第3話

 私の日々は、咲でいっぱいで。でも、咲の日々には、他の誰かもいて。そんなモヤモヤを吹き飛ばすように、私は勉強にも部活にも、いつも以上に力を入れた。

 そんな日々を二か月ほど重ねた、ある日。

 

 いつもと同じように、咲と手を繋いで歩く帰り道。精一杯の笑顔で、いつも通りに話していた、つもりだったのだけれど。


「……ねえ、聖良?最近、なんかあった?」


 時が止まったようだった。何も言えなかった。貼り付けた笑みは凍りついて、心臓の音だけがうるさいくらいに鳴り響いていた。


「聖良?大丈夫、なの……?」


 心配そうに顔を覗き込まれて、ハッとした。そうだ、返事、しなきゃ。

「大丈夫、大丈夫だよ。何もない。あはは、咲らしくないなぁ。急にどうしたの?」

「え、あ、ううん、なんでもない。ならいいんだけど。ごめんね、急に変なこと言っちゃって。」


 我ながら、下手くそな嘘だ。多分咲は、私が大丈夫じゃないことに気づいていた。でも、きっと私のことを信じてくれているから、深く聞かないんだ。きっと、そうなんだ。

 胸が苦しかった。気持ちを伝えてしまいたくて、でも咲の幸せを壊すことなんて絶対に嫌だから。


 私は今日、私の中の私を、檻に閉じ込めることにした。

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