第23話 励みたまえ、人間よ


「ぷはぁ~」

「たまにはビールもいいわねぇ!」


 顔よりもデカイ大ジョッキを一気飲みする外見小学生のメリーさん

 この世界では15歳で成人なので一応合法....


 なお、入店時に必ず身分証を確認されてる


 俺は気になっていることがあった

 "火の祝福"を持ったという奴についてだ

 何故あそこまでざわつくのかわからなかったからだ


「メリーさん、"火の祝福"を持った人がうわさになってたじゃないですか」

「そんなすごいことなんですか?」


「ああ、タダノは異邦人だもんね、いまいちピンと来ないのね」

「原初の神の祝福を受けた人間は漏れなく英雄になってるの」

「だから新しい英雄候補の登場に世間は沸き立ってるのよ」


 過去にも原初の神の祝福持った奴がいて、そいつらは皆すごいことした

 それで今回も期待を寄せられていると...

 俺が同じ立場ならプレッシャーが鬱陶しくなりそうだなぁ


「歴代の祝福受けた人たちってそんなすごかったんですか?」


「そうね、1000年前ぐらい前から始まるらしい話なんだけどね」

「最初の一人は死の神の祝福を持った人間だったそうよ」

「人間以外のありとあらゆる生物に死をもたらし、人類の生存圏を大幅に広げた」

「もともとはの生存圏は、小さな集落きぼだったらしいわ」

「でも、その人による開拓と発掘のおかげで中央の全区域の開拓が出来るようになったらしいわ」

「だから開拓者と発掘家の祖とも言われているわ」


 また物騒なやり方だ

 しかし、中央全区域というと、日本地図でいう所の北海道と同等の大きさになる

 小さな集落から始まったとしたらそのヤバさが理解できる


「次に水の神の祝福を持った人ね」

「800年ほど前に生まれたらしいわ」

「北方の全域を一人で開拓した英雄ね」

「また、彼女は海の底に沈んだ過去の都市を丸々浮上させた」

「それが北方の首都である水上都市ね」


 北方、4方位の地方の中で、唯一海を主とする地方だ。

 水上都市があるなんて初耳だが、いつか行ってみたいな

 それにしても、個人で地方を開拓するレベルになるのか...


「最後に500年前に現れた知恵の神の祝福を持った英雄」

「世界に魔石の理論を普及させて、文明レベルを大幅に引き上げたのよ」


 最後の一人は文化的英雄なのか

 ただ、魔石の使い方ひとつで、前世よりも便利な世の中になっているのは事実だ


「それ以外にも、空間魔法による輸送法の発案や通信魔法を開発してるわね」

「ちなみにこの人だけは現存してるわ」

「名前は"カースト・ベルテル・シュタインバーク"って名前ね」

「歴史の教科書に何度も出るせいで長い名前もみんな覚えてるぐらいね」


 ん?ん????????

 何か聞いたことある名前なんだけど

 他人の空似かもしれない













「ちなみに、中央のどこかに住んでるとか...」

「なんでも黒髪長髪の眼鏡のイケメンらしいわよ!」


 あいつだあああああああああ

 小指折られた人だわ、確定だよ...

 名が通ったなんてレベルじゃないだろ


「過去の英雄はこんなものね」

「そんなわけで、みんな期待してるのよ」


 過去に三人か...

 埋もれただけでもっと居そうなもんだけどなぁ


「しかも、その"火の祝福"を持った奴はたった1ヵ月で中級開拓者になったのよ」

「いやになるわよねぇ」

「私達でも1年以上かかったのに、それを一カ月って....」


「こればっかりは仕方ないよ」

「開拓者は個々人の戦闘力重視だからね」


 メリーさん達が2年かけたことを1ヶ月で成し遂げた

 確かに自信なくすよなぁ

 この二人は連携による強さはあるけど、個々人でずば抜けてるわけではないからな


「ちなみに、中級開拓者ってどのぐらい凄いんですか?」

「開拓者の事って全然知らないんでよくわからないっす」


 気になったので、メリーさんに質問してみた


「大体、二級・三級発掘家の間ぐらいって考えればいいかもね」


 つまりは、俺より若干上的な感じなのかな?

