第12話 なんて殺人的な猫パンチなんだ...
洞窟を進んで数分の出来事だった
目の前にはモンスターがいた
「鹿型の魔物だな」
「この遺跡は動物型の魔物が多く出る」
「角に気を付ければさほど強くはないぞ」
ベルティアさんは軽く解説してくれた。
立派な角をもった牡鹿だ、体格は角を含めても人間大の大きさだ。
前世の神社などにいる鹿よりも二回りほど大きい個体になる
鹿はこちら目掛けて突進をしてくる。
ウサギのトップスピードには及ばないが、道路を走る自動車ほどの速度は出ているだろう
「さっさと片付けろよ、タダノ」
そう言い残してベルティアさんの姿形は消え去った。
多分、隠密系の魔法でも使ったのだろう
とりあえず目の前に迫っている鹿の攻撃を避けた。
が、服の端が、鹿の角に軽く引っかかったのだろうか
胴体の重心を持っていかれそうになった。
危ない、角の当たり判定の大きさを舐めていた。
ウサギや人との組手では体験しなかったが、体格差や爪や牙や角がある場合は大振りによけた方がよさそうだ。
どう攻略したものか...
鹿の角を切るほどの能力は俺には無い
突進の勢いを利用してカウンターをするにしても、鹿は頭を下げて姿勢で突進してくるため、頭蓋や角といった硬い部分にしか攻撃は当てれなそうだ
となると突進した後に体制を立て直すタイミングだな
すでに体制を立て直した鹿が、再度こちらに突進してきた。
大振りで避けると同時に、すぐさま自分の姿勢を立て直す
鹿が突進をやめた後、体をこちらに向けようと行動した。
足に魔力を満たし、全力で地面を蹴った。
鹿とは10メートルほど離れていただろうか、しかしその距離は一歩にして縮まる
俺自身も、車とは言わないが、自転車のトップスピードくらいは瞬時に出せるようになっていたらしい
跳躍した勢いを利用し、腕に魔力を満たし、武器にも魔力を満たした。
狙うは頸椎、最悪神経に届けば動けなくなるはず。
間合いに入った瞬間、鹿よりも低い姿勢を保ち、そのまま鹿の首に向けて刀を掬い上げた。
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「まぁ上出来と言っておこう」
気付くとベルティアさんが背後に立っていた。
俺は鹿の首を切断出来たのだ。
正直、骨は切断出来ないと思っていたのだ。
「意識したのか知らんが、武器にも魔力を満たしたのはファインプレーだ」
「武器に魔力を満たせば、切れ味も耐久も上がるからな」
「あれがなかったら骨で止まっていただろうし、刀も刃こぼれしてただろう」
「自分でも切れると思ってなかったんで....あれ?」
鹿の死体が消えていた。
さっきまで足元にあったはずなのに、跡形もなかったのだ。
その代わりに、小さな赤い宝石のようなものが落ちていた
「ベルティアさん、死体がなくなったのですが...」
「ああ、さっきの鹿は魔物だからな、そこに落ちてる魔石が本体だぞ」
「動物型のモンスターは大きな区分として2種類ある」
「魔物と魔獣だ」
「魔獣はオオウサギが代表的だな」
「動物が魔力を得て狂暴化、巨大化したような状態を指すんだ」
「今の鹿は魔物だ」
「魔物は体内に魔石があり、魔力で体を形成している」
「だから死ぬと体は消え、魔石だけ残るんだ」
なるほど
以前から、遺跡からモンスターが"沸く"って表現が気になってたのだが、文字通りに沸いて出てくるんだろうな
石が発生源ならば、増え方は繁殖ではないわけだからな。
「その魔石は拾っておけよ」
「用途も多いし、換金もできるぞ」
「わかりました」
魔石、確か魔法をすぐ打てるような道具にしたり出来るんだっけか
数集まったら色々試してみたいな
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そのあとも、遺跡の奥に進んでいったのだが
鹿、鹿、鹿、鹿、鹿って感じに、鹿しか出なかった。
もう8匹ぐらい狩ってますよ
だんだん手付きも慣れてきたしな
あとは、生物じゃないって所が大きい
精神的な負担がウサギに比べたらとても楽なのだ。
「む、あの角曲がると魔物がいるな」
「ベルティアさん感が鋭いですね」
「今度コツを教えてやる」
「それじゃ、任せたぞ」
そういうと、ベルティアさんは姿を消した。
どうせまた鹿なのだろう
曲がり角からひょっこりと顔を出して推定鹿を目視してみた。
鋭い牙、鋭い爪、黒と黄色の特徴的な縞模様
ほかの生物とは一線を画した強靭な四足歩行の肉体
完全に虎じゃねぇか!!?
こいつ虎だよ!
出来れば鹿であってほしかった...
そんなことを考えながら観察していると、ふと虎と目が合った。
虎はこちらに気付き、体制を整えていた。
肉体から危険信号が出るの感じた。
バックステップでその場から即座に離れた
次の瞬間には、俺が顔を出していた場所は爆発をしたかのようになっていた。
虎が爪で攻撃したのである。
攻撃した場所には、壁が抉れ、人の顔よりも大きな爪痕が残っていた。
なんて殺人的な猫パンチなんだ...
文字通り人を殺せる威力をしている。
攻撃速度も、鹿の比じゃない
虎の体躯には全くに似つかわしくない速さだ
正しく目視できたわけではないが、ウサギのトップスピードより速いのではないだろうか
身体に残った魔力を極限まで全身に満たした。
何時攻撃が来ても避けれるようにするためだ
虎が再び突撃体制に入る
戦いのときに相手から目を逸らしてはいけない。
仕掛けるタイミングの時に、目の動きや呼吸が変わるのだ。
故に先読みでギリギリ避けられる
はずなのだが、一拍の差で虎の方が早かった。
大振りに避けたはずだった。全身を魔力で満たしガードをしたはずだった。
しかし、右腕の防具は大破、腕からは少量だが出血していた。
死ぬかもしれない
でも、まだ体は動く
幸い腕は軽傷だ
そして、ベルティアさんとサデスさんに威圧された時よりも怖くない。
だからまだ戦える
そう思って態勢を立て直した。
「はい、ストップ」
俺と虎の間にベルティアさんが現れた
「タダノ、その目は何?まだ戦うつもり?」
「死ぬ可能性が出た時点で引け馬鹿」
ベルティアさんは俺を叱ってくれていたのだろう
でも、その言葉は全く頭に入ってこなかった。
「ベルティアさん!後ろ!」
彼女の背後にはすでに腕を振り下ろさんとする虎がいたのだった。
「話を聞け、タダノ」
「これぐらい問題ない」
彼女は片腕で虎の全力の振り下ろしを防いでいた。
あろうことか、彼女は振り下ろされた腕をそのままつかみ、壁に思いきり投げつけたのだ
ダンジョン全体が揺れるような振動が響いた。
投げつけられた虎はすでに魔石に変わっていたようだった。
「反省会の時間だ、この馬鹿」
俺は初遺跡の最奥で正座させられていた。
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