貴女が幸せならば、それで。

茉莉花

第1話 


暑い夏の、放課後。

部活動も終わって、静まり返った教室で。

私は、私たちは、初めてキスをした。


……女の子同士で。




 春。吹奏楽部の見学に行ったときのこと。

 それはきっと、一目惚れだった。


 すらりと長い手足。肩のラインで切りそろえた柔らかな髪。少し茶色がかった美しい瞳。金色に輝くホルンを構えた彼女の表情は、ただ純粋に音楽を愛するもののそれだった。

 体験中のパートの先輩から声をかけられるまで、私はそのしなやかな指と薄い桜色の唇から紡ぎ出される旋律に聴き入っていた。


 そうこうしているうちに体験の時間は終わり、荷物をまとめて帰ろうとしていたとき。

「ねね、君さ、一年生だよね。クラリネットやってたの? 上手だね〜。名前は?」

 突然声をかけられて慌てて振り返ると、そこにいたのは彼女だった。私は頭が真っ白になって、やっとの思いで質問の答えを声にした。

「あ、えっと……名前は、聖良、です……。

クラリネットは、中学校の吹奏楽部で、3年間……」

「へえぇ、そう。いやぁ、絶対高校でもやった方がいいって。すっごい綺麗な音してるよ。あたしは咲。中学も吹部で、ホルンやってた。よろしく、聖良」


 そう言って咲は微笑んだ。

 嬉しかった。話せたのも、クラリネットを褒めてもらえたのも、名前を呼んでもらえたのも、全部嬉しかった。

 もっと、彼女のことを知りたいと思った。

 そんな思いも叶ってか、咲と仲良くなるのに時間はかからなかった。

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