第22話 友人の提案

「よーっす!ただいま」


「ただいまー!買ってきたよー」


ドアを開けると買い物袋を両手に持った蓮といつも以上にテンションが高い杏凪が立っていた。

二人はここに来るまでずっと腕を組んで歩いて来たのだろうか。


「ほんと見せつけるな……お前ら。とりあえずおかえり……で合ってるか?」


「いやー我が家にやっと着いたぜ」


「いつからお前の家になったんだ……まあ上がってくれ」


代わりに買い物をして来てくれた者を玄関に立たせ続けるのはいくら友人でも失礼に値する。

だがこの二人のニターとした顔を見てると追い出したくもなるのも事実だが。


「お邪魔しまーす!」


「今お茶出しますね」


「白瀬さんお構いなく……僕たちはお邪魔してる側なので」


「なんか蓮がちゃんとしてると寒気がするぞ」


「悪かったな……この同棲野郎め!」


「こんにゃろ」


この後すぐに遥花と杏凪に止められて音絃と蓮は大人しくなった。

「一応ここは俺の家なんだけど」と言おうとしたが二人の乙女の視線が怖かったのでやめておいた。


「それで黒原くんの肩は大丈夫だったの?」


ふと杏凪がここに来た理由を思い出し音絃と遥花に問う。

心配をかけた身でもあるのでお礼をしないといけないだろう。


「遥花 いわく、内出血だってさ」


「ちょっと後に残るかもです……学校の先生方に言えば何らかの対応をしてくれるはずです」


「俺からも言ってやるから」


「言ったところで最高でも謹慎きんしん程度にしかならないだろ……!」


結局はそこまでしかならないのだ。

その謹慎期間が終われば、またエスカレートするだけでその意味を成さない。

もとよりそういう行為に及ぶ人間に更生こうせい余地よちはないのだ。


ハッと我に返って顔を上げると三人がけわしい表情を浮かべていた。


「その……ごめん最低だ。なんも考えてなかった」


「いや、お前は悪くないしよく我慢してるよ。それに音絃がだろうしな」


「やめろよ……思い出したくもない。まあ、それでお前と知り合えたし後悔はしてないよ」


「そうだよ……黒原くんはよく我慢してるから私たちにちょっとは愚痴ぐちとか吐いていいんだよ?」


軽蔑けいべつされさげすまれない温かい場所が今ここにある事に胸が熱くなるのを感じた。

求め続けていた理想の風景が目の前にある。

長く辛い人生を歩んで来た音絃にとってこの世の何よりも価値がある物に思えた。


「その……華園さんと音絃くんの出会ったきっかけが気になったのですか……」


好奇心が顔から溢れている遥花は我慢しきれなかったようで質問を投げかけてくる。

釣られて杏凪も「私も気になっていたんだー」と言いながら話に乗っかってきた。


「初めて蓮と会った時も色々な事があったが、それはまた別の機会に話すよ」


「そうだな……話し出したら長くなるしあんまりいい話じゃないからな」


「二人ともケチ……蓮くん今度教えてね!」


「分かったよ……杏凪には敵わないな」


蓮と杏凪はまた勝手に二人の世界へ入ってしまっているらしい。

ここらが話の終わらせ時だろうと話題を変えようとすると遥花が横から手を重ねてきた。


「音絃くん……私にも教えて欲しいです……」


その体勢から如何いかがわしい内容が頭によぎったが振り払う。


「わったよ……遥花にも今度教えるからその手を離してくれないか?その……なんだ恥ずかしい」


「わ、わ、ごめんなさい!」


また無意識の行動だったようだ。

もうそろそろいい加減に学んで欲しいのだが。

そんな音絃と遥花の会話を見た蓮と杏凪は邪推じゃすいするような目を向ける。


「音絃……頑張れっ!」


「やかましいわ……」


「はるっち……無自覚ご馳走様ちそうさまでしたっ!」


「どういう意味でしょうか……?」


このまま話をしていたら音絃ではなく遥花の口から

ボロが出そうだ。

早めに切り上げる為に話を変える。


「兎にも角にもだな……今日はありがとう。出来る限りのお礼をしたい。何かないか?」


「水臭いな……でも一つ言うならだけど……」


「ハロウィンパーティーがしたい!」


「杏凪……今言おうとしてた事一緒だったよ」


「はいはいーイチャラブタイムは後にしてくれ。んで……それで何をするんだ?」


現状この家でのパーティーは可能だが主に何をするのかが問題だろう。

確かにハロウィン当日は休日だが出来る事は限られてくる。

用意出来るとすればお菓子くらいじゃないだろうか。


「俺は仮装パーティーがしたいんだよ!」


「私もしたい!」


「仮装の衣装はどうするんだよ……明後日なんだから時間はないぞ?」


仮装衣装を用意するにもそんなに都合良く売っている店は少ない。

あるとすればド〇キくらいだろうが生憎この近くにはない。

明日は学校があるので行く事はほぼ不可能だ。

仮装パーティーは諦めて貰うしかない。


「あの……簡単な物でもいいなら私作ります」


「私も作りたい!はるっち教えてね」


「私で良ければいいですよ!」


「大丈夫なのか……?時間とかは」


さっきも考えていた通り時間はないのだが、無理はしないだろうか。

遥花は三人の方をそれぞれ向き直し深呼吸をした。


「私にとっては初めての同級生との集まりなのでもう嬉しくて楽しみで堪らないんです。最近は本当に幸せで生きてて良かったって初めて思えたんです」


一言一言の感情の入った言葉の重さを黙って聞いていた。

遥花の表情は柔らかな笑顔で心の底から楽しみにしている事が分かる。


「そか……分かった。無理はしない事だけは約束な」


「音絃くんの衣装も作りますね!」


「俺の分は大丈夫」と断ろうとしたが今の話を聞いて言うのをやめておいた。

あんなに楽しそうな表情をされては何をされようと全て許してしまいそうだ。

その表情の裏には遥花の苦難な道のりだった人生を想わせて心が痛む。


その後も話を進めてハロウィン仮装パーティーをする事になり衣装は各自持参、料理は遥花が腕をふるってくれる事になった。

遥花が幾らいいと言っても負担をかける事には違いないので別の何かで返していこうと思う。

ある程度の予定が決まる頃には外は暗くなりかけていて蓮と杏凪はそのまま帰って行った。


「音絃くん……私、楽しみすぎて顔が緩んでしまいそうです……」


「安心しろ……もう既に緩んでるよ……俺もだが」


「音絃くんも楽しみなんですね」


「まあ……そういう事にしとくよ」


結局、緩んだ二人の顔はその日のうちには戻らず家の中は笑顔が絶えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


音絃くんは何で顔が緩んでいたんでしょうね?

皆さんの想像にお任せしますね

優しい世界って本当にあるんですね……羨ましい

作者自身もこの二人の関係を書けば書く程幸せになって欲しいという願いが日に日に増しています(*^^*)

約束されたハッピーエンドですが、どうぞ最後までお付き合い下さい……


今日の雑談です〜


更新遅れてすいません(´・ω・`)

もっと頑張ります……

ストックは最初から無くて、一日一話考えてるペースなんです。

許してください🙏


頑張りますのでレビュー★まだの方はよろしくお願いします(>人<;)

応援コメントに励まされてます!

本当にありがとうございます‪( ´•̥  ̫ •̥` )‬

ではまた次話で……

マタネ*˙︶˙*)

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