第5話 ミレイナさんは割とアホなのかもしれない

 日課のウサギ狩りを終え、ミレイナさんと食事をしていた。


「ウサギも随分慣れたものだね」


「まぁ、毎日2,3頭も戦わせられたら慣れますよ」


 ここ4日は毎日戦闘訓練をしている

 魔力を纏った戦い方や、剣の扱い方もミレイナさんに指導を受けている


 ミレイナさん曰く、「私が教えられるのは初歩の初歩程度」とのことだ


「おう、ミレイナ!久しぶりだな」


 屈強そうな女性兵士がミレイナさんに声をかけてきた。

 フルプレートを着込んでおり露出はない。

 赤髪の短髪、脇に抱えたヘルムを見るに、装着時に邪魔にならない髪型にしているのだろう


「カーシャ、久しぶりだね」

「貴方がここに来るのも珍しい」


「ああ、所要でなぁ…」

「あとここ飯は旨いからな」

「ミレイナ、隣良いかな?」


「どうぞどうぞ」

 ミレイナさんはニコニコとしながらジェスチャーしている


「タダノ君、彼女は"西部騎士団"の団長をしているカーシャだ。」

「カーシャ、彼はタダノだ。異邦人で私が今教導している教え子だ。」


 ミレイナさんによってお互い紹介される


「君もなかなか大変な師を持つことになったな」

「ミレイナは気に入った人材は教え殺すぐらい鍛えるからな」

「気に入られ過ぎないようにな」


 まぁ、ミレイナさんはスパルタだよなぁ


「殺すなんて勿体ない」

「才能を伸ばせるだけ伸ばしているだけさ」

「それに彼は逸材だ、今までの授業じゃ足りないくらいだよ」


「遅かったか・・・」

 カーシャさんが軽く頭を抱えていた。


「まぁ、入れ込むこと悪いとは言わんが、実戦や技術だけじゃなく、知識も教えるんだぞ?」

「前にも座学やり忘れたとかして叱られてたろミレイナ?」


 座学...?

 受けたこと無いな


 ふと、ミレイナさんに視線を合わせた。

 ニコニコ顔のまま額に汗を浮かべている。

 あっ、この人忘れてたんだな


「まぁ、訓練所に来るくらいだ、座学はすでにおえているんだよなぁ?ミレイナ?」


 そこにはひたすら目線を合わせないミレイナさんがいた。


「多少順番が前後しただけさ、気にすることじゃないよ」


「やっぱりか...」

 カーシャさんがため息をついている


「彼が適応能力高すぎるのが悪いんだよ」

「スポンジのように教えたこと吸収するし、教えてない事も勝手に覚えるんだよ!」


 それは言い訳になっていないんじゃないだろうか?

 まぁ、前世で色んな事やりすぎたせいか、飲み込みが早いのは以前からの特技みたいなものだ。


 それに、魔力も剣術も初めての分野だ。

 宿に帰ってもついつい自主的に練習してしまう。

 初めてやることは楽しくて辞められなくなってしまう性分なのだ。


「お前がそこまで入れ込むのも珍しいな」

「だが、言い訳は駄目だ」

「ちゃんと座学もしてやるのだぞ?」


「ああ、わかったよ」

「タダノ君、残念ながら明日から座学も追加だ」


 追加なんですね、他のこと減らしたりはしないんですね...

 減ることなく積まれてゆく授業だ

 しかし、ミレイナさんが珍しく不貞腐れた顔をしている


「君なら捌ききれるだろ?」 


「問題ないと思いますね」

 嘘ではない、自主練する時間を勉強に当てれば良いのだから


「二つ返事で承諾するのも良くないぞ、タダノ君」

「そいつは出来ると分れば出来るだけやらせてくるからな」


 知ってます

 まぁ、ブラックな企業だとザラにあるからなぁ

 むしろ残業が無いだけ楽まであるかもしれない


「というか、彼はここに来てどれぐらい立つのだ?」


「まだ二週間経ってないね」


 そういえばそうだったな

 魔力も剣術もウサギも初めての経験すぎて時間感覚が狂ってたな

 新鮮な体験ばかりでとても長い時間過ごしてた錯覚をしていた。


「二週間?」

「でもその飯はオオウサギだろ」

「って事はもう彼はウサギ狩り出来るのか?」


「もう四日目だよ」


 カーシャさんは少し驚いたような顔をしていた

 物覚えは早いと自負はあるが、そんなになのか?


