第23話 聖女様の仮面

朝起きてリビングに向かうと遥花の姿はなく、朝食と書き置きが机の上に置いてあった。


『ハロウィンの仮装衣装を作るので朝食を置いておきます。一緒に食べれずごめんなさい……』


丁寧に謝罪まで書いてある。

こっちからすればありがたい事この上ないのだが、やはり最近では一緒にいる時の方が多かったので少し寂しさを感じていた。

結局、朝食は一人で食べてから早めに学校に向かう事にした。


学校に着いてそうそう校門で蓮が待っていた。

校門に背中を預けて手を組んでいるその姿はそれっぽく見える。


「おはよう蓮。何してんだ?」


「何してんだじゃねーよ。昨日の一件でアイツらが黙ってる訳ないだろ?」


「そういえばそんな事あったな……すっかり忘れてたよ」


心配してわざわざ待っていてくれたらしい。

本当に気が利くいい友人だ。

蓮には頭が上がりそうにない。


「今日はとりあえず出来るだけ一緒に行動しようぜ。まあ……普段通りでも大丈夫だろう」


「……用心しとくよ」


音絃と蓮はその後も軽い雑談や世間話しをしながらも朝の時間を過ごした。

勿論、途中で杏凪も参戦してきたが教室に遥花の姿はない。

心做こころなしかクラスの数人がソワソワとしているようにも見える。

確かに遥花は朝のHRが始まる三十分前にはいつも教室にいてその周りに生徒がたむろれってた。


「おはようございます」


予鈴が鳴る一分前に遥花は教室に入ってきた。

その姿を見た生徒たちがぞろぞろと近寄ってくる。


「おはよう白瀬さん。今日は遅かったですね……」


「ええ、ちょっと私的作業をしていて遅れました」


「ちなみに何していたのか聞いてもいいですか?」


屯っている生徒の間をズカズカと払いけながら遥花の前に立ち、今の質問をしたのが雄人だ。

遥花の表情が一瞬だけ曇ったのが見えたが周りは気付いていないらしく色々な質問を投げかけている。


「それは皆さんにもお教え出来ません。本当に申し訳ないです……」


何気ない質問にも答えられなければ丁寧に頭を下げて謝罪をする。

それもこの学校で聖女様という異名で呼ばれている理由の一つだろう。

その後も担任の教師が教室に来るのが遅れているようで、あれから十分程あの状態が続いている。

遥花の顔にも苦笑いが増えてきているようにも見えたのでさすがにそろそろ注意すべきだろう。


「お前ら……そろそろ席に戻った方がいいんじゃねーか?」


それに真っ先に反応したのは勿論彼だった。

ズカズカとまた生徒を払い除け蔑むような目をしながら音絃の方に近付いてくる。

蓮は席から半分立ち上がりいつでも動ける準備をしているようだ。


「これはこれは陰キャの腹黒くんじゃないですか。どうした……なんか文句でもあるのか?」


「いや……文句があるから言ったに決まってるだろ?さっきから横で屯われても目障りなんだよ。早く席に戻れって話だ」


「てめえ……最近調子乗りすぎじゃねーか?昨日絞めてやったのにもう忘れたか?」


如何いかにも自分が頂点に立っている人間だと思い込んでいる目をしている。

全く周りが見えていないと言うよりは自分の力を失うのが怖くて周りに目を向けようとしていない。

そんな人間にこんな目を向けられても何を言われようとなんとも思わない。


「要らん記憶は消去する主義でな……もう忘れた」


「てめえ……まじで覚えとけ。後でお前の大好きな体育館裏に来い」


「だからいつの時代の話だよ……おい、なんだよその手は」


昨日掴まれた右肩とは逆の左肩に雄斗は手を置く。

雄斗の顔は不気味な程に笑顔で音絃は咄嗟に左肩に乗っている手を振りほどいた。

振りほどく際に軽く叩く形になってしまったが勝手に肩に手を置く方が悪いので気にしないでおく。


「痛いな……お前が先に手を出したんだ。じゃあ俺に殴られても文句はないよな?」


「あるに決まってるだろ。俺はお前には動かされない。お前の駒じゃないんだから気安く触るなよ」


「言わせておけば……もういい。一回死ね」


そう言うと雄斗の握られていた拳が真っ直ぐに音絃の顔面向かって飛んでくる。

避けなければ殴られて正当防衛が成立し、仮に雄斗を殴っても音絃の無条件勝利で解決する。


「やめて下さい!」


そこに反応したのが聖女様こと遥花だった。

真っ直ぐ音絃と雄斗の方に近付いていくその表情は怒りと悲しみで溢れている。

まずは音絃の方を向く。


「黒原さん……相手が躍起やっきになりそうな言い方をしないで下さい。そんなに喧嘩したいんですか?」


「いや……そう言う訳じゃないけど」


「じゃあそうして下さい」


「お、おう……」


遥花は次に雄斗の方を向く。


「江口さん……あなた今さっき一回死ねって言いましたよね?」


「白瀬さん……確かに言ったぜ。だってこいつに生きる価値ねーですからな。白瀬さんの邪魔になる奴は俺が全員排じ……」


遥花は雄人が言いきる前に平手打ちでそれを遮断した。

クラスの全員は勿論、音絃も雄人も驚いていた。


「へ……白瀬さん?」


「勝手に私の事を決めないで下さい……私の事は私で決めます。でも江口さんは私の為を思ってした行動なんですよね?」


「そうです……白瀬さんの為を思って……」


「私を思って下さるのはとても嬉しいです。ですからもし私を思って下さるなら今度からはこんな事はやめて下さいね」


遥花は言い切ると聖女様の笑顔を浮かべて自分の席へ戻って行った。

この朝の騒動は瞬く間に学校中に広がり聖女様の人気は更に上がったという。


学校が終わり家に帰ると遥花がいつも通り夕食を作っていた。

朝の騒動が嘘のように楽しそうに料理をしている。


「ただいま。今日の夕食はカレーだな」


「おかえり音絃くん。ご名答ですよ」


「今日の朝の件だけど……」


「音絃くんはよく我慢しています。あの時は私を助けようとしてくれたんですよね?」


音絃は遥花が考えている事が大体分かっていたから言われた時はそこまで気にしていない。

遥花が発した言葉に全く重さを感じていなかったからあれは聖女様の仮面を被って発した偽りの声。

一緒にいて居心地がいいのは聖女様ではなく白瀬遥花という一人の少女だ。

だからその言葉は音絃にとってはなんの意味もない。


「衣装作り……無理するなよ。パーティーより遥花の身体が大切だからな」


「音絃くんのそういうところ私好きですよ?」


「ありがとな……夕食は一緒に食べるのか?」


「勿論ですよ。一緒に食べると美味しさも二倍ですからね」


遥花は口元を緩めてトロんとした表情を浮かべる。

この表情は自分だけが知っていたいと思いながら明日のパーティーにも思いをせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


久しぶりの学校編でした〜

雄人くんみたいな子が当時は私が通う学校に居ましたね……覚えてます。

次話はハロウィン仮装パーティーです!

遥花さんの格好が……


今日の雑談タイム〜


今日は素潜りに行ってきました〜

飛び込みに失敗してめちゃんこ痛かったです

アンドンクラゲが至る所にいて痛かった

ウニが足に……痛かったです

という事で結論ですが……痛かったです。以上

ではまた次話(o・・o)/~~

グッパイ\( ˆoˆ )

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