第13話 聖女様の合鍵
遥花との同居生活も一週間はあっという間に過ぎ、鍵を受け取りに行く日がきた。
二人の一週間は掃除をしたくらいで特に変わった事もなかった。
「なんだか寂しくなるね……」
「帰るって言っても家は隣だろ。それに夕食は一緒なんだから」
「でも……やっぱり寂しいよ」
家に帰ると隣には遥花がいるのが当たり前に思ってしまっていた自分が確かにいた。
まあ、今後も隣にいるのだが……壁越しに。
お昼に遥花の家の鍵を受け取りに行く予定はあるがそれまではまだ時間がある。
だからこうして雑談混じりの話をしながら時間を潰していたのだが、遥花が急にこんな事言い出したのだ。
「露骨にそんな事を言われるとさすがに恥ずかしいんだが……」
「ふぅーん、そうですか。恥ずかしいんですか……」
遥花の怪しい視線を感じてチラッと横を見ると、にまーっとして小悪魔のような笑顔を浮かべていた。
「別にそういう意味ではないからな……」
「そういう意味って……どういう意味ですか?」
「くっ……!」
もう一つ、一週間で変わった事があるとすれば、遥花の事だろう。
音絃との生活にも慣れてきたらしく、今では遠慮する事は少なくなった。
だが遥花の音絃への接し方が少し気になる。
それはある意味、相手に壁を感じないで接する事が出来るようになったとも言っていいが、それにしてもなんというか……大胆なのだ。
「とりあえず鍵の件は一応着いて行ってやるから心配するな……」
「黒原くん話を
「何の事やら」
むぅーと不満そうな顔で見つめられる。
なんというか……それが可愛くて仕方ないのだ。
どっちかと言うと子猫がじゃれてくるのを可愛いと感じるのに似ていると思う。
とにかく表情に出さないようにするのに精一杯で、こうやって上手く切り抜けてはいるが、屈服してしまう時が来るのも時間の問題だろう。
それ程までにこの小悪魔は厄介で、何か言おうにも遥花の楽しそうな顔を目の前にすると言葉が出なくなる。
だから少し寂しい面もあるが、遥花が帰ってくれる事にほっとしてもいる。
暫くは心臓を休めないと持たなそうだ。
正午
音絃と遥花は一週間ぶりに鍵屋へ来ていた。
「本当にすいませんでした……」
店に入るとすぐに音絃と遥花の顔を見るや否や店主が慌てて出てきて謝罪をした。
音絃の祖父、正喜の
「それで出来上がった鍵はこちらです。もし合わなかったらまたお持ち下さい。その時は無料で取り替えをさせて頂きます」
「分かりました」
「代金の方は正喜師匠から貰っていますので結構です」
「ありがとうございました。本当にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
音絃は遥花の鍵の事が気になって個人的に調べていたのだが、思っていた以上に色々分かった。
音絃と遥花が住んでいるマンションの外装は最近工事されたばかりで新築のように見えるが、内装は建てられた時のままだ。
それで玄関のドアは特殊な作りになっていて、マンションの管理者に問い合わせをすればすぐに替えのスペアを買うことが出来る。
しかし遥花はそうせずに市販で買う事にした。
理由はおそらく遥花の親子関係にあるのだろう。
その部屋を買った契約者だけが新規の鍵を貰う事が出来るようになっていて、マンションに住んでいるのは遥花自身だが、そこを買ったのが遥花の親ならば納得がいく。
そこまでして会いたくない理由があるのだろう。
それは早い段階から分かっていたが、敢えて言わなかった。
「お待たせしました!」
「じゃあ帰ろっか」
「そうですね……早く帰って色々しないと」
そして遥花は約一週間ぶりに自分の家に足を踏み入れ、音絃はそれを確認すると家に戻った。
今日からまたベットで寝れるが、その前にタオルケットと枕だけは干しておく必要がある。
夕食を遥花が作りに来るまではまだ時間もあるので少しだけ仮眠を取る事にした。
いくら気を許そうとしようが相手が女性である以上、全ての気を抜ける訳ではない為、少し疲れているようだ。
遥花が来る前に起きるようアラームをセットし、ソファーに寝転がって目を閉じた。
意識はすぐに暗闇の中に落ちていった。
◆◇◆◇◆◆
「ごめんなさい……黒原くん起こしちゃったね」
目を覚ますと遥花がタオルケットをかけようとしていた。
時間は夕食を作り始めるまであるはずなのだが、何故か遥花がいる。
「ありがとう……タオルケットかけてくれて」
「いえいえ。これくらいは普通ですよ!」
音絃が身体を起こすと遥花はその隣に座ってきた。
やけにニコニコしながらこっちを見ているが何か顔にでも付いているのかと触ってみたが、そういう事ではないようだ。
遥花もやっと鍵を作って貰う事が出来て……鍵?
「おい、白瀬……この家にどうやって入った?」
音絃は家に入る時確かにこの手で鍵を閉めた記憶がある。
遥花にスペアを渡した訳でもなく、というかスペアは持っていない。
「えへへ……これです!」
遥花はポケットからある物を取り出した。
鍵だ。
ただし二本持っている。
「黒原くんはこの鍵がどこの物だと思いますか?」
「お前まさか……」
自分のポケットを確認すると確かに自分のは持っていた。
という事は答えは一つ。
「何で白瀬がうちのスペアを持ってるんだ?」
「当たりです。実はですね……」
話を聞いていくと、どうやら犯人は祖父の正喜の
本当に遥花の事を音絃の彼女だと思い込んで、遥花に渡す用でもう一本作らせていたらしい。
遥花もこの鍵を音絃に渡す気は無さそうだ。
「まいっか。合鍵持ってた方が何かと便利だしな」
「これを返す時は黒原くんと縁を切る時にしますね」
音絃もおそらく遥花も縁を切る予定はこの先も無いので実質返さないと言っているのと同じ事だ。
こうして遥花の持ち合わせの鍵は一本増えて二本になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜後書き〜
最近暑いですね〜熱中症には十分に気を付けて下さい。
みたいな真面目な事を書いた方がいいのか
暑いからプール行こうかなって考えてたけど一人で悲しい気持ちになりそうだからやめました〜笑
みたいなのがいいのか……分かんないですけど気ままに書きます。
鍵を重点的に出している事に疑問を持った方がいらっしゃたようですが、この二人にとって出会うきっかけであり、二人の繋がりを表す確かな物なのです。
それが皆さんにも伝わった話ではなかったでしょうか?
引き続きコメントなどドシドシ待ってます。
レビューして頂いた皆様、励みになっております泣
本当にありがとうございます!
まだしていない方もして頂けると嬉しいです!
では次の話で(o・・o)/
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