第18話 友人へのカミングアウト①

音絃と遥花はお互いを名前呼びにするようになってから二日が経ち、いつも通り学校に登校していた。

登校する時は億劫おっくうすぎて途中で引き返そうかと思ったが、なんとか踏ん張って来る事が出来た。


「おはよう我が友よ」


「これから一生お前の事を無視してやろうかギリギリまで迷ったぞ」


「釣れない事言うなよー!ちゃんと秘密にしてやっからさ」


「憂鬱&不幸だ……」


何気ないいつも通りの会話を蓮としているとまたドアの陰から杏凪がこちらを覗いていた。

この前と全く同じ体勢で杏凪がいたので、タイムスリップでもしたのかと訳の分からない事が頭に過ぎったが、そんな訳も無くいつも通り。


「あの顔と手だけの謎の生物は君の知り合いかね?」


「ん?ああ……杏凪来てたのか。こっち来いよ!」


そしてまた二人の世界へと勝手に入っていく。

やはりいつも通りの日常だ。


「蓮くんがそう言うなら……」


杏凪は姿を完全に露わにしてオロオロとしながらこちらに向かってくる。

二つ結びも眼鏡も辞めて休日過ごしていたような感じていればいいのにとつくづく思う。


「蓮くんおはようー今日もかっこいいよ!」


「おはよう。杏凪も世界一可愛いよ」


ここで二人の世界に入っていくのがいつもなら普通だが今日は違っているらしい。


「蓮くん。黒原くん例の件で借りていくね」


「了解だよーって事で行ってらっしゃい音絃」


「いきなりなんだよ」


「いいから黙ってついてくればいいの!」


「へいへい……」


言われるがままに席を立ち、杏凪の背中について行った。

階段を一番上まで上がり屋上に来ると杏凪はようやくこちらを振り向く。

その顔はニヤニヤとしていて期待に満ちあふれていた。


「黒原くん……一昨日はごめんなさい!」


「別に気にして……ないよ」


「気にしてるよね……本当にごめんなさい」


「だから大丈夫だって秘密にしてくれればそれでいいからさ。んで……ここに連れて来たのは別の目的があるんだろ?」


謝罪だけならわざわざここまで来る必要がない。

本当の目的はまた別にあると言う事だ。


「察しがいいね……でもその話も一昨日の事に関する話だよ」


「んで……なんなんだ?話って」


「ねえ……黒原くん。昨日のぬいぐるみに入ってた人って誰なの?」


脳内思考完全停止……のち、瞬時再起動再び。

全く予想だにしていなかった質問に杏凪が何を言っているのか一瞬分からなかった。


「いや……バレてなかったんじゃないのか?」


その純粋な疑問が全ての思考よりも先に出てしまった。

結果、盛大に墓穴を掘る。


「やっぱりそうなんだ!そうなんだよね?!」


杏凪はもう興奮状態でこうなっては蓮にしか止められない。


「ちょっ……違うって!誤解だ誤解!」


音絃は必死の抵抗を試みる。

だが自分で埋めようのない大きな墓穴を掘ってしまった為、その抵抗も意味を成さない。


「もう言い逃れは出来ないよ!ねえ誰なの?!」


「少し落ち着けよ……」


「そうだぜ杏凪。少し落ち着けよ」


「蓮?!」


突如、蓮がこの場に参戦……いや乱入して来た。

やけに察しのいい蓮は最初から気付いていたのかもしれないという仮説が音絃の頭に浮かんだ。


「……蓮。お前気付いてただろ」


「はてさて……なんの事やら」


「なんとなく予想が付いたお前は杏凪に頼んで俺が確信的な情報を引き出すようにしむけたってとこかな?」


「合ってるよ。こういう時だけ察しがいいよなー。友人である俺が言ったら絶対否定するだろうって思ってな」


誰かがいた事がバレるというのは、さほど問題ではない。

蓮がどのくらいまで分かっているかが問題だ。

もし全て知っているのであれば杏凪に遥花の友達になってくれるよう頼みやすくはなる。

だがまだ二人の関係をバラしたくはない。

二人だけの物にしといたいという自分の欲求だ。


「でもさすがに誰かまでは俺でもさっぱり予想が付かないんだよな……。隠さなければいけなかったって事は俺たちが知っている可能性が高いって事くらい?」


「そこまで予想してるのかよ……お前といると個人情報がだだ漏れな気がするよ全く」


たまに一昨日のような暴走はするが、なんだかんだでよく考えてくれている。

だから蓮を信頼しているし、蓮も音絃を信頼してくれている。

二人の関係を二人だけの物にしたいという欲求を優先するのはもう辞めだ。


「誤解は解いとくが別にその人と付き合ってる訳じゃないからな」


「相手は女なのか」


「やっぱり女子だったんだね!」


「いや……男子なら隠す必要ないだろ。ちょっと呼んでみるけど来るか分からんぞ」


何せ遥花はクラス、学校の聖女様だ。

学校では四六時中遥花の周りに人がたむろっている。

そんな中で来てくれるかどうかは分からない。


来てくれないだろうと思いながらもメールをする。

思った以上に返信が早く返ってきて「今すぐ行きます」との事だ。


「今から来るってさー」


「誰なの?!教えてよー」


「俺も気になるんだが……」


「せかすなよ……今から来るんだからさ」


暫くすると階段を早足で駆け上がってくる音が聞こえてきた。

ゆっくりでもいいと伝えたのだが急いで来ているようだ。

蓮と杏凪は目を輝かせて待っている。

階段から見えたのは遥花ではなく猫の着ぐるみを頭に被った女子生徒のようだ。


「音絃くんお待たせしました!」


声を聞いた瞬間中の人が遥花だと分かり少し安心した。

蓮と杏凪の頭上には、はてなマークが浮かんでいる。


「なんでそんな物被ってるんだ?」


「身バレ防止です!これだと誰か分からないですし……」


かえって目立ってるんだが……まあいいや」


「音絃……その声って……お前まさかだよな?」


「黒原くんの相手ってもしかして……」


「そうだ……お察しの通り、学校の聖女様こと白瀬遥花だよ」


遥花が被っていた猫の着ぐるみを取り、素顔を露わにする。

黒く長いあでやかな髪がサラサラと落ちてきてどこまでも深く青い瞳が蓮と杏凪を見る。


「白瀬遥花です。よろしくお願いします」


「そんなに改まらなくていいよ遥花」


「でも話した事ないですし……」


「もう十月も終わりだぞ?なのにまだ話した事がないって逆に凄いな……」


二人で話をしていると蓮と杏凪が全く言葉を発していない事に気付いた。

蓮はまだ今の状況が理解出来ていない様子で、杏凪はさっきからずっと目を輝かせて遥花を見つめている。


こうして二人の関係を蓮と杏凪にだけ知られたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


蓮は実は良い奴なんですよ?

音絃くんが色々溜め込む体質だと言う事を理解しているからわざと吐かせようとします。

友達としてのモラルがないって事はないです!

そのくらいお互いを信用し合ってますので!


雑談です〜

作者はアニメが大好きなのですが推しについて語り合える人求む!

暑いです……熱中症には気を付け……バタンキュ

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