第16話 俺は、この世界に来てもう何度吐いたか覚えていなかった

「ふぅ、連携は大丈夫そうね」


 トカゲ5匹同時討伐を3回ほど繰り返し、連携の確かめを行っていた。

 ぶっちゃけ、楽だ。

 メリーちゃんも呪文が変なものの、実力は十分

 グルドさんに至っては確実に四級の実力とは思えないほどの大盾使いだ


「さて、本命の狩場にいくわよ!」

「タダノ、滅茶苦茶忙しくなるからよろしくね」


「いいですが、どれぐらい忙しくなりますかね?」


「今までは5匹ぐらい同時だったけど、次は20匹同時ね」

「グルドなら15匹ぐらいは余裕で引き留められるわ」

「でも、漏れてきちゃう分をあなたに頼みたいの」


 一気に多くなるな...

 まぁ、5匹ぐらいなら問題なさそうだな

「それぐらいなら、行けると思います」


「そう来なくっちゃ!」

「大抵の発掘家はこれだけでビビっちゃうのよ」


 不満そうな顔でメリーちゃんは愚痴を零していた

 役割がはっきりしている分、できない人はどんどん脱落していくんだろう

 このパーティーは寄生する暇なんてないわけだからな


 あと、ミレイナさんがそれとなく言っていたが、普通の異邦人は祝福や魔法を用いて遠距離で戦うのが大半らしい

 近接のアタッカーを求めるこのパーティーには普通の異邦人では相性が悪かったのだろう...

 だからメンバーが集まらなかったんだろうな


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 トカゲを20匹相手にしたのだが、特に変わりなく倒せた。

 想定よりも多くこちらにトカゲが来たが、そもそもそこまで強くないので苦戦する要素がなかったのだ。


 今は、次の沸き時間まで休憩とのことだ。

 メリーちゃんはモンスターの出るタイミングを把握しているみたいだった


「グルド、アンタ本当に当たり引いてきたわね」


「うん、彼は今日が初日とは思えないね」


 軽い雑談が始まった。


「性格に難があるパーティーと聞きましたが全然問題ないので、こっちも助かってますね」


「あー、メリーは役に立たないって判断すると当りがキツくなるんだ」

「そのせいで悪評が絶えなくなってしまってね」


「昇級する気ないのにパーティーに来るのが悪いわ!」


 この二人なら寄生されて大変だったのだろう...


「それにしても、お二人は結成一カ月にしては随分と仲がよろしいんですね」

 歴戦の戦友のような雰囲気を出しているし、知識も1ヵ月で身に付くそれではない気がする


「あー、そうね」

「私たち、元々は東部で2年ぐらい開拓者やってたのよ」

「グルドとはそのよしみでね」


 東部、確か大森林が広がっているとかだっけな?

 魔獣や大型の虫、肉食性植物なんかが出るそうだ

 都市としては薬学や医学が発展しているとか本で読んだ気がする


「結構なベテランじゃないですか」

「なんで中央で発掘家に転向を?」


「もともと私とグルドと後2人いた4人パーティーだったんだけど、2人が結婚してねぇ」

「それを期に引退しちゃったのよ」

「で、グルドと話して、発掘家やってみようって事になってここに来てるの」



 渋々とグルドさんが口を開いた

「発掘家ってロマンあるよねぇ」

「東部は森だらけでロマンのかけらもないから...」


 











 そんな話をしてるさなかだった、後ろから物音がする

 音を聞いた途端に二人は戦闘態勢に入り、若干遅れながら俺も戦闘態勢に入った。


「おかしいわね、まだ沸き時間にはゆとりがあったと思うんだけど...?」


 メリーちゃんがぶつぶつと呟いている

 すると物陰から今までのトカゲとは2倍ほど大きな赤いトカゲが出てきた


「あら、レアモンスターよ!」

「ラッキーね、あれは”ベビーレッドーリザード”」

「口から火球を吐き出してくるわ」

「でも、高い魔石を落とすのよ」


 あのサイズでベビーってことはデカい個体もいるのだろうか...


「タダノ、戦ってみる?」

「私とグルドは普通に倒せるし、腕試しってことで?」


「いいんですか?レアなんですよね?」


「僕らは構わないよ」

「ヤバそうだったら、手助けするさ」


「それじゃあ、やらせていただきます」


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 基本的には最初に倒したトカゲと同じ

 側面に回って頭上から攻撃する


 まずはトカゲの側面へ付くために、跳躍をする



 着地した途端だった。長い尾を鞭のようにしならせこちらを叩きつける

 とっさに籠手でガードしたが、骨に響くような振動が腕に響いていた




 再度トカゲの側面へ飛び込んだ。


 またしても尾で攻撃してくるだろう

 だから、あえてトカゲの間合いに深く飛び込んだ


 鞭というものは、先端部分が当たることで強い衝撃を生むことが出来る

 逆を言えば、先端部分に当たらなければダメージはそこまで食らわない

 ましてや、生物の尻尾だ。柔軟性は武器としての鞭より数段劣る

 だからこそ、距離を詰めることで無力化できる


 そのまま、飛び上がり頭上を取った

 これで首一本








 その時だった。

 トカゲの首は180度回転してこちらをギョロリと見つめていた


 トカゲの口からは微かな火の粉が漏れ出ていた。

 そのまま口を大きく開けると、俺の視界は淡いオレンジの光に包まれた




















 全身を一気に魔力で覆い、防御態勢を作り上げて火球を正面から受けた。

 熱い、熱いけど、我慢できる...!

 魔力による防御上昇はミレイナさんとの訓練でさんざんやった


 そのおかげか、トカゲの放った火球は体感で言うなら50度ぐらいのシャワー浴びてるような熱さに感じるぐらいだった





 そして俺は、火球を正面から受けながらも、そのままトカゲの首を刈り取った


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「君は無茶な戦い方をするねぇ...」


「まぁ、倒したのだから結果オーライよ」

「ケガはやけどぐらいかしら?」


「ちょっと顔や腕回りがヒリついてますね」


「はい、タダノこれどうぞ!」

 メリーちゃんは満面の笑みでこちらに緑の液体が入った瓶を渡してきた

 ポーションである。


 あのゲロ不味いポーションである


「いやー、ちょっとしたやけどですから、わざわざ飲む必要ないですよ」


「タダノ、発掘に油断は禁物よ」

「飲みなさい」


 絶対飲みたくないと思って、グルドさんの方を見た


 するとグルドさんは若干の笑みをこぼしながら親指を突き立てた





 ちくしょう、こんな世界嫌いだ

 俺は、この世界に来て何度吐いたかもう覚えていなかった





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