第20話 非現実すぎる光景がそこには広がっていたのだ

 中央商業区域、この世界でも最も商業が盛んとされている

 東西南北の四方からの潤沢な資源が一斉に集まる関係で、品目も量も充実しており、この区域で揃わないものはこの世界に存在しないものと言われるほどである


 実は、俺の泊まってる宿屋もこの商業区の端に位置している。

 とはいっても、宿屋や大衆飲食店や色町などが中心となっているエリアになっている。


 今日俺が来たエリアは商業区の中心に位置する場所だ。

 このエリアは大きく二つに分かれており、個人が自由に店を出せるバザー区域と商業・生産系のギルドが軒を連ねる商店街の二つに分かれている。


 それぞれにメリットデメリットがある

 個人店では品質は保証されない代わりに、安価で物を買うことができる。ポーションなどの薬品は凄腕の個人店の方が効能もよく値段も安いという店もあるそうだ。しかし、品質の安定性はなく、日によっては粗悪な物が売りに出されることもあるとか...


 ギルド加盟の店では品質の水準が定められており、一定品質の物を常に買うことが出来るが相場はどの店でも一定となっている


 とりあえず、怖いもの見たさにバザー区域に来てみたのだが...



 なんというか、お祭りの縁日や、冬や夏に開催する薄い本の祭典に近く、とても賑わっている。

 かなり大きな広場に小さな屋台などがひしめき合い、小物や本や食べ物など、ジャンルを問わずに店主が好きなものを好きなように売るといった状態になっている。



 ・

 ・

 ・


 一通り歩いてみたのだが、半数以上が食品だった。

 俺の両手にも串焼きやら饅頭やらで埋まっている


 この世界、食に関しては前世よりも良いのだ...

 異邦人が沢山いるというのもあるのだろうが、飯はめちゃくちゃ旨い

 和洋折衷なんでもござれと言わんばかりラインナップが屋台のみで揃っている


「おやおや、タダノさん」

「こんなところで会うとは!奇遇ですね!」


 銀髪の女性が話しかけてきた

 見たことあるような気がするが思い出せない


「む、その顔は私を忘れてしまったのですね」

「ヒイラギですよ?装備を見繕ってあげたじゃないですか!」


 ああ!移動装備屋の人か!

 屋台にしか印象に残ってないせいで、全く思い出せなかった

 というか、いまだに移動装備屋というものが解らないだよな


 ヒイラギさんはあの時とは違い、軽い布の服を着ており、ザ・私服といった感じだった。片手には饅頭を持っており、彼女も休日の買い物に来たといった感じだろうか...?


「ああ、ヒイラギさん」

「その節はお世話になりました」


「ええ、貴方も一早く三級に上がれたようでなによりです」

「装備を支給した私としても鼻が少し高いですよ」


 彼女は鼻の頭を擦りながら嬉しそうにしていた。

 まて、昨日上がったばかりなのに何故三級になった話が広まってるんだ?


「ヒイラギさん随分とお耳が早いのですね」

「昨日の事なのに、もう知られているとは...」


「私は商人ギルド所属なのですから、その手の情報はいち早く届くんですよ!」

「あと、タダノさんは少しだけ有名人になってるからね」


 ああ、確かにこの首の光っているネックレスを付けたまま四級から三級に上がれば悪目立ちもするのかもなぁ


「"首切り"って有名ですよ?」

「笑いながら色んなモンスターの首を両断してるヤバい奴がいるってもっぱらの噂ですよ」


 何それ初耳!?

 首切って笑った記憶ないんですけど!?


「まぁ、噂にも特級発掘家の秘蔵っ子だとか、ミレイナのヤバい教え子シリーズとかいろいろ背びれ尾びれがついているようだけどね」


 背びれ尾びれが本体では?

