第24話 聖女様と友人とハロウィン①

そしてハロウィン当日


今日は十時頃に音絃宅集合となっているのだが音絃は今、海に来ていた。

なぜここに居るのかを説明するには約二時間前に遡る。


起きると今日のキッチンからは包丁がまな板を一定のリズムで叩く音が聞こえてきた。

寝室を出てキッチンへ向かうとエプロン姿の遥花が鼻歌を歌いながら料理をしている。

音絃が起きた事にはまだ気付いていないようでまだ鼻歌を歌い続けていた。


「遥花は身体大丈夫か?」


「あ、音絃くんおはよう。昨日は早く作業が終わったのでそれなりに早く寝ましたよ?」


「無理だけはするなよ……そんなんで俺は後悔したくないからな」


「音絃くんはほんとに優しいですね。私も心配はかけたくないので無理しない程度に頑張りましたよ」


それを聞いて音絃は少し安心すると遥花の料理の邪魔にならないようにリビングに戻った。

その後二人で朝食を取った。


「やっぱ美味い……」


「音絃くんが美味しそうに食べてくれるから私も作りがいがあります」


「そか……それで昼食だけど……」


「そうでした。その事なんですけど……せっかくならサプライズにしたいので少しの間だけ外に出ていて貰えませんか?」


という経緯で海が綺麗だからと勧められて今の現状に至る。

確かにその海の風景は綺麗で心が安らいだ。

だが十月の海風は冷たく数分居ただけで身体が冷えてしまった。


「さっむ……」


左腕に付けた腕時計は九時半を示している。

そろそろ戻ろうと歩いてきた道を引き返す。


「音絃……くんなの?」


聞き覚えのある声に名前を呼ばれ振り向くとそこには彼女がいた。

当時、全てを失った気でいた音絃に唯一、手を差し伸べてくれた人が目の前にいる。


灰音はいね……」


音絃は彼女から逃げるように走り去った。

どんな顔をして会えばいいのか分からなかったのだ。


唯一手を差し伸べてくれた彼女に酷い事をした俺が話せる事などない。

何もないのだ……


音絃が自宅の前に戻った時には時計の針は十時十分を示していて中からは賑やかな声が聞こえる。

あんな事を過去にしてきた自分が本当にここへ入っていいのか分からなくなった。

このドアの向こうには幸せすぎる空間が広がっている。


「俺にそんな資格はあるのか……?」


ドアの前で入ろうか迷っていると中から蓮が出てきた。


「お、やっと来たか。早く入れよみんな待ってるぜ」


「そうか……ちょっとしたら入るよ。てかお前ドラキュラ伯爵感あるな……その格好」


「だろ?杏凪の手作りだぜ」


嬉しそうに自分の彼女の自慢をする蓮をよそに自分が本当にここに入っていいのか考えていた。

蓮は蓮で色々な事があったと聞いている。

その過去の色々な事とどう向き合っているのだろうか。


「なあ蓮。俺はこの場所にいていいんだろうか?」


蓮は音絃の様子がおかしい事に気付いたらしく察して話に付き合ってくれた。

廊下の柵によりかかりながら蓮は持ってきたホットコーヒーを飲む。


「音絃くんやー。お前さんがどういう人生を歩んできたかを詳しくは知らんが俺が言えるのはこれからの人生をどうするかじゃないのか?人生は前にしか続いてないんだからさ……お前も前向けよ」


「なんというか……説得力あるな。お前が能天気野郎だからか?」


「お?喧嘩売ってんのか?」


腕を組まれてじゃれあっていると家の中から遥花と杏凪が顔だけを出す。

杏凪は黒のとんがり帽子を被っているので恐らく魔女だろう。

遥花は頭に黒の猫耳を付けたフードを被っているので黒猫の仮装だ。


「二人とも遅いよー!早く始めよう!」


杏凪は上機嫌でいるのと正反対に遥花は恥ずかしがっているのか下を俯いてばかりいる。

具合でも悪いのだろうか。


「ごめんごめん。ちょっと話し込んでた」


「今行くけど……遥花具合でも悪いのか?」


「違うんです……その……気にしないで下さい」


「遥花がそういうのならそうするけど無理してるなら休めよ?」


音絃と蓮は二人で家に入ろうとするとドアから出ていた遥花の頭が引っ込み部屋の中へと走っていった。

蓮と杏凪の反応から見てロクな理由じゃない事は何となく予想がつく。

家の中は外に比べて暖かく、冷えた身体もすぐにポカポカになった。


「黒原くんの衣装はこれ!はるっちが作ってくれたんだよ?」


「了解だ。着替えてくる」


寝室に入って渡された袋を開けると真っ黒な衣装が畳んで入っていた。

それを広げると全身黒のコートみたいな服で、他にも袋には仮面があってそれを見るとなんの仮装かが一瞬で理解出来る。


「よりによってハロウィンの象徴 ゴーストフェイスかよ……」


用意されたゴーストフェイスの衣装に着替えてみんなが待つリビングに向かった。


「はるっち……いい加減に観念したらいいじゃん」


「白瀬さんめっちゃ似合ってると思うぜ」


リビングでは毛布にくるまった謎の物体に蓮と杏凪が一生懸命声をかけていた。

その様子をドアの陰から見守っているとそれに気付いた杏凪が声を上げて後退あとずさりした。


「蓮……くん……あ、あ、あれって……」


「ん……ああ、もう着替えたのか音絃」


「ふぇ……?黒原くん……?」


音絃が仮面を取り素顔を見せると杏凪は大きな溜め息をついた。

そこまでの反応をする程にリアルっぽく見えたのだとしたらそれは遥花の実力だろう。


「そんなに驚くなよ」


「だって……本物に見えたんだもん!」


「杏凪の言う気持ちも分かるよ……あの仮装は音絃に似合いすぎてるもんな」


「音絃くんはこれかなって思ったんです!」


毛布の中から出てきた遥花は自慢げに言う。

確かに上手なのだがそんな事より今の遥花の格好に目がいってしまう。

遥花は頭に猫耳がついたフードに露出の多い黒のワンピースを見にまとっている。


「……可愛い」


遥花の格好に動揺して思考回路が狂い、純粋な感想が口から出てしまった。

この姿が脳裏に焼き付いて暫く離れてくれそうにない。


「音絃さんよー。口から本音がこぼれてますよー?」


「そ、そ、その……着て良かったです」


「その……なんだ。可愛いと言うののどこが悪い!」


「誰も悪いなんて言ってないよ?黒原くん」


完全に墓穴を掘った音絃のハロウィン仮装パーティーはこれから始まるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


遥花さんの姿を頭で想像して(*´д`*)ハァハァ言ってるどうも作者です。

ハロウィン当日の前半という事で後半続きます!


そして変更です

サブタイトルを少しだけいじります。

御容赦ください泣


今日の雑談タイム〜


台風が迫っていますが皆様は大丈夫でしょうか?

身の安全が一番なので身体には気を付けて下さいね

勿論、これはコロナでも言える事ですからね!

作者は素潜りの後の筋肉痛が……

ではまた次話でお会いしましょう!

( ゚д゚)ノシ サラバジャー

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