第10話 聖女様とのこれから②

また夢を見ていた。


昨日見たのは、過去のトラウマを思い出させるような物だったが、今見ていた夢はこれからの遥花との生活を想わせるような幸せな物だった。


二人で食卓を囲んでいて笑顔が絶えない毎日を送る生活をしている。


夢から覚める前に一つだけ見えたものがあった。


食べ物をよそっている遥花の手の一部が、光に反射して光っているように見えたので確かめようとしたが、その前に目が覚めてしまった。


身体を起こすとまだ部屋は明るく、キッチンからは鼻が詰まっていても良い匂いがしてくる。

今日はポトフだと言っていたが、音絃はまだ食べたことがないのでどんな物か気になっている。

嫌いな食べ物は基本的にないのでなんでも食べられるが、初めて食べる物には少し抵抗がある。


「黒原くん起きた?今準備するからちょっと待っててね」


エプロン姿の遥花がキッチンから顔を出していた。

髪をポニーテールにった遥花は、降ろして隠れていたうなじがあらわになって少し魅入ってしまった。

幸い気付かれてはいないようだ。


「おう……ありがとう白瀬」


「言い方は元に戻ったんですね……」


「ん……?どうしたんだ」


「なんでもないですよ。体温計取ってきますから座ってて下さいね」


遥花は何か残念そうな表情でキッチンへと戻って行く。

体温計を取ってくると言っていたが、音絃でさえある場所が分からないのに、仕舞っている場所を知っているのだろうか。

すぐに遥花はこちらを振り向くと少し照れくさそうにしながら苦笑をする。


「黒原くん……体温計ってどこにあるか知らない?」


「やっぱ知らなかったんだな……探すよ」


身体は少し軽くなっているが、未だに頭痛は続いている。

立ち上がろうとするとまだ足元はおぼつかずよろめいてしまった。


「おっと……」


「まだ無理に動いちゃダメです。ちょっと待って下さいね」


「ちょっ……何を」


遥花は顔を近付けたかと思うとほおに手を当て、ひたいを重ね合わせた。

頬に触れた手はひんやり冷たくて気持ち。

触れた額は手のように冷たくはなく、人の体温を感じさせる温かいものだった。

その温かさを吸収したかのように自分の熱が上がっていくのを感じた。


「んーやっぱりまだ熱があるね……食事出来そう?」


「食べてみないと……分からない」


「そっか。じゃあポトフよそうね」


また遥花はキッチンへと姿を消した。

こんな事が続くから慣れて心臓を落ち着かせる事が出来るようになった……訳もなく、音絃の心臓がバクバクと激しく脈打って動き続けている。


(こんな調子じゃ生活もままならないな)


気を抜いて欲しいと言ったにも関わらず、当の自分が気を許していなかった。

だが音絃は遥花を『信じる』と決めてそう心に誓ったのはついさっきの話だ。

誰かから裏切られた事がある人にしか分からないだろうが、そう簡単に出来るようなことではないのだ。

それは遥花だって同じだろう。

知らない事が多過ぎるこの社会の中で誰かを頼るというのはとても勇気がいるはずだ。


「美味い……」


遥花が作ったポトフはとても美味しかった。

野菜の味がしっかり出ていて、ウインナーは噛むと、外はパリッと歯ごたえが良く、中は柔らかく、肉汁が出てジューシーだ。

スープを飲むと野菜の濃いダシが出ていてこれもまた美味い。


「食べれそうですね。お口に合ったようで良かったです」


「めっちゃ美味いよ……実はポトフ食べたの初めてだったんだ」


「そうだったんですか?てっきり食べ慣れているのだと……それにしてもよく食べますね……」


そう言われるのも仕方ない。

音絃は盛られたポトフを直ぐに食べ終えていた。


「美味い物はたくさん食べたくなるもんだろ?」


「私は程々がいいです……太ったら大変ですから」


「女子ってそんなにすぐに太るのか?」


「実際に太った事はないので分かりませんがそれなりの努力はしてます」


長い黒髪のつやもその美しさも途絶えた事はなかったし、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

遥花は理想的な身体だと言えるかもしれない。


「確かに白瀬はモデルみたいな体型をしてるよな」


「そんな事……ないですよ」


「いや……誇っていいと思うぞ。それくらい魅力的だからな」


実際に学校でも『聖女様』や『女神様』と言われるだけはある。

高嶺たかねの花のごとく誰もが憧れ、そして誰も手の届かないような美しい女性。

それは大半の生徒が白瀬に抱いている印象だろう。


「で……さっきからなんで白瀬は食べないんだ?」


さっきから下を向いて食事に手を付けてない。


「お、お、お気になさらず!うぅぅ……恥ずかしい……」


「具合悪いのか?もしかして風邪移したか」


「だ、だ、だから……なんでもないです。そ、そ、そうだ!おかわりいりますか?」


「いや……大丈夫だ。ご馳走様ちそうさまでした」


「お、お、お粗末様そまつさまでした」


これからは遥花の料理を食べる事が出来る。

そして腕前は音絃を育ててくれた母親に並ぶだろう。

複雑な関係や辛い過去から逃げて一人暮らしを始めたが、本当に一人が良かった訳では無いようだ。

この事に気付けたのも白瀬のおかげだ。


「ありがとうな……」


「どうしたんですか?」


「いや……な、ただの気まぐれだ」


「そうですか。やっぱり黒原くんは不思議ですね」


横をチラッと見るとクスクスと遥花が笑っていた。

昨日、生徒玄関前で話した時は警戒するような態度だったが、今では横で気を許して笑ってくれている。

この短い時間がどれだけ濃厚のうこうだったかを物語っていると言えるだろう。


「明日から学校だけど……持ってく物はちゃんとある?」


「金曜日は全教科あったから持ってますよ」


「そういえばそうだったな……」


遥花との会話で一つの疑問が頭に浮かんだ。


「ちょっと気になったんだけどさ……学校での俺との関わり方どう考えてる?」


これはこれからの二人の生活に大きく関わってくる内容だろう。


「え……今と同じ感じでいくつもりですけど」


「ちょっとそれはまずい……」


「どうしてですか?」


「それは……白瀬の学校での立場を考えてみろよ。人との関わりを今まで拒んできた白瀬が、いきなり同じクラスの男子と話すようになったら今の生活があやうくなるかもしれないだろ」


「私がどのような立ち位置にいるかは分かっているつもりです。そうですね……分かりました。学校では他人のふり……ですね」


「ああ……よろしく頼む」


少し悲しそうな様子だったがしょうがない。

本調子ではないので明日の朝までに直しておかなければならないので今日は早めに寝ることにした。

ソファーに再び横になる。


明日からの学校生活に何かしらの変化がある訳でもないのだが、少しだけワクワクしている自分がいる。

高鳴る鼓動と、襲いくる頭痛を抑えながら眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜後書き〜


一人で呟いていきます……


何か質問とかないの〜?

なんでも聞いて〜〜

あ、えっちいのは🙅🏻

まだこの二人には早いから(´・ω・`)


明後日続き出しますね〜明日出せるなら出します!

久しぶりに従兄弟とお出かけします😝


誰か……お話しをしましょう😭

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