第18話 これは完全なる俺のエゴだ

 昇級試験を受けた。

 内容としては【"キラータイガーの魔石を5個納品"】というものだった


 示された遺跡に行くと見覚えがある遺跡だった。

 それは、初めてベルティアさんに連れられてきた大穴の中の遺跡


 名前から予想していたが、やはりあの虎の魔石が目標だった



「ここが目的の遺跡みたいね」

「しかし、"キラータイガー"って今までの遺跡のモンスターに比べると別格に強いわよ?」

「あんなの5体も狩るって結構厳しい昇級試験よね」


「うん、そうだね」

「僕らなら問題ないだろうけど、ロビーにたむろしているような発掘家ではね...」


 メリーさんとグルドさんが話している。

 たぶん、ギルドの四級で止まる発掘家の大半がこの試験で挫折しているのだろう

 あの虎を倒すというのは並大抵のことではないようだ


「あの...グルドさん、メリーさん」

「お願いしたいことがあるのですがいいでしょうか」


「ん?どうしたの?タダノ」


「一匹だけでいいので、"キラータイガー"と一人で戦いたいのですがいいでしょうか?」


 これは完全なる俺のエゴだ

 あの時はベルティアさんが間に入ってうやむやになった


 でも、今は違う

 あの虎を一人で倒したいのだ


「危ないわよ?」

「貴方じゃ死ぬかもしれないわ、それでも戦いたいの?」


 理屈とかは一切ない。ただ感情だけで、あの虎に勝ちたいのだ

 俺は、どうしようもなく負けず嫌いなんだ

 だからこそ、確信を持って言える


「戦いたいです」


「そう...わかったわ」

「グルドは?」


「本人の意思ならいいと思うよ」

「ただし条件が一つあるかな」


 ・

 ・

 ・


 グルドさんの出した条件は1つ

 4匹はグルドさんとメリーさん二人で倒す。

 そして、最後の1匹だけは俺一人で戦うことだった。


 グルドさん曰く、1人で倒すのならば万全の状態で対峙してほしいとのことだった

 俺はこの世界に来てつくづくいい人達と出会えていると思う


 洞窟の最奥への道すがら、すでに4頭の虎を二人は狩っていた。

 やはり、この二人は強い


 元々、大量の敵を相手取る必要があったため、俺がパーティーに入っていた

 しかし、単体でしか出会うことのない虎に対して、二人の連携に俺が入る余地は一切なかった。

 完璧な役割分担と連携でひたすらに最短効率で敵を倒していたのだ









 そして、遺跡の最奥に着いた

 そこは小さな広場のような場所になっていた。

 広場の奥には一匹の虎がいるようだ。


「それじゃ、任せたわよ!タダノ!」


「タダノ、僕たちは君が負ける直前まで絶対に手出しをしないよ」

「頑張ってくれ」



「ありがとうございます」


 広場の入口の時点で、彼女たちは足を止め、俺の背を押すように見送りの言葉を掛けた

 武器を鞘から抜き出し、万全の状態をもってして、俺だけが広場の中心に向かうように歩みだした


 広場で横になっていた虎もこちらに気が付き、立ち上がる

 牙を剥き出しにし、唾液を滴らせ、喉奥から低い音を響かせている


 虎は、あの時と同じように、爪を地面に食い込ませて跳躍の準備をしている。

 一歩間違えば死ぬ、そんな一撃がこちらに向けて放たれようとしている


 虎と俺は同時に動き出した




「タダノ...」

「アイツ、無茶するわね」

「一歩間違えば死んでたじゃない」


「一歩目は死に近づくけど、その先にしか勝ち筋は無い」

「タダノは文字道理死に物狂いで勝機を掴もうとしてるんだ」





 俺は、前に一歩踏み出した

 以前とは違う、誰が逃げてやるものか

 虎の跳躍に合わせて、虎に向かって飛び込んだのだ

 虎は飛び掛かりながら、右腕を振り上げ引っ搔こうとしていた。

 当たる手前で、飛び越すように上に飛び、すれ違いざまに虎の右肩を切りつけてやった


 堅い...!

 分厚い毛皮と筋肉に覆われている

 今までのトカゲや鹿と違い、肉質からして切り辛く感じた。

 虎には肩が毛に若干血がにじむ程度の傷しか与えていないようだった


 でも、敵の動きも見える

 俺も相手と同じように動くことが出来る

 俺も相手にダメージを与えられるようになっている。


 今まで足りなかったピースが一つ一つ埋まっていく

 勝機はゼロじゃない、絶対に勝ってみせる




 呼吸を整える


 虎はこちらの様子をうかがっている

 反撃したが故に、警戒を生んでしまったのだろう


 こちらから一歩踏み出す

 虎の右側面に飛んだが、虎はこちらの動きに合わせて側面を取らしてはくれない

 なので、構わずに虎の射程に踏み込んだ。


 虎は利き腕であろう右手をこちらに向けて振りかざしてきた

 カウンターを合わせ、振り下ろした右腕を切りつけ一歩下がった



「右腕を必要にねらってるわね」

「正直、効率悪いわよね?」


「うん」

「彼ならもっとダメージの通りやすい場所を狙いに行けるだろうに」

「理由はわからないけど、また何か別の事狙ってるんじゃないかな?」


 ・

 ・

 ・


 そのあとも、幾度もヒットアンドアウェイを続けながら右腕を切りつけた


 虎の右腕はすでに血が滴り落ちる程度には損傷している

 虎は改めて、爪を地面に食い込ませて跳躍の準備をしている

 先ほどとは変わり、右腕からは血が噴き出すほど力を貯め、姿勢も以前よりさらに低い

 次の一撃で決める気だろう。


 虎は全力の力で地面を蹴りこちらへ跳躍した。







 俺は動かずに、納刀した。

 狙ってることはただ一つ、首を狩る


 ウサギを殺めた時に思ったんだ。

 奪う側として、もう苦しませて奪うことはしたくない

 だから、一瞬で終わらせる


 することは居合、トカゲやいろいろなモンスターで幾度も練習を重ねた

 素人目の見様見真似だが、多分俺が使える技で一番切ることに特化した業だろう


 跳躍し、虎の振りかざした右腕が眼前へと迫ってくる


 俺は、左腕で虎の腕を止めた

 ただ、この一瞬のためだけに、虎の利き腕を何度も傷つけた

 それでもなお重い一撃だが、魔力を全開に回せば止めれない攻撃ではない


 俺は虎の腕をはじき、左手を鞘に添え、右手で柄を握り、姿勢を整えた

 刃を虎の喉元目掛けて、右腕を振るった


 しかし、その時確信してしまう

 この一撃では虎を仕留められない

 近づいて初めてわかる虎の首の肉厚さ

 鹿などとは比べ物にならない太さがあり、それはすべて重圧な筋肉と骨により作られていると確信してしまったのだ



















『魔力を纏うのではなく、筋肉の形を意識、体に流し込むのだッッッ!』


 ふと、サデスさんの言葉を思い出した。

 今までは、体や刀に魔力を満たすように魔力を使っていた


 でも、サデスさんが言ってたことは違う

【形を意識】する

 刀の形を、刃の形状を、刃先を、切先を

 自分の使っていた刀に合わせて魔力をかたど


 器に満たすのではなく、魔力を用いて刀を作り上げるかのように形作る


 そしてそれを振りぬいた













 刹那の一閃、振り返れば大きな魔石が転がっていた


 俺は、あの虎を一人で狩れたのだ








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