第17話 友人の緊急襲来イベント③

音絃は遥花の肩に毛布をかけた。


「前から言ってるだろ……どうして自分の身体を大切にしてくれないんだ。すぐに自分を傷付けようとするな」


「……私は本当に黒原くんになら……いいって思ってるよ……?」


たった一ヶ月。

人はたった一ヶ月でその人を理解してあげられるのだろうか?

勿論、凡人には分からないし超能力者だって分からない。

超能力者はその人の一生の記憶なんてものを覗けたとしても、その人がどう考えてどう思ったかを完全に理解してあげる事なんて出来ないんだ。


それぞれの考え方や感じ方があってそれは一人一人違う。

それを全て理解してあげられるのは世界中でただ一人、自分だけだ。


これは持論だが、もしそんな人が他にいたらそれは自分と言って差し支えないだろう。


「人の気持ちなんて完全には理解出来ない。でも……これだけは言える」


遥花が今、いだいている気持ちに近いであろう結論。


「『私は黒原くんだけ居てくれればいい』とか思ってるだろ……自分でも分かっているんじゃないか?」


「そうです……黒原くんが居てくれれば私はいいんです!」


「それは違う……!遥花はまだ全く周りを知ろうとしていないだけだろ。お前の見ている世界はあまりにも小さすぎる」


遥花は音絃だけを見て全てを完結させているのだ。それはある意味、音絃という一人の男子だけを見て全てを決めるというのは妥協だきょうと言えるだろう。


「でも……誰かと関わるのは怖いです」


「その時は頼ってくれていい。だから少し頑張ってみないか?」


音絃が今、遥花と一緒にいる意味。

それは遥花が周りにおびえる事なく、自然に生活が出来るようにする手助けの為。

音絃はそう考えている。


「確かに白瀬を狙う男子の中には純粋なお付き合いを望んでいる人がいるかもしれない。だが所詮はけだものだ。勿論、俺も含めての話だ。だからまず女子の友達を作ってみる事から始めようぜ」


「でも……友達の作り方なんて分からないです」


「大丈夫だ。そうだな……都魅とかに話しかけてみたらどうだ?」


「さっき来ていた方ですよね……明るすぎる人はちょっと……」


「それも大丈夫だ。あいつは蓮の前でしかああじゃない。一人の時とか他の人と話す時は普通だから安心していいぞ」


「……黒原くんがそう言うなら……頑張ってみます!」


「そうか……もっと視野を広げて世界を見てみようぜ!俺より良い奴なんて腐る程いる……」


「そんな事ないです!」


遥花は音絃の言葉を途中で遮り、否定の声をあげる。

いきなりの大きな声と遥花の必死の顔に驚いたが、自分の為にここまで真剣に否定してくれた事が正直に嬉しかった。


「俺はそんなに出来た人間じゃないよ」


「黒原くんは自分を過小評価し過ぎです……もっと自分のいい所にも目を向けるべきです!」


より一層真剣な眼差まなざしで遥花はそのまま続ける。


「確かに私は人との関わりは避けてきました。私が人を避けるようになったのはそういう経験をしたからです……。世の中の人間が黒原くんみたいな人でいっぱいな訳がないんです」


自分の事を認められない音絃だが遥花が言っている事はよく分かっていた。

遥花が音絃のいい所を見出して分かってくれる。

それだけで報われた気でいた。


「悪かった……今の提案も無理にとは言わない」


音絃が遥花に言った事はそっくりそのまま自分にも言える事。

音絃にも友人は一人だけ居るが、その他の周りと自分を遮断しているのは遥花と同じだ。


「だが、簡単に自分の身体を男に許そうとするな。自分の身体を大事に出来ない者が他者を守れる訳がない。それだけ言っとく……」


「分かりました……もっと自分を大切にします。それと同じように黒原くんの事も大切にします」


「いや……俺の事は……」


「ダメです!私が決めた事ですから私の自由です。黒原くんがいないとまた一人で過ごさないといけなくなりますからね」


「そう言う事ね……」


「なんだと思ったんですか?教えて下さいよ?」


二ヒヒと小悪魔な笑いを浮かべる遥花はすっかり元に戻ったようだ。

いつも通りの表情に戻った事にほっとしながら音絃はまだ直に目を向けられないでいた。


「そのだな……そろそろ服を着てくれないか?」


キョトンとした遥花は自分の今の姿を忘れているらしく、気付いた時の急に赤くなる顔もいつも通りだ。


「わ、わ、私なんて格好を……なんて事をしようと……」


「いや……今更気付いたんかい」


そしてまた二人で笑い合った。

この普段なら何も無かった日常を笑顔で明るくしてくれた遥花には感謝しかない。

それは返し切れない程の大きな恩を少しづつでも返していけたらなと思う。


羊のもこもこパジャマに着替え終わった遥花はまた少し照れながらこちらを伺っている。


「黒原くん……そのご褒美の話ですけど……」


「そういえばそうだったな……」


すっかり忘れていた。

答えた時は急いでいて、うっかりなんでも言うことを一個聞くと言ってしまった。

とんでもない内容を言われててもあまんじて受け入れる覚悟をしている。


「それで……何がお望みなんだ?」


それを問われた遥花はモジモジとしながらも口を開いた。


「その……ですね……名前で呼んで欲しいです……遥花って……」


「……え?そんなのでいいのか?」


「そんな事って……私にとってはとっても大事な事なんですよ?」


「いや……もっと凄い事を要求ようきゅうされるのかと……」


親しい間柄あいだがらでしか言わないものだと思っていたので呼んでいなかったが、遥花が呼んで欲しいと願うのであればこばむ理由はない。


「私は……音絃くんって呼んでも……いいですか?」


「いいよ、拒む理由なんてないしな……」


「じゃあ音絃くん……私の名前を呼んでくれませんか……?」


遥花が音絃の事を親しい間柄と思ってくれただけだ。

なのになぜだろうか。

呼ぼうとするとどこからか恥ずかしいという感情がいてくるのは。


「…………遥花」


「声が小さくて聞こえませんでしたよ?もう一回言って下さい!」


「……遥花」


「声が小さいです!ちゃんと言ってくれないと……」


グイグイと音絃に近付いていくと肩に顔を乗せて耳元でささやく。

それは小悪魔の声よりも聖女様の声よりも、この世の何よりも甘い声で。


「音絃くんを……私の事しか見れなくしちゃいますよ?」


音絃の身体の体温が急激に上がっていくのを感じた。

耳が……顔が……身体が……心が……熱い。


「……別に……して……もいいぞ……遥花」


「ふふふ……遥花って呼んでくれた……」


「あの……遥花さん?耳元で言われると丸聞こえなんだけど……」


それを伝えると遥花の身体はぷるぷる震え出した。

次に赤くなるのは遥花の番だったようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


はい〜という事で手は出しませんでしたね~

ここで出さないならいつ出すんだ?って思う人もいると思います。

音絃は漢です……理性とかすぐ揺らぎますが手は出しませんよ。

好きな人と合意の上で将来を考えてからじゃないとシないです!


この二人の距離感がコロコロ変わる。

二人の距離間が作者は大好物です……ლ(´ڡ`ლ)


雑談です!

中学時代のアルバムを見返していたら当時好きだった子とのツーショットがあったって話聞く?

以上……

また次話でお会いしましょうか😳

★ВУёヽ(''∀`○)ノВУё☆

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