第10話 気付くと俺は、マッチョメンにお姫様抱っこされてた

 というわけで、俺はミレイナさんに連れられて発掘家ギルドに来たわけだが...


 発掘家ギルド、街中では二回りほど大きな二階建ての建物だった。

 入り口を入ると受付があるようで、ミレイナさんは受付の女性と話し込んでいるようだ。


「やぁ、ひさしぶりだね、今日は教え子連れて見学に来たのさ」


「ミレイナさん、何度も言いますがここは学校ではないのですよ?」


 なんか揉めてない?


「なぁに、今回は一階、二階には用ないよ」

「彼を三階に連れて行ってみたいんだよ」


「えぇ!?それは...いいんですかね?教え子の方大丈夫ですか...?」


「大丈夫、大丈夫。」

「私の旧知の知人に会って紹介するだけさ」

「別に問題ないだろう?」


 めっちゃニコニコしてるミレイナさんとは対照的に受付の人は顔を引きつらせていた

 俺をどこに連れて行こうとしてるんだ、この人は...


「まぁ、一二階の人たちは基本的にピリピリしてるので、そちらの方々に刺激をかけないのでしたら...」

「一応書類に記入だけはお願いしますね、お連れの方も含めて」


「流石、話が解るね!」

「タダノ君、さっさとこの書類に記載したまえ」


 俺は事務手続きを行い、ミレイナさんとともに建物の上階へと上がるのだった。


 ・

 ・

 ・


 道中の階段、ミレイナさんに質問を投げかけた


「この建物の三階ってなにがあるんですか?」


「特級発掘家専用のロビーさ」


「特級発掘家?」


「ああ、発掘家には等級があってね」

「四級から始まり一級まで区別されてる」

「そこまでは実力の世界だ」

「特級というのは、実力と実績があり、国からの認可があって初めてなれる等級さ」


「滅茶苦茶、すごい人たちなのでは...?」


「まぁ、この世界の人類の最高峰が13人いるぐらいだね」

「気軽にいってみよう!」


 そう話している間だった。

 建物ににつかない重厚な扉が目の前にはあった。


「さぁ、ついたよ」

「ここが三階ロビーの入口だ」


 思わず生唾を飲み込みそうになった次の瞬間だった


「たのもー!!!」


 ミレイナさんが扉を乱暴に蹴飛ばして開けたのである

 何してんのこの人!?












 敵意

 始めてウサギと戦った時だっただろうか、その時に感じた背筋の凍るような感覚


 ただ、その時と明確に違うことが一つあった。

 圧倒的な実力差によるプレッシャーの重さの差だ。


 一瞬にして全身から脂汗がにじみ出る

 思わず、足が弛緩して姿勢を崩しそうになる

 意識ではなく体が勝手に反応してしまう。


 だから、意識を持ってして魔力で体を御して体制を立て直した。

 怖いからこそ生存を優先に考えた結果である。

 震えながらでも、前を見ていつでも逃げれるように構えたのだ。




 次の瞬間だった、圧倒的な威圧感は消え去った。


「おいミレイナ!扉蹴るなよ」


「びっくりしたじゃないか」


 扉の奥からミレイナさんに注意する声がいくつか聞こえてきた。


「いやーごめんごめん、気さくな挨拶が必要かと思ってね」


 ミレイナさんはいつものようにヘラヘラとしている



「って、おい」

「君、大丈夫かね?ひどい汗と震えじゃないか?」

「中にソファーがある、ひとまずそこまで運んであげよう!」


 なんだこの人、尋常じゃないほどのマッチョだ

 もうなんていうか、地上最強の生物的な筋肉してる

 2メートルはあろう身長に筋肉隆々な肉体ので笑顔が特徴的なモヒカンがこっちに迫ってきたのだ...


「ふははは、安心したまえ、私は敵ではないよ」


 ニコニコとしながらゆっくりとこっちに近づいてくる

 敵意がないのは明白だ。

 ただ、なんというか怖い、すごく怖い

 前世でも笑顔のガチムチ大柄な男に迫られた経験は俺にはない

 別の意味で脂汗と震えが止まらなくなりそうだった







 気付くと俺は、マッチョメンにお姫様抱っこされてた。

 なにこれすっごい恥ずかしい


 そのまま室内にあったソファーに座らされた。

 ミレイナさんもいつの間にかソファーに座っていた。

 部屋の中にはミレイナさんと俺以外には2人しかいないようだった。


 ミレイナさん、なぜ笑いを堪えているのですか...


「ミレイナ、誰だそいつは?」


 ミレイナさんの横に座っていた女性が問いかける

 顔の傷が特徴的な灰色の髪をした女性だった。

 露出は少ない、タイツのようなぴっちりとした服の上から動きを阻害しない軽装の鎧を着ている。

 服の上からわかるほど、腹筋はバキバキに割れているようだ...


「プッ...ウクク...」

「か、彼は、私の教え子だよ」


 笑いを堪えながらミレイナさんは答えていた。

 この人割と畜生なんじゃないだろうか...?


「うむ、素質がありそうな子ではないか」

「割とガチで威圧したが、気絶しない、座り込まない、漏らさない」

「満点じゃないか!」


 なぜか隣に座った大柄のモヒカンが、俺の肩をパンパンと叩きながら褒めてくれているようだ。

 というか、漏らすレベルにヤバい威圧をわかってやってたのかよ


 そうしてる合間に、ミレイナさんが呼吸を整えて口を開いた。


「コホン、改めて紹介しようか」

「彼は教え子のタダノ君だ」

「今日は、職場体験という名目で、君たちに可愛がってもらうために来たよ」


「ほほう...!」

「へぇ...」


 怖いお姉さんと怖い筋肉さんが笑っておられる

 可愛がりとかいう言葉に不穏さしか感じられない


「タダノ君、この筋肉モヒカンは"サデス"だ」

「で、こっちのぴっちりタイツ痴女が"ベルティア"だ」


「おい、ミレイナ、私は知女ではないぞ」


「いや、君は痴女だよ」


「私は知女だったのか... もしかして私は頭が良いのか?」


 完全に話がかみ合ってなさそうだ。

 とりあえず、ミレイナさんと仲が良い人たちだということはわかった。

 そしてベルティアさんはちょっと頭が緩いこともわかった


「で、今日彼を連れてきた理由なんだがね」

「サデスとベティの発掘家の技術の彼に教えてあげてほしいんだ」


「いやいや、ミレイナさんちょっと待ってください」

「このお二方は国でも13人しかいない特級発掘家なんですよね?」

「そんな方々のお時間を取るのはいかがなものかと...」

「あと、俺は発掘家になるとか言ってないですが、なんか進路決められてません?」


「アレー?言ってなかったけ?」

「というのは冗談で、君の成長速度を考えると彼らに教えてもらうのが効率的かなぁと思ってね」

「あと、彼らに君の面倒を押し付ける間に、君用の教材とか集めたりしておきたいんだよねぇ」


 あ、そっちが本音なんっすね

 教材を用意する余裕なかったんだろう

 今思えば、転移してからずっと付きっ切りで訓練とかしてくれてたしなぁ


「それにね、時間を取るのは問題ないと思うよ」


「うむ、任せたまえ!」

「暇だからな、一人ぐらい面倒見てやるよ」


 えぇ...

 人類の最高峰めっちゃ気さくだな、おい

 というか、暇なんかい!


「タダノ君、特級発掘家というのはね、国が認めるくらい国に貢献したお人よしの実力者がなるものなんだよ」

「だから基本的にはお人よし集団だよ、彼らは」


「ま、問題なさそうだね」

「ということで私は一足先に帰らせてもらうよ」

「タダノ君、まぁ頑張ってくれたまえ」


「ちょ、ミレイナさーん!?先に帰るんですか!?」


 ミレイナさんはそそくさと部屋を後にしたのだった。





 そこにはまたしても、怖いお姉さんと怖い筋肉さんが笑っておられた


「お手柔らかにお願いします...」




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