第2話

 毎朝一緒に登校した。クラスは違ったけど、お弁当だって一緒に食べた。休み時間は廊下でおしゃべりをして過ごした。

 登校中、突然咲が私の手を取って微笑んだ時のことは、正直ドキドキしすぎてあまり覚えていない。けど、その抜けるような白肌に浮かぶ美しい笑顔と、綺麗な髪の毛から香るシャンプーの香りが触れた手の暖かさに溶けて、軽い眩暈を覚えるほどに嬉しかったことだけは、頭から離れてくれなかった。


 こんな日々がいつまでも続けばいい、咲が私と一緒にいてくれれば、それでいい。



____そう思って、いたのだけれど。


 ある日、いつもと同じように廊下の端で壁に寄りかかっておしゃべりに花を咲かせている時のこと。

「明日って空いてる?部活も忙しいからしょうがないんだけどさ、もう2週間も遊べてないの、いい加減咲不足だよ〜…」

「あーーごめん!明日はちょっと先約あるんだわー。明後日は?」


 明日はちょっと、と言った咲の顔に朱がさしたのを見て、嫌な予感が胸を掠めた。

 もやもやを抱えながらも咲の提案に首を縦に振った。考えすぎだろうか。いや、考えすぎであってくれ。


「おーい、聖良?どした?」


 咲に声をかけられて、ハッとした。

 そうだ、本人に確認を取ればいいだけの話なのだ。私が考えたところで、答えは出ない。


「ねえ咲?明日は何があるの?」


 勇気を出して、問いかけてみた。

 咲は、先ほどと同じように恥ずかしそうにはにかんで、サラサラの髪の毛先を指先で弄びながら答える。


「…実はさ、聖良には言ってなかったんだけど。付き合ってもうちょっとで1年になる彼氏がいるの。黙ってるつもりはなかったんだよ、ほんとに。」


____嫌な予感、当たっちゃった。

鈍器で殴られたような胸の痛みを必死で隠して、私は精一杯の笑顔を顔に貼り付けた。


「…そっか!いやいや、全然だよ!!私たちもう高校1年生だよ?そりゃ彼氏くらいいてもおかしくないって!ねね、それより惚気聞かせて!」


明るすぎるくらいのテンションで言った。

咲はほっとしたように胸を撫で下ろした。

私の本当の気持ちを、知らないまま。



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