 秘蔵っ子でもなければヤバくもないが


「そ、そんな噂があるんですね...」


「ところで、タダノさんは今日は観光ですか?」

「それとも何かお探しのものでも?」


「そうですね、魔道具や魔石の加工について本や店をさがしてますかね」


「その割には両手は別の物で埋まってるようですが...」

 ヒイラギさんは俺の両手の食べ物凝視していた


 ・

 ・

 ・


「はい、ということで私一押しの魔道具店です!」


 あの後、一通り雑談をしたら市街地をヒイラギさんに案内してもらうこととなった

 そして、おすすめの魔道具店があるとのことでついてきたのだが...

 案内された場所は、市街地やバザー区域から少し離れ、こじんまりとした広場の端っこのテントだった。5人ほどしか入れないような小型のものだった。


「あの、これが魔道具店なんでしょうか...?」


「はい、個人店ですからね」

「商業区の大通りには店を構えたくないとのことで」

「このような場所で開いているんですよ」

「まぁ、入ってからお話ししましょうか!」


 そういってヒイラギさんがそそくさとテントの中へ入って行ってしまった

 本当に大丈夫なんだろうか...

 そう思いながら俺もテントの中に足を運んだ。












 そこにはテントとは比較にならないほどの空間が広がって居た。

 広さは大型のスーパーのような広さだろうか、とてつもなく広い空間だった


 そこには様々な棚が並んでおり、様々な商品が置かれている

 薬品類、煙を上げる謎の玉、武器なんかも置いてあるようだ


 高さも凄まじく、天井まではゆうに30メートルはあるかもしれないほど高く、

 壁にはびっしりと本が収納されており、人が半透明な足場に乗り本を物色している様が見られる


 非現実すぎる光景がそこには広がっていたのだ。


「やぁやぁ、カースト魔法商店へようこそ」


 黒髪長髪の眼鏡を掛けた優しそうな男性がこちらに声をかけてきた。

 ローブに身を包み、いかにも魔法使いと言った風貌だった


「ストさんどうもです!」


「いらっしゃい、ヒイラギ君」

「付き添いがいるとは珍しいね」

「もしかしてこれかい?」


 そう言うと長髪の男性が小指を突き立てヒイラギさんに見せつけていた


「違いますよ」


 ヒイラギさんはニコニコしながら男の小指を掴むと、曲がらない方向へと指をへし曲げた


「ノオオオオオォォォォォ」

 長髪の男性は叫び悶えながら地面を転がっていた


「あ、あのヒイラギさん...?」


「あーすいません、ここはそこに転がってるセクハラ眼鏡のお店です」

「名前はカースト、名の通った魔道具師です」

「あんなのですが、腕は確かなのですよ...」


 本当に残念そうな顔をしながらヒイラギさんは男性を紹介してくれた


「まったく、ひどいね」

「小粋なジョークを言っただけなのに指を折るなんて」


「貴方ならあれぐらい問題ないですよね」


「痛いんだよぉおお」

「折れた感覚も結構気持ち悪いんだよ?」


 ケロッとしながらカーストさんが立ち上がり、その時には折れていた小指は治っていた


「しかし、ヒイラギ君」

「この店はあまり人に知られたくないということは知ってるよね」

「連れてきたということは、それなりの理由があるのかな?」


 そうだったのか、通りで広場の端でお店とは思えない佇まいのテントが置いてあるはずだ

 あのテントを見て入ろうってなる人がいないとは思っていたが、わざとそういう風貌にしてたようだ

 なぜにヒイラギさんはこんな隠れ家的な場所に連れてきたんだろうか、俺も気になる






「いえ、特にないですけど」

「ただ、おすすめの魔道具店知りたいって事だったので」


 カーストさんは思わず呆けた顔をしている


 少しすると、カーストさんは真面目な顔に切り替わりこちらを見てきた

「オッホン、えーと、君名前は?」


「タダノです」


「そうか、タダノ君か」

「君にはこの店を利用する前にいくつか質問に答えてもらうよ!」

「僕の店に相応しいか品定めしてあげよう!」


 なんて図々しい店主なんだ...




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る