「そんなに早い方なんですか?」


「普通は兎狩りを始めるまでには2ヶ月程かかるからな」


 座学をすっ飛ばしたとはいえ、早いな

 というか、他の異邦人が不甲斐ないだろ


 ウサギはともかく、魔力の扱いはそんなに難しくない。

 現に、この世界だと小学生以下の子供ですら出来るのだから


 というか、この世界来て鏡見て気付いたんだが、俺の前世から変質してるんだよな

 なんか髪の色も黒から茶色になってるし、瞳の色も少し変ってた

 あの変な神がなんかやらかしたんじゃないかと思う


「まぁ、彼は他の異邦人より年齢があるからね」

「年の功というのもあるさ」


「まぁ、それもそうか」


 それに年の功程度で納得するくらいには特別なことではないのだろう

 しかし、他の異邦人はやっぱり年齢低いのか


「他の異邦人の方って何歳ぐらいで来たりするんですか?」


「大体13〜18位が多いな」


 カーシャさんが答えてくれた。

 中高生が送られてくる中で、社会人来たらそりゃあ珍しいものだ。


 あのバ神様見る感じだと、選別にルールとか無さそうだけどなぁ

 神様側が好き勝手に選んで送ってる感じそうだが...


「タダノ君は20超えてるだろ?」


「まぁ、そうですね」

 俺は前世では22歳だった。


 続けて呆れ顔なミレイナさんは口を開いた。

「普通の異邦人はね、なんというか好き勝手に動いたり、勘違いが多いんだよ」

「魔力覚えたら、体作りとかせずにすぐ魔法を使いたがったりする」

「魔力の総量は体力にも比例するから体作りも大切な要素の一つと説明しても聞いてくれないしね」

「子供だから仕方ないのだろうけどねぇ」


 まぁ、気持ちはわからんでもない。

 魔法がある世界に来たのならば、誰だって魔法使いに憧れるものだ

 ましてや、多感な時期の中高生ならなおの事だろう



「そういえば、タダノ君はこれだけ早く訓練をしているのだ、やはり"発掘家"志望なのか?」


 カーシャさんが問いかけてきた。

 そういえば、何になりたいとか考えてなかったし、聞かれてもなかったな。

 毎日が充実していたせいか、将来の事すら考えから抜け落ちていた


「特に考えてないですね、というか志望を聞かれてすらないですし」


「おい、ミレイナ」

 カーシャさんはミレイナさんを睨んでいる

 それに対して、ミレイナさんは一向に目を合わせようとしなかった

 ミレイナさんは割とアホなのかもしれない。

 割とインテリよりな見た目をしている割に、教え方も脳筋に近い部分がある。


「さ、些細なことじゃないか」

「最低限の自衛手段を教えているだけだからね」


 まぁ、そういうことにしておこう

 心なしか声が震えてるように聞こえるが...


 カーシャさんはまたしてもため息をついている。


「まぁ、彼女も悪気があるわけではないのだ」

「タダノ君、いろいろ苦労はあるだろうが付き合ってやってくれ...」


 ミレイナさん的には10割善意で教えてくれてると思う


「ええ、こちらとしても良い先生と思ってますからね」

「これからもよろしくお願いしたいところです」

 ミレイナさんは最低限の基礎は教えてくれるし、その深め方も教えてくれるタイプだ

 最初から答えを教えるのではなく、自分で探せるようにヒントだけ渡してくれる。

 そういった手法の方が俺もやりやすい。

 だから、教師と生徒という関係では俺とミレイナさんの相性は良いとはいえるだろう


 それを横で聞いていたミレイナさんは当然のようにドヤ顔だった。


 ・

 ・

 ・


 宿に帰り、一通りの自主練を終えたのちにベットに横たわった。

 明日から座学も始まる。だからいつもよりも多めに自主練を行った。

 当分時間が削られるから出来るうちにやっておかなければならない。


 それもあってか疲れがピークになりすぐに寝付けてしまった....



 ・

 ・

 ・




















「ハローハロー、タダノ君」


 気が付くと目の前にはあのバ神っぽい女がいた。

 悪夢ならマジで早く覚めてほしい

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