第22話 心地の良いものではない

「魔力を操れなかった人や今やってる教育から逃げた人がどうなるかと言ったね」

「正直に言うと特に何もないよ」

「お金があれば暮らしていけるからね」

「君だって最初に魔力が無い人用の宿に泊まっていただろ?」


「たしかに...」


「ただし、その宿に泊まり続ける金銭をどう稼ぐかが問題なのさ」

「基本的に、魔力を使わない労働は賃金が安い」

「そして、魔力を使用しない宿の料金はかなり高い」

「だから、教養も能力もない人間は宿に泊まり続けることが難しくなる」

「結果として、大半は借金をするね」


「しかし、お金を借りるにしても借りれるんですか?」

「ああいうのは、信頼関係がないと難しいでしょう?」


 前世でもあったが、お金を借りる場合は審査や保証人といったような”回収できる見込みがある人間にしか貸さない”制度がある


「いや、貸すとも」

「そして、生活苦から借金するような状態の人間は返済能力なんてないよ」

「結果としては、返済見込み無しとみなされる」

「するとね、強制労働者としていろいろな場所に売られるね」


 売ることを前提に置いているから貸せるのか

 つまり、最初から元取る算段あるから貸せると


「魔法契約により労働を強制的に行い、逃げられなくなる」

「ちなみに、軽犯罪者とかも強制労働者になったりするよ」

「犯罪者場合は、契約で魔力の行使を禁止されたりするかな」


 奴隷制度か

 仕方ないと言えば仕方ないけども...


「ミレイナさん」

「強制労働者ってどんな場所で働くことになるんですか?」


「それは、人によるね」

「顔が良ければ、男も女も都市部の娼館勤め」

「それ以外なら男は農村や炭鉱、採石とかかな?」

「顔の悪い女は、農村や炭鉱、採石場の安い娼館になるね」


 どの世界のども時代も、過酷な労働は奴隷にやらせることに行きつくのか

 前世でも、昔の時代ならまかり通る世の中もあった...


「ちなみに安い娼館では避妊は出来ない、文字通り生む機械になるよ」

「この世界の人口は非常に不安定だからね...」


 うーん、前世の倫理観が拒否反応を示す内容だな

 でも、この世界においてはそれが常識になるんだろうか...


「ちなみに、炭鉱とかで生まれた子供はどうなるんですか?」


 奴隷の子供は奴隷とかいう話を聞いたことあったが、この世界ではどうなんだろうか


「子供は、孤児院や教育施設へ送られる」

「そこで、社会常識や戦闘訓練なんかを学んで、成人したら社会へ出ることになるね」


 すこしほっとした

 借金漬けになった奴は同情しきれないが、子供はそういった目に合わないならそれでいい気もした


「まぁ、今言った内容は何も異邦人に限定した話じゃない」

「この世界生まれの原住民だって借金して落ちぶれたらそうなるさ」

「それに、強制労働者になってもお金さえ返せれば戻ってこれる」

「さらに言うなら、戻ってくる際にもう一度講習とかを受ける機会もある」

「この世界が落ちぶれた人間に差し伸べられる手はこれぐらいだね」


「あともう一つ質問あります」

「病気やケガ、年齢などで働けなくなった場合はどうなるんですか?」


 この問いに対し、しばしの沈黙の後にミレイナさんは口を開いた


「....」

「死ぬしかないね」

「この世界は働けないものを養うほどの余力はないからね...」



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 というわけで、彼らの将来はほぼ絶望に近い状態となる

 俺のように、異邦人として冒険者の安定基盤を手に入れているとなると嫉妬、やり場のない憎悪などがこっちに向けられるんだろう


 心地の良いものではない




「ちょっと何よ?」

「 文句があるなら正面から言ったらどう?」


 メリーちゃんが石切り作業員たちに正面から食って掛かった


「何でもねぇよ、クソガキが...」

 作業員は一言呟くと逃げるようにその場を去っていった



「なによアイツ!私だってもう成人なんだけど!!!!」


 やっぱ気にしてたんだなぁ、外見小学生...



 そのあと俺とグルドさんは、気性が荒くなったメリーちゃんを宥めながら護衛の依頼を全うした



 ・

 ・

 ・


 依頼を終え、俺たちはギルドに帰ってきた


「もう強制労働者とかかわるのは無しね!」

「次からはもっと自分たちで好きにできる依頼にするわ!」


 まぁ、俺としてもありがたい


「んじゃ、あたしは受付に依頼達成の報告してくるから」

「アンタたちはロビーで待ってなさい」

「今日は飲みに行くわよ...」


 ヤサぐれメリーさん、外見に似合わずウィスキーロックを一気飲みするタイプ







 メリーさんと別れたと、護衛依頼で狩った魔物の魔石を換金したのちに、俺とグルドさんはロビーで座って装備の手入れをしていた


 しかし、何やらロビーが騒がしいことに気が付いた

 いつもと違って少しざわついている...?


「なんか騒がしいみたいだね...?」

「なにかあったのかな?」


 異変にはグルドさんも気が付いていたようだ


「報告してきたわよー」


 俺とグルドさんが二人して首をかしげているとメリーちゃんが帰ってきた


「アンタたち、なんで首曲げてんのよ...」


「いや、ロビーがざわついているなぁと思いまして」


「ああ、それね」

「さっき受付の人と話したら聞いたんだけどね」

「出たらしいわよ、"火の祝福"を持った人間がね」








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