 俺は1ヵ月で三級発掘家になったわけだし


「というか、開拓者も階級とかあるんですね」


「そうね、開拓者は上級、中級、下級の三階級に分かれてるのよ」

「上級は一級の発掘家と同じぐらいね」


 括りとしては大雑把だが、発掘家も開拓者も等級があることは一緒なんだな


「特級相当ってないんですか」


「ないわね」

「上級開拓者の中の"通り名"持ちだったら実力的に対等かしら?」


「"通り名"ですか?」


「そう、すごい功績を残した上級開拓者の名称みたいなものね」

「有名所だと"一刀断絶"とか"独り艦隊"なんていうのがあるわ」


 なんというか、そう呼ばれる方が恥ずかしそうだな

 聞いてる俺からすると背中がざわつく感じのセンスだと思う


「てか、こんな話なんてどうでもいいわ!」

「私はお酒が飲みたいのよ!ビールお替り!」

「タダノも飲みなさいな!」


「ちょ、俺はお酒はにが...むぐぅ」


 メリーさんにビールを無理矢理、口に流し込まれた


 ・

 ・

 ・



 俺は飲み屋をあとにして、酔いの気持ち悪さからベッドに倒れこむように眠りに付いた

















「ちーっす!」


 ちーす....


「元気ないわね、折角の神託タイムなのに」


 あるわけないだろ、何で夢の中まで悪酔いしそうなものに出会わなきゃいけないんだ

 う...なんかお前の顔見てたら吐きそう...


「ちょっとやめてよ、私は女神よ!」

「女神の顔見て吐くとか失礼極まりないじゃない!!!!!」

「それやられたら流石に泣くわよ、泣いちゃうわよ!?」


 うるせぇ、だったらこんな状態の時によびだすんじゃねぇ


「私だって、今回は好きで呼び出したわけじゃないわよ」

「貴方に会いたいって神がいるのよ」


 そう言うと、今までは何もいなかった空間に、とても長い髪をした少年が片膝を立てるように座っていた...

 服装は、古代ローマ風なチュニックを着ている


 どこぞのバ神と違って服を着ている

 やっぱ痴女だったんだなコイツ 「チガウワヨ」


 思考に対して突っ込みをいれてくるなよ


「やぁやぁ、初めましてタダノ君」

「僕は火の神さ」

「今日は君に会いたくてシュヴィに呼んでもらったんだ」

「シュヴィもありがとうね」


「ヒーちゃんの頼みだからね!」


 原初の神の一柱なのか...

 火の神だからヒーちゃんなのか?



 して、なぜに火の神様は俺に会いに来たんです?


「いやぁね、僕の祝福をあげた子が転移してね」

「時の神に聞いたら、遠くない未来に君達が出会うそうなんだ」

「だから、先に挨拶しようと思ってね」

「体調悪そうなところごめんねー」


 なんというか、子供思いな親のような神だ

 どこぞの緑の馬鹿とはまるで違う


「ハハ、君はシュヴィと仲が良いみたいだね」

「人間と神の壁が無いように見える」

「僕としては羨ましくなるよ」


 仲が良い?御冗談を

 壁がないというよりも、そこの神(自称)が神として全くの威厳が無いからこうなってるわけですし...


「威厳アリアリよ!」

「アンタが敬ってないだけでしょー!」


 敬う要素がない奴を敬う理由がないだけだよ






「良い関係だね、本当に、本当に...」


 俺のシュヴィの痴話げんかを横で聞いていた火の神様は小さな声でつぶやいていた

 その表情は羨望か、少しの悲しみのような感情が読み取れるような複雑な顔だった


「そうそう、タダノ君に一つ神託を与えよう」

「会ってくれたお礼だと思ってくれ」


 神託?火の神様からですか?


「うん、最初に話したのとは別件でね」

「時の神に見てもらったんだ」


 別件ですか....


「オッホン」


 火の神様は、少年のような見た目からは想像つかないほどの厳格な顔つきで俺に語り掛けた。












「今、世界を混乱させる種が巻かれている」

「それらは発芽し、いつか必ず君に害を与えるだろう」

「今の君では運命の手綱は握れない」

「何よりも強くなれ」

「何よりも挑め」

「何よりも死を超えろ」

「そうすれば、君は理不尽を道理に還れるだろう」


「励みたまえ、人間よ」


 ・

 ・

 ・


 目が覚めると俺は二日酔いだった

 ただ、火の神様が言い残した言葉だけは、深く深くと心の底に残っていた


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