絃くんと見たのに覚えていないんですか?」


「ほうーお二人さんは進んでますねー?」


遥花は自分が発した言葉の意味をやっと理解したようで後ろを向いて顔を伏せている。

音絃も少しは照れたが遥花による直接攻撃ではなかった為、そこまで動揺する事なくその場を乗り切った。


「やかましい……遥花が音頭取れなくなっちまうだろ」


「わりぃわりぃ。白瀬さん続けてー」


「うぅぅ……乾杯……」


「「「 乾杯! 」」」


食卓はどれも美味しそうな料理ばかりで何を食べようか悩むところではあるが、音絃は最初に頂くものは決めていた。

遥花が音絃が好物だからと作ってくれたロールキャベツを取り皿に取り移す。

箸で半分に割ると中から肉汁が溢れ出て、口に運ぶとコンソメの風味が食欲をそそる。

噛むと柔らかく肉汁が出るジューシーな味に仕上がっていた。


「音絃はまじ美味そうに食うよな」


「美味いんだからしゃーない。というかなぜ料理に手を付けてないんだ?」


手を止めて三人を見ると料理には全く手を付けておらず、代わりに頬杖をついて音絃を眺めている。


「俺たちの事は気にするな」


「黒原くんは気にせず食べてていいからね」


「音絃くんはどんどん食べて下さいね。私たちの事はお気になさらず……」


「いや……気にするよ。てかなんの下りだよ……」


結局三人はすぐに食べ始めたが対して音絃は少し料理に手を付けづらくなってしまった。

もう少ししてからまた食事を再開しようと楽しそうに会話している三人の姿を眺める。


「こんな美味い料理を毎日食べてるのか……」


「黒原くん……私がはるっちをお嫁さんに貰っても大丈夫かな?」


「いや……俺に聞くなし」


四人でこうして集まるのは今回で初めてのはずなのだが自然とそんな気はしない。

遥花も杏凪と友人になってからはよく笑うようになり毎日が楽しそうだ。


「なんだ食べないのか?じゃあ俺が貰ってあげようじゃないか!」


「このやろ」


「コラ!二人ともメ!」


「「すいません……」」


こうして楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、外の日が暮れてきた。

ベランダから見る夕焼けは目を見張るものがある。

それを見せようと三人をベランダに呼んだ。


「絶景だな……街中にこんな綺麗に夕焼けが見える場所があるなんてな」


「蓮くん……その……」


「今度二人だけで夕焼け見に行こうか杏凪」


杏凪は顔をパッと輝かせた。

こういう蓮の察しの良さも含めて音絃はかっこいいと思っている。


「うん!行きたい!」


「そこのお二人さん?花より団子状態ですけど大丈夫でしょうか?」


「まあ、そうだな。夕焼けより杏凪だな」


遥花の無自覚とは違い、蓮は自覚があるからこそ聞いているこっちまで恥ずかしくなってくる。

それを堂々と口に出来る程に蓮が杏凪を愛している証拠でもある。


「ほんとにいつまで経ってもアツアツだな……」


今日のハロウィン仮装パーティーはここでお開きになった。

途中からみんな仮装を脱いでいたのでハロウィンなんちゃって仮装パーティーが名前としては相応ふさわしい気がする。

蓮と杏凪が帰り音絃は再び遥花と二人きりになった。

それはいつもと変わらない時間で何か起こるわけでもなく片付けの手伝いをする。


「今日は楽しかったか?」


「はい……夢のようでした」


「楽しんでくれたんから良かった。まあ、料理も仮装作りも遥花がしてくれたから俺の方が楽しませて貰ったが正解かな」


実は音絃が蓮と遊んだ事は数回しかない。

蓮の彼女である杏凪に遠慮して断る事の方が多かったのだが、遥花がいてくれるおかげで回数も増えるだろう。


「遥花は杏凪の事を好きか?」


「勿論大好きですよ?」


「信頼出来る人がいて良かったな……」


もしかしたら遥花は離れていくのかもしれない。

純粋無垢なその笑顔を信頼出来る人に見せるのだろう。

遥花にとって音絃は誰かを信じれるようになったきっかけくらいになってしまうのではないだろうか。


そんな事を考えていると突然、遥花が音絃の頭をゆっくり撫で出した。

動揺を驚きが追い越してきて動けない。


「ごめんなさい!音絃くんが怯えてる気がしたので……」


言われてハッと気付いた。

遥花の言う通り音絃は怯えていたのだ。


「なあ……かっこ悪い事を言ってもいいか……?」


「どこにも行かないでくれ」なんて直接は言えない。

だからせめて間接的に伝わる自分なりの言葉を振り絞る。


「今日のロールキャベツめっちゃ美味かった。その……また作って欲しい」


これが今の音絃の限界。

好意は別において遥花は家族のような関係に位置している。

だが遥花の幸せが音絃にとっても一番大事なのでもし彼氏が出来れば音絃自身から離れるつもりだ。

それがどんなに辛い事だろうと。


「またたくさん作りますね。その時も全部完食して下さいよ?約束です!」


「ああ、約束だ。絶対守るからな!」


「期待してますね」


なんのたわいのない会話で満たされていく。

目の前にいてくれるだけで満たされていく。

遥花の存在を感じるだけで満たされていく。

欠落していた音絃の感情を思い出したのが自分でも分かった。


気遣いや気まぐれじゃないその感情の名は……『優しさ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


実際の現実社会にもこういう事が本当にあります。

感情の欠落はショックやストレスで忘れてしまうものだそうです。

音絃くんも遥花さんも普通とは違う少し変わった形の関係だという事が分かって頂ければ幸いです。

音絃くんは「好き」という感情に辿り着くのが恐ろしく遅いです。

遥花さんは何となく感じている感覚くらいです。

二人とも自分の感情に気付かないまま関係が進展していく過程を温かく見守って貰えるとありがたいです……。

まだ両片思いにも達していない二人をどうぞ宜しくお願いします。


今日の雑談タイム〜


毎日一話考えて2500文字書いてるんですけどいかがでしょうか?

読者がいてくれているのは皆様のいいねで分かるんですけど実際面白いと感じてくれているのか分からなくなります。

率直な意見などがあればよろしくお願いします。

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