第8話 座学② 魔法と祝福 前編

「よし、今日の授業をはじめようか」


 ミレイナさんは今日もドヤ顔だ


「ところで、何を食べてるんだい...?」


「ちくわです」

 祝福で好きな時に好きなだけ出せるようになったのだ。


「なしてちくわを...」


「いやー、実は突然祝福が生えてきまして...」

「ミレイナさんも食べます?」

 そういって俺は右手からちくわを出した。

 直接渡すのもあれなので、出したうえで魔力で宙に浮かせた


「あ、あぁ、折角だし頂こうか。神様からの贈り物なわけだしね...」


 ミレイナさんは宙に浮いたちくわを神妙な顔をしながら受け取って口にした。


「む、これかなり美味しいじゃないか!」

 そう、旨いのである。

 流石神様といったところか、はんぺんもちくわも絶品の美味しさだった。


「ちなみに左手からははんぺん出せますけど食べますか?」


「ぜひ頂こう!」

 先ほどのようにはんぺんを渡した。


「うんまい!」

 ミレイナさんには好評のようだ。

 サンキュー二柱!


「君は練り物の神様にでも気に入られたのかね...?」

「まぁ、食糧難を回避できるというのは、発掘でも開拓でも重宝されるだろうね」

「地味にいい祝福をもらったようでなによりだ。」


 地味だが本当に役には立つんだよなぁ


「まぁ、祝福を手に入れたみたいだし、今日は魔法と祝福について学ぼうか」


 ・

 ・

 ・


「祝福と魔法についてだが、まずは魔法から学ぼうか」


 魔力の大雑把な使い方は理解したが、魔法はまた別の区分の技術らしい。

 魔力は結構感覚的なもので、手を動かすみたいに見えない何かをなんとなく操作したり形作ったりできる。道具や肉体に纏わせれば強度が上がったり、威力があがったりする。

 魔力の操作を一通り体で理解してからは、ウサギ狩りもかなり効率が良くなった実感もある。

 体に纏うと、体感で普段の1.3倍くらいの速度で動けるし、ウサギの体当たりも割と耐えれるようになったのだ。


「魔力の使い方は実感していると思うが、魔法というのは魔力を使用して現象を具現化する力なんだ」

「例えば、魔力を水に変換したり、電気に変換したりできる」

「軽くお手本を見せてあげよう」


 そういうとミレイナさんは空に手を掲げた。


「『神に祈るは恵みなる水、我が手元に奇跡を賜り給え』」


 すると、ミレイナさんの手の平から水がぶくぶくと溢れてきたのだ。


「と、このように魔法は魔力から物体の生成ができる」


 ミレイナさん、ここいちのドヤ顔が決まっている

 俺は思わず感嘆の声をあげつつ、拍手をしてしまった。



「ミレイナさん、さっき呪文みたいのを唱えてましたが、やっぱりいろんな呪文があったりするんですか?」


 ファンタジーだとよくあるけどさ、あんな長い呪文覚えられんのよ

 それに、生死を掛けた場所でちんたら唱えてられんよなぁ



「いや、要らないよ」

 そういいながら、ミレイナさんは手のひらから噴水のように水を出して見せた。


「えぇ...要らないんすか」

 さっきまでボロクソに思っていたが、無いとそれはそれでロマンがない


「魔法っていうのはさ結果をイメージするのが大切なのさ」

「イメージした結果に対して、正確な魔力を注いであげる」

「それだけで魔法は使えるのさ」


「それではさっきはなぜ呪文を?」


「うん、良い質問だ。」

「それは、イメージの固定化がしやすいからだよ」

「ぶっちゃけると、無くてもイメージさえしっかりと固まっていれば問題はないんだよ」

「でもね、生死が掛かった場面で、安定して魔法を打つためには呪文を唱えるように特定の行動をしてイメージをしっかり固定しないと駄目なんだ」


 ああ、なるほど

 ルーティーンみたいなものなんだ

 スポーツ選手は本番の試合の際に、練習と同じパフォーマンスを出すために、必ず同じ所作をしてメンタルを安定させ、練習と本番で同じ結果を出せるようにする

 それを言葉に置き換えたのがミレイナさんの呪文なのだ


「ちなみに、私のは呪文じゃなくて祈りだ」

「両親が敬虔でね、私もそれにあやかって神に祈ることで安定した魔法を打てるようにしてるのさ」

「まぁ、魔法の所作はかなり自由なんだ。踊りや歌、手で印を結ぶなんて所作もあるね」


 吟遊詩人、踊り子、忍者、みんな同じ原理で技を使ってる世界なのか


「まぁ、最初は自分に合ったものを探しながら固定化させていくと良いよ」

「あ、でも短いのはダメだよ!それでよく転移者が死ぬんだ」

「短い技名みたいなのを叫んで魔法を放つんだが、イメージがフワフワしていて、土壇場で精密なイメージが出来なくなるんだ」

「それで、暴発したり、不発になったりして死ぬ転移者がいるんだよ...」


 まぁ、言われなかった俺もやっていたかもしれない...

 エターナルフォースブリザードなんてロマンがあるからな


「ということでやってみようか」

「まずは手のひらから水を出すことからだね」

「最初に、より正確に『水』という物質を思い浮かべる」

「次にその水を掌から出すようにイメージする」

「最後にその水を再現できるように魔力を注ぎ込んであげる」

「さぁ、やってみたまえ!」



 より正確に『水』

 水道の蛇口、学校のプール、橋の下を流れる小川

 身近にあった水を連想する。

 透き通り、流れ、物を浮かせ流す液体。


 水を掌から出す

 きっと爽やかな感覚を俺の手に与え、手の隙間をすり抜けてさらさらと地面へと流れ落ちるだろう


 そして、魔力で水の動きを再現するかのように手に流し込む。






 すると次の瞬間には、想像通りの冷やりとした清水が手から溢れ出てきた。


「うぉ...!?」


 思わず驚いてイメージを切らしてしまった。

 その途端に水は消え去ってしまった。


「うん、一回目で成功とは上出来だよ」

「ついでにイメージが切れた時の感覚も掴めたよね?」


 切れた瞬間には水は出なくなっていた。

 幻を見ていたかと思ったが、手は確かに濡れている。

 本当に湧き出て、そして消えたのである。


「なるほど、イメージを維持することは確かに大変そうですね...」


 動きながら精密にイメージするなんてなおの事難しいのだろう

 たしかに、これは呪文や踊りや歌や印が必要になるわけだ。


「その通り、とても大変なのさ」

「でもね、それを補助する道具ももちろんあるよ」

「たとえば、宿屋のシャワーやトイレなんかもそれで動いてるね」


 たしかに、この世界では日常的に使うものは魔力を込めるだけで勝手に動作する。

 中世な街並みに対して、水洗トイレがあることも驚いたが、それ以上に衝撃的だったのを覚えている。

 念じるだけで勝手に水量から温度など調節できるのだ


「あれはね、内部に魔石が埋め込まれているのさ」

「魔石というのは今度詳しく説明するが、イメージの記憶装置みたいなものでね」

「魔法のイメージを記憶させることで、魔力を通すとその通りに魔法を生み出せる石があるのさ」


 はぇー便利だなぁ


「ちなみに、魔石の大きさや質で、記憶できるイメージの数や魔力に対する耐久度がかわるんだ」

「小さな魔石にすごい魔法を仕込んでも、魔力に対する耐久度がないと壊れるし」

「覚えさせられるイメージ量も少ないから1~2種類しか打てなくなる」

「だから、魔法使いの杖とかには大きな魔石が仕込んであったりする」

「逆に戦士とかは、小さな指輪に魔石を仕込んで、最低限の魔法だけ使えるようにしたりしてるね」


 なるほど、魔石の大きさにも意味があると


「まぁ、魔法の説明はこのくらいかなー」

「あとの詳しいことや、魔法のイメージの仕方は自分で調べたまえ」

「気になることがあったら本とか見繕ってあげるからね」


 ありがたいかぎりだ